152話
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戦闘開始三日目。
三つの太陽が直上で交差する少し前。
魔族の軍勢の進撃は開始された。
進み来たるは総勢五万の魔族ども。
昨日よりも二倍の数の攻城兵器を引っぱりながら近づいてくる。
そして敵側の攻城兵器にはいつの間にか投石機みたいなものが追加されていた。
「おうおう、精が出るねえ。一日くらい休憩しとけばいいのに」
「あら? だったらイズィ、お茶でも出してくる?」
「いや、無理だろ。でも美味しい美酒ならうまくいくかもね」
「お酒ねえ。あいにく、ついさっき全部使ってしまったのよねえ」
「えー、まじすかー」
「ちなみにあなたの命令でね」
「いやいや。僕がしたのは提案。命令したのはきみじゃない?」
「あはは、そういえばそうねえ?」
「……なんなのだ。この緊張感のなさは」
僕とユーリが話していると、背後でヒルデが呆れたため息を吐いた。
ところは最上層の城の前の庭園である。
昨晩の一件もあって、まったく口をきいてくれなくなっていたヒルデがやっと口を開いた。
しかし僕が振り返ると顔をぷいとそらす。
独り言だったのだろうか。
再び前方の魔族の軍勢へと視線を戻す。
迫って来る攻城部隊五万の背後で、十万の母集団が防御特化型の陣形を組んでいた。
そっちの方が圧倒的に有利なんだから少しは油断しろってものだ。
これじゃあ大将首を刈ろうと騎馬で突撃してっても、すぐに召されそう。
本当に抜け目ないなあ。
まあ、僕の奥の手である愉快な作戦に対しては無意味なんだけどね。
そう、もうすぐだ。
もうすぐ、あんたの所に参上してやる。
そんなところで、肩を横から叩かれる。
見やると、頬を人差し指で刺された。
「イズィ、悪い顔になってるわよ?」
人差し指の主である笑ったユーリに肩をすくめる。
「もともと人相、悪いしね」
「あら? そうかしら。その白い髪をどうにかすれば可愛らしい顔してると思うわよ?」
「坊主になれって? やだよ。というか、火傷火傷。きみの目は節穴か。あと可愛らしいとか言われても男なんで嬉しくない」
「そうだわ。今度、私の髪飾りを貸してあげる」
聞いちゃいない。
僕の後ろ髪辺りをいじり始める彼女を視界から外した。
『あ、そういえばマスターぁ~。一応、報告なんですけどぉ~』
間髪入れずに待ってましたと、腰に差した剣が話し始める。
どっかの兵士が僕にわざわざ届けてくれたのだ。
こんな集団戦では使えないゴミは要らなかったのだけど、届けてくれた彼の徒労を無駄にするのも忍びない。
というわけで、僕は剣を腰に嫌々差していたのである。
けれどもしゃべるなと数分前に命じておいたのに、このゴミのオツムはすかすからしい。
無言でいると剣は勝手に許可と受け取ったのか話を続ける。
『うぇっほんっ! 実はですねぇ~! ついさっき私のレベ』
「あ、そう」
『まだ最後まで言ってないじゃんっ!? マスターちゃんと話を聞いてくださいよぉ~!』
「わかった。聞くから簡潔に。手短にな」
『わ』
「ふうん。そうなんだ。へえ、そいつはすごい。よかったな」
『一文字しか言わせてくれないんですかぁ~っ!? ぷんぷんぷんぷんぷんぷんぷんすこぉ~っ! もういいですよぉ~! どうせそんな重要なことじゃないですしぃ~!』
だったら口を開くなよ。
僕は腕を組んで、後ろで他人の髪の毛を三つ編みにくくっていたヒルデとユーリに振り返る。




