12話 とある魔剣の物語が開始
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結論からいうと、ドラゴンは生きていた。
「いや、わるいわるい。待たせたな」
手をあげてさりげなくフレンドリーに近づいたつもりだったんだけど、ドラゴンの口から吐かれた火炎に僕の髪の毛がちょっとだけ焦げる。
あっぶねー。
ひやひやする僕をよそに、ドラゴンは首を伸ばしてペロペロと身体のあちこちについてる傷のうちの一つを舐め始める。
「いや、だめだって。それ。ほら、バイキン入っちゃうって。まじで。舐めるのやめないとパラボナアンテナみたいなやつ、つけちゃうぞ」
ドラゴンの頭を手で押し戻す。
するとガンつけてくるドラゴン。
その眼光を意訳すると、邪魔するな食っちまうぞ。
「……お前ね。死にかけてるんだからここは僕にまかせなさいって」
ドラゴンの鼻に手を当てて話しかける。
あと、救急箱も指さした。
ぐるる。
信じてくれたのか定かではないが、ドラゴンは頭をゆっくり地面につけて、大人しくなる。
よしよし、良い子だ。
持ってきた救急箱を開ける。
先に折れてるらしい翼をどうにかしてやろう。
ここに来る途中、添え木になりそうな材木も見つけてきたし。
でもなあ。
さーて、こっからが問題だ。
折れた骨を元の位置に戻すのにともなう激痛。
それで食われちゃったりしないかなあ。
*
その後、小一時間ほどでドラゴンの手当は終わる。
ことあるごとにかじろうとしてくるドラゴンの鋭い牙から逃げながら手当てするのは、穴を掘るよりも一苦労だった。
当のドラゴンは今はもう疲れたのか呑気に眠っている。
なんだかなあ。
しかしながら一つ問題を解決した僕はすがすがしい気分であると錯覚してみる。
残るは女の子にスープ、あと穴掘りと穴掘りと、そして穴掘り。
あと穴掘りっと。
*
夕方。
ドラゴンの手当てが終わった後、腐臭もしてきたことだし本気出して数百体ほど死体を埋めてみたため、砦の外の死体はあらかた片付いたものの、まだ砦の中の死体には手が付けられてないんだよなあ。
ここで自分の身体と相談してみると、さすがに疲労が八分目まできていた。
よし。最近は穴掘ってばっかで食っても寝てもいなかった気がしたので、もう今日は久しぶりに食って寝るか。
そう決めて、井戸の方へ戻ろうと踵を返す。
砦の中に厨房みたいな場所があったからそこを使わせてもらったらいっか。
「晩ごはんは鶏がらスープ的な何かだよ」
僕が死体を埋めていくのを膝をついてぼうっと見ていた女の子に声をかける。
反応がない。
時々、口移しで水を飲ませてあげてたんだけど、とうとう死んじゃったのかも。
あ、いや、違う。
よかったよかった。
女の子はゆっくりとした動作で立ち上がろうとして、コケた。
そのまま動かなくなる。
水だけじゃ、やっぱダメか。
仕方がないので女の子をおんぶして、えっちらおっちら井戸の場所へ歩き始めた。
[井戸の中]
†。oO(『ひどいマスターっ! ぷんすこっ!』)




