157話
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まただ。
また弓兵が一人、空中へ攫われていく。
「今ので何人目だろうなあ」
『五十人目じゃないですかぁ~?』
「マジでか」
とか思っていたら、すぐ近くにいた兵士が悲鳴を上げる。
急降下してきたそれの爪に引っ掴まれて誘拐されたのだ。
クレイモアの間合いではすでに遠い。
ひも付き手投げ斧でも無理。
なので僕はすかさず一番リーチの長い弓で矢を射る。
しかし、なにぶん向こうは空中で三次元的に高速で動けるものだからひょいと躱されてしまう。
むっとして眺めていると、それはある程度上昇したところで誘拐した兵士を解放した。
彼は断末魔を上げて地面へと真っ逆さまに落ちていく。
そして酷い圧壊音とともに文字通りぺしゃんこになった。
でもまあ、それはまだいい方だ。
運が悪いと誘拐された兵士は、他の兵士を屠るための肉爆弾にされる時だってあるのだ。
まるで急降下爆撃機みたいなそれの最初の一匹が急降下してきたのはほんの数分前のこと。
剣に吐かせると、それらはウォードラグーンという種類の中ボスクラスの上級魔族らしかった。
見た目は赤い目の黒いドラゴン。
しかし僕が初めて目にしたドラゴンよりも少しばかり小さい。
それでも十二分に脅威だ。
高速で急降下と急上昇を繰り返し、兵士を攫ったり、投石機を破壊したりするそれの数はたった十数匹だったが、十分に戦局を傾けていた。
そりゃあそうだ。
こうなるとおちおち弓さえまともに引けないしねえ。
防衛攻撃がままならず、戦線はすでに崩れ始めていた。
こうも呆気ないとは。
ため息を付いていると、向こうの城壁の上にあった投石機がウォードラグーンの急降下により加速をつけた足蹴りを食らう。
投石機は軋みを叫びながら傾くと、その下の階層に堕ちていった。
まずいなあ。
投石機が全部だめになると、僕的にはすごくまずい。
かといって、黙って指を咥えているわけではない。
金切り声を上げ続ける耳障りなあやつらを何度もぶち殺そうとはしているんだけどなあ。
なにぶん、空を飛びまわられたらこっちはどうしようもないね。
脇にあった長槍を掴んで、ノーモーションで投擲する。
一直線に飛んでったそれは、向こうの方で急降下していたウォードラグーンと交差するかに見えた。
しかしウォードラグーンは瞬間的に軌道を変えて急上昇。
僕の攻撃は明後日の方向に外れた。
っていかあの変態機動、物理的にありえなくね?
『素で動いて残像作れるマスターには言われたくないんじゃないですかぁ~? でゅふふ、ぁいたぁっ!?』
呑気にしゃべる剣を地面に叩きつけて地団太を踏む。
だってせっかくこっちが攻撃してるのに避けられるなんて物凄くストレス貯まっちゃうじゃないか。
「まあまあ、落ち着けよ僕。何か手はあるはずだ」
自分自身に言い聞かせて策を練る。
が、実際のところ、空を飛んでる敵への有効打なんて思いつかない。
唯一、対抗できそうな美長女戦士ヒルデシアちゃんであるが。




