131話
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戦闘開始一日目の夕闇が訪れる。
結局、城門が直るまで魔族の軍勢はあれきり攻めてこなかった。
ケイスリーさんたちの特攻のあと、彼らを殲滅した魔族の第二陣は津波が引いていくように母集団へと戻っていったのである。
それきりぴたりと平原を蠢く魔族の大軍は動かなくなった。
「いったい、どういうつもりかしら。イズィ、私の剣。あなたはどう思う?」
砦の最上層の城の前の広場。
暗闇の中に星の数ほどの篝火が焚かれている平原の方を眺めていたユーリは言った。
彼女は外套に身を包み、唇に手を当てて考え込んでいる。
「さあね」
もしかすれば、どっかの大将軍が一万に突撃して散った三百のもののふたちに敬意を表したのかもしれない。
それか、ただ単に攻城戦がしたくなって引いただけなのかもしれない。
城門の修理が完了してそれがぴたりと閉じてから、少し仮眠をとっていた僕の頭は少しばかりボケている。
そんな頭で考えたってロクな考えは浮かんでこない。
「でもまあ、二つ言えることがある。彼らが攻めてこなかったのは僕らにとっては都合がよかった。おかげで門も閉じれたしね」
「もう一つは?」
「彼らは今、急ピッチで攻城兵器を組み立ててるらしい。今ちょうど十個目の攻城櫓が建てられたよ。それに他にもいろいろ。例えばゴツイ鎖に繋がった鍵爪がついたやつを撃ち出すバリスタとか、単純に壁を超えるくらいの長さの梯子、とか」
「そう。なら、明日はいよいよ籠城戦ね?」
「みたいだね」
ユーリは静かに息を吐いた。
夜の冷気に侵食されていた空気が白くなるのを暗がりに見た。
しばらくお互いに黙っていると、突然ユーリが震えはじめる。
どうしたのかと思ったら、彼女は僕の腕に抱き着いてきた。
「……イズィはとっても温かいのねえ。昨日の夜も私、ベッドの上で思ってたことなんだけど」
「まあ、平熱三十八度あるしねえ。っていうか後半の台詞はやめてくれない? なんかえっちだ」
「あはは、わざと言ったのよ?」
「だからやめろって言ったの。後ろで僕に殺気を飛ばしてくる人間がいるし」
「あら? 今晩はヒルデも一緒に寝てみる?」
「嫌ですッ!」
背後から怒声が聴こえてきた。
振り返ると、新調した大剣を背中に背負ったヒルデが腕を組んで立ってこちらを睨んでいる。
あれからずっとこうだ。
そんなに殴って気絶させたこと怒ってるんかな。
ヒルデの方を見ていると、彼女は無言で顔をそらした。
†。oO(『ところで私はいつまで馬畜生に繋がれていればいいんでしょうかぁ~。って、あっこらぁ~っ、動かないでっていってるであばばばばばばばっ』)
ア。oO(『っべー、ちょっと愉しい』)




