167話
でも目の前でぷんすこしている美少女戦士ヒルデシアちゃんがあんまり可愛いものだから貴重なお時間を食い潰すこともやぶさかじゃない。
僕はにやにやして彼女のうなじを眺めた。
「あれ? もしかして嫉妬してる?」
「ばっ……!」
その途端、赤みがおさまりかけていたヒルデの顔が爆発した。
額から流れ落ちる汗が蒸発してしゅーしゅーいっている。
その点に関していえばヒルデもわりと人間やめてるよねえ。
振り返った彼女はこっちに何かを叫びそうになったが、それを咽喉を鳴らすことで嚥下したようだ。
ジト目で睨んできたヒルデは僕を指でビシッと指摘した。
「わ、わわわ、悪いか! 私が、姫さまに嫉妬して、悪いのか! 姫さまばかりに優しくするきさまにそれを咎める権利はあるのかぁっ! 姫さまばかりっ! うるさいっ! わかってるんだっ! だがこんな気持ちは初めてなんだから仕方ないだろうがっ! だから悪いのはぜんぶきさまだっ! 違うのかっ!」
「おや」
「何が、おやだっ! そんな一言で片付ける気かっ!」
「落ち着けよ。つまりなに。きみは僕に優しくされたいわけだ」
「………………うぅうぅううぅうぅ。そうだ。優しくしろ、ばか」
「やだ」
「はああああああああああああああああああああああっ!?」
「まあ、そんなどうでもいいことは置いといて」
「どうでもいいことだとっ!?」
殴りかかってきたヒルデにデコピンして黙らせる。
そして、おでこを押さえて転げまわる彼女に僕は上から言葉を投げた。
「僕がユーリに優しくしてるようにみえるのは彼女が弱い生き物だからだぜ? きみだって捨て犬がいたら、そういう愛護の心が芽吹くだろ。その辺の野生動物だって捕食対象以外のか弱い生物がいたら慈愛だってわくさ。それと同じだ」
「……弱い? 姫さまが?」
四つん這いで見上げてくる涙目のヒルデのおでこは赤くなっていた。
こんな状況と相手が僕じゃなかったら、たぶん彼女は押し倒されているだろう。
でもこんな状況で僕だからこそ何もイベントは起こらない。
彼女の胸部にたわわと実ってる二つの果実に何も感慨わかないしね。
その代わり、そんな彼女から視線を外して僕は攻め登ってくる魔族たちに目を向けた。
第四層も、もうだめだな。
戦線はすでに崩壊している。
最終防衛ラインは、最上層の城の扉で固めるしかないだろう。
そこに配置したドラゴンの火炎放射がどれくらい時間を稼いでくれるか。
ちょっと期待である。




