147話
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二十八個目の梯子を破壊した時だ。
僕の目の前で獅子奮迅していた兵士たちが数人、下半身を残して視界から消えた。
「あれ? それどんなステキ消失マジック?」
すっとぼけ。
しかし鮮血をまき散らしながら地に伏せる彼らの下半身はどう見ても奇術や一発芸の類ではない。
口をへの字にする。
見たくなかったけどそういうわけにもいかない。
兵士たちの上半身を吹き飛ばした物体に目をやった。
それは重量感丸出しの巨大な碇みたいな黒鍵爪。
その柄の部分にはゴツイ鎖が付いている。
んで、呆気にとられている僕の目の前。
ゆっくりとその鍵爪は鎖に巻き取られて移動していったのだった。
そして困ったことに、その鍵爪は城壁のふちにがっちりと噛んで固定されてしまう。
まいったな。
鎖の先に視線を投げる。
するともちろん、その鎖にぶら下がりながら這い上がってきている魔族たちと目があったものだからすごく困ってしまう。
やだなあ。
普通の人間はこの黒鍵爪、撤去したり破壊したりできそうにないだろう。
たぶん大人三人がかりでも持てない重さだ。
とんだえげつない兵器を造ったもんだねえ。
「よっこらせ」
やれやれと首を振った僕は黒鍵爪を引っ掴む。
そして、筋肉を軋ませながらそれを無理やり引きはがしてポイした。
ついで目を走らせると、同じような黒鍵爪が壁のあちこちで魔族たちの侵入路を造りだしている。
一つ一つ僕が撤去していくのも効率が悪い。
よし、やめた。
あれは仕方ないことだとしよう。
登ってきた魔族は兵士さんたちに頑張ってもらおうかな。
ところで、そろそろ攻城櫓の方が無視できない距離まで近づいてきているのだ。
あれに取りつかれると厄介である。
対処する優先順位としてはこっちの方が上だろう。
そう判断した僕は長槍を持ち直して助走を開始する。
目指すは切迫する攻城櫓の一つ。
穂先を石畳に突き刺すと、棒高跳びの要領で長槍をしならせて壁上から跳んだ。
でゅわっち――――。
空中を上昇していた僕の身体はやがて重力に負けて落下する。
それでも予定通り、着地点は攻城櫓のてっぺんだった。
そのまま僕は、ちょうど良いところにいた魔族の頭蓋を槍で叩き割って着弾。
すぐさま体勢を極限まで低くして身体を回転させる。
それに伴って円を描いた槍の穂先がそのへんにいた数体の魔族の足を砕いた。
あとは簡単だ。
床に這いつくばる魔族を順番に止めを指していくだけ。
そんな風にグサグサしていると周囲が騒がしくなってきた。
魔族が続々と攻城櫓てっぺんの床に空いた穴から梯子を使って上ってきたのだ。
なるほど、櫓の内部は何層にもわかれているらしい。
各階層を梯子でつないで下からどんどん兵を上にあげて補充するという仕組か。




