140話
「だめに決まってるわ。だって私はユーリティシアス・エルヴァン・デルミえーっと中略・マルクトなのよ? マルクト最期の王になるかもしれない美少女よ? その辺にいる普通の女の子と同じにしないで」
「ふうん」
「っていうのは建前ね」
そこでユーリはくるりとこちらに背を向けた。
そして真上を見上げて星を仰ぐ。
「それで?」
「実を言うと、あなたじゃなかったらたぶん、私はその取引になびいていたかもねえ。ううん、たぶん、あなた以外の人間からそういう取引をもし持ちかけられていたら、私は、のったわ。簡単にイェスと、言ってしまった」
「……はあ、まあ。じゃあどうして断る? なぜで?」
夜の闇よりも黒い黒髪が揺れた。
「だって、あなたを悪魔になんてしたくないもの」
うげえ。
なんだよ、その顔は。
振り返った彼女のその表情は、本当に嬉しそうに笑っていた。
やめろ。
「ありがとう。そういう取引をあなたがしてくれたおかげで、私はまだ私でいられるわ。だから、ありがと。まあ、私の剣なのだから、これくらいはやってくれないと、ねえ?」
そう悪戯っぽく平常運転に戻った彼女は城の中へ戻っていく。
背筋をぴんと伸ばしたその背中は、誰もがすがりたくなるような覚悟が見えた。
「なんだよ、それ」
してやられたような気分になった僕はしばらくそこから動けなかった。
悪魔にしたくない
彼女のその言葉は、僕の記憶にいる過去の自分に痛く突き刺さる。
そうだ。
そうなのだ。
あの金髪の悪魔を、悪魔にしたのは紛れもない僕自身なのだ。
そんなことは、わかっている。
だからこそ、元の世界には戻らないといけない。
拭っても拭いきれない罪の精算をそこでし続けなければならない。
もう思い知った。
それを再確認させてくれたユーリは、確かに僕のご主人さま足りえるだろう。
いいよ。
僕はまだ、きみの剣でいよう。
『あ~っ、マスターぁ! そんなところでぼけっとたそがれてないで早く私をこの馬畜生から解いてくださいよぉ~! っていうか、聞いてくださいよぉ~っ! この畜生めったらこの私の魅惑の寸胴ボディにうんこしたんですよぉ~! ねえマスター聞いてますかぁ~? うんこですようんこっ! うんこなんですよぉ~!』
どこからか歩いてきたアルデバランの首を撫でてやる。
そして彼の鞍から雑音元を外してやると、うんざりした鼻息とともにアルデバランは再び夜闇へ消えていく。
『あっ、そういえばマスターと二人きりになるのは久しぶりな感じがしますねぇ~! でゅふふ! もしかしてさみしいと思ってたんじゃないですかぁ~? 私の声が聴きたいと思ってたんじゃないですかぁ~? えへへぇ~、心配しなくても今からたくさん話してあげますよぉ~! もうマスターってば、い、け、ず、なんですからぁ~! って、あああああああああっれええええええええええええぇ~、きら~ん』
僕は無言で剣を蹴り上げて星にしてやったのだった。
†。oO(『もうマスターってば照れ屋さんなんですからぁ~。でも私、わかってますよぉ~。だってマスターのま、け、んかっこはぁ~と、なんですからぁ~! どやぁ』)




