161話
しばらく互いににらみ合って数秒が過ぎる。
かくして先に仕掛けたのはウォードラグーンたちの方だった。
彼らは四方八方から一斉にこちら目掛けて突っ込んでくる。
全方位同時攻撃だ。
その頃、ドラゴンはというと羽ばたく翼を折りたたんでいた。
揚力を失くした巨体が背面に倒れて頭を下に。
そのまま自然落下を始める。
それを逃すまいとウォードラグーンたちも翼をたたんで追ってくる。
振り落されるのは嫌なんで僕はドラゴンの背中にしがみ付いた。
目がすでに開けていられないほど速い。
重力による加速で地上との距離が縮んでいくのを感じる。
しかしドラゴンもウォードラグーンたちも翼を広げようとはしない。
なるほど。
ドラゴンが仕掛けたのはチキンレースだ。
地面がどんどん近づいてきた。
ちょうど最下層で煙が立ち込めている場所である。
ゆえに地面のとの正確な距離感がとりづらくなっている。
さらには建造物があるため下手すれば尖塔に突き刺さっちゃうこともありうる。
それなのにドラゴンは未だ粘っている。
そしてウォードラグーンたちも全ての個体がぴったりと付いてきている。
これは空を覇するものの誇りと誇りのぶつかり合いなのかもしれない。
だったら僕は関係ないねえ。
欠伸をしたら口腔の中に空気が侵入してきて、あばばばばばばば。
そんな感じで馬鹿やっているうちに、ドラゴンは立ち込める煙の中に突入した。
その数瞬後、両翼が大きく広げられる。
「ぎゃふん」
急激な空中動作で機動制御がかけられ、僕の顔面はドラゴンの背中にダイブした。
痛い。
再び目を開けると下方向への加速は全て、前方向への加速へと置換されていた。
地を這うすれすれの所を滑空して今度は白い壁を目指す。
背後で十二のウォードラグーンのうち、二匹の気配が消える。
それと同時に何かが墜落する激突音が聴こえたので、そういうことだろう。
というわけで残機であるウォードラグーン十匹が灰色の煙から飛びだしてきた。
彼らの目はこっちをロックして離さない。
ドラゴンが吼える。
その後、大口を開けた牙の間に、何やら火炎が滞留し始めた。
攻撃する気だろうか。
背後の敵にどうやって。
っていうか、そんなことより頭をそろそろあげて上昇しないと白い壁にぶつかってお陀仏だぜ。
ど素人である僕がそう考えるのもつかの間、ドラゴンは口の中にできた火球を前方に迫りくる白い壁へ向けて撃つ。
轟音。
大気が割れるような音をたてて、白い壁に当たった火球は弾けた。
まるで火山が大爆発したかのように紅蓮が噴火する。
大量消費される空気が吸い込まれて、酸素を失った熱風が空高く巻き上がる。
それでもビクともしない白い壁を褒めるべきか。
それとも、弾けた火炎による上昇気流に乗ることで急上昇するという高難易度の荒業を敢行したドラゴンを褒めるべきか。
できることならやる前にそう言ってほしかったなあ。
ちょっと焦げちゃった前髪をいじる。
頭を天に向けて上昇するドラゴンの背後を振り返ってみた。
ドラゴンみたく上昇気流に乗れなかった三匹のウォードラグーンが火炎の渦で消し炭となって白い壁にぶち当たる前に黒い靄になって消えていた。
残りは七匹、か。
純粋な上昇速度は向こうの方が早いようだ。
背後にぴったり食らいついている彼らはこちらとの距離を詰めていた。




