130話
「それに馬上にて死すは騎馬兵の本望。さらに言わせてもらえれば、あなたに本物の騎馬兵というものを魅せてやろうと我々は企んでましてね。言っちゃあなんですけどイズレール殿の乗り方は最悪ですよ。すべての動作制御が力づくすぎる。王家の馬であるからもっているものの、普通の馬ならとっくに五十は使い潰していることでしょうな」
「……はあ、まあ。すみませんね下手くそで」
唇をとがらせる。
言い訳するなら馬に乗ったのはこの世界に来て初めてなわけで。
仕方ないじゃないか。
「そんなわけですので、ここは我らに任せて早くお行き下さい」
まてまてまて。
そんなわけで、じゃねーよ。
とか思ったが、ケイスリーさんの顔を見て考えが変わる。
もう何も言わないことにした。
こっちもありがたいことには違いないのだ。
この躰は、ハンニバル将軍との決戦が控えてることだしね。
それにゆくゆくは魔王をぶち殺さなきゃならないし。
『よっしゃぁ~! マスターの生存フラグきましたよぉ~! ほら、さっさとしんがりはこの人に任せてマスター逃げましょうよぉ~! ほら早く早くっ! って、あれぇ~? マスターってばいったいなにをぉ~?』
僕は無言でアルデバランの鞍に縄をくくりつけ、もう片方の端を剣に巻きつけてからそれをポイする。
ぐさりと地面に刺さった剣の刃に、覚悟を決めた男の姿が写っていた。
「じゃあ、まあ、なんて言うのかな。男から言われても嬉しくないかもしれないけど。ご武運を」
「はっはっは! まったくです! できるならヒルデシア様に言ってほしかったですね」
「いやほんとごめん。何なら起こそうか?」
たぶん指の一本や二本折れば起きるだろう。
それでも駄目ならキスでもしようかな。
僕は別に王子様じゃないけどイケる気がする。
そう提案したら首を横に振られた。
「いや結構です。それよりも最後に一つお願いがあります。彼女が目覚めたとき、うんと誇張して格好よく私の逝きざまをよろしく伝えといてください」
「……あんたまさか」
照れた顔を隠すようにケイスリーさんは馬を動かしてこちらに背を向けた。
ちなみにどこに惚れたのか聞くと『胸です』という照れ隠しが返ってくる。
「言いましたよね? 貴方にはそれができる。そして貴方以外にはそれができない。それが我らの総意。ゆえに我らがここで行くのです。だから、あとのことを、頼みましたよ。そして我らの思い、託しましたよ」
託されてしまった。
僕の返事を待たずに角笛が鳴らされる。
三百騎の騎馬兵たちの背中が、南から上った三つ目の太陽に逆行して深い影を造っていた。
しばらく、彼らは馬のいななきとともに、迫り来る一万の軍勢へと突撃していく。
オオオオォォォォォオオォオオォオオォォォォ――――――。
例え弩の矢に貫かれようとも彼らは馬上より落ちない。
例え歩兵の槍ぶすまに阻まれようとも彼らは進み続ける。
例え巨大狼の牙で食いちぎられようとも最期まで敵に深い傷を負わせた。
思いのほか奮闘するたった三百騎の彼らに、魔族の第二陣一万の軍勢は足止めを余儀なくされる。
なるほど。
確かに僕は乗馬を練習すべきだ。
肩をすくめて彼らに背を向けるとアルデバランを駆けさせる。
オオオオォォォォォオオォオオォオオォォォォ――――――。
彼らの猛りは、【エリュシオン】が消えて酷い睡魔に襲われた僕が城門前にたどり着くまで潰えたりはしなかった。
ア‐‐‐‐‐‐‐‐‐†。oO




