135話
「でもね。女神ですら愛してくれるように訓練したそんな愛されちゃんの私でも、一度だけ。まだこの国が平和だったときに、たった一度だけ。私に憎悪を向けてきた子がいたの。あ、フラれて怒るとか、そういう薄っぺらな憎悪じゃなくてね? もっと根の深い、本物の憎しみよ」
「へえ、意外だな。でも、どんな憎しみなのかは聞かないでおく。興味ないし」
「ありがと。それで、ね。今まで愛されまくりだったものだから、その子が向けてきた初めて味わう憎しみの味に、その時の私はどうすればいいのかわからなかった。だから自分から遠ざけてしまおうと、一度その子を拒絶してしまったわ。イズィもきっと、そんな感じなのではないかしら」
「うん、たぶんそれだ。自分の中では処理できない感じ。ぶっちゃけると対応するのが面倒だから少し距離を置いちゃおっ、みたいな」
「あはは、やっぱりね。でもそれではだめよ。経験談から言わせてもらうけれど、それじゃあ問題を解決したことにはならないわ」
「わかってるよ。でもどうしようもなくない?」
「なら教えてあげる。私に憎しみを向けた初めての人間っていうのは、ね。さっき泣いて立ち去ったのに戻ってきて向こうの影からこっちを健気に伺っている彼女なのよねえ」
「……まじで?」
「まじです」
件の美少女戦士ちゃんを後ろ目で見ながら笑い出しそうなのを必至に我慢するユーリは僕の耳元で囁いた。
久しぶりに真面目に驚いてしまった。
「いや、何というか。そういう昔話があって、どういう過程を踏めば、今みたいな気持ち悪い関係を築けるわけ?」
「あら。気持ち悪いは余計なんじゃない? あの子のためにイズィに言っておくけれど、私にもあの子にもそういう特殊な趣味はないわよ? ただ時々、一緒にお風呂入ったり抱き合って眠ったり私があの子の胸を揉んで育ててるだけ」
唇を尖らせたユーリは暴露する。
なるほど。
どうりで彼女たちから、ほのかに同じ匂いがするわけだ。
あとヒルデの胸部がどうりで物凄い成長をしているわけだ。
納得である。
「ちなみにあの子は私の胸を揉んでくれないからこのざまよ」
視線を落として自分の胸部を見やったユーリはため息を吐く。
口を結んでもぞもぞしていると、彼女は再び珍しく睨んできた。
そして無言で頬をつねってくる。
「だから、やめなさいって」
「だって、そこは胸だけが女の長所にならないとか、自分は手に収まって吸い付くくらいがちょうどいいとか、そういう格好良い台詞を言うところなんじゃないかしら?」
「そんな高次元の甲斐性を剣に求められても管轄外だ。そういうことは、きみのお婿さんにでも頼めばいい」
「あら? だったらイズィ。私と結婚する?」
「やだ」
きっぱり断ると、流し目をよこしてきていたユーリは肩をすくめた。




