126話
そんなわけで着地。
興奮するアルデバランをゆっくり歩かせた。
しばらくして落ち着いたところでヒルデの様子を確認する。
急いでたから掴んだ拍子に首の骨折っちゃったかもしれないと心配になったからだ。
しかし前に横乗りさせていた彼女は、僕の腕にもたれて全身汗だくでハアハア息を吐いている以外どこにも異常はなさそうだった。
「ううぅ……く、くそ」
だというのに、激しい痛みを感じてるような苦悶の表情を浮かべている。
彼女は横目で、ベヒモスたちの通った跡を見ていた。
「どうやら敵味方関係なく轢いてったみたいだねえ」
そこはまさしく轢殺死体の道ができあがっていた。
魔族は死ねば消えるので人間と馬の死体が目立つ。
「あ、……」
ヒルデが呆けた声をあげた。
その視線の先には見覚えのある白馬が内臓を散らせている。
「アルタイル……」
馬の名前か何かを呟いた後、彼女は嗚咽する。
さらにアルデバランを進めると、今度は鋼の道ができていた。
重装歩兵の鎧がその中身ごとぐちゃぐちゃなって敷き詰められているのだ。
ふと何かの断末魔が聴こえた。
砦の方へ見やると、ベヒモスたちが深い堀の中へ消えていくところだった。
かろうじて橋を渡って城門を潜った一頭のベヒモスも、折れた通路を曲がれずに壁へ激突して沈黙した。
止まらなかったのではない。
もしかして自分じゃ止められなかったのだろうか。
そういえば死ぬまで止まらないと剣が言っていたっけ。
難儀な生き物だなあ。
まあ、今となってはどうでもいいことではある。
左右に散って生き残った残存騎馬兵たちが集結し始める。
さらに、轢かれたのにそのタフさかその運の良さかで生き残った兵士たちもよろよろと立ち上がって剣をとっていた。
悠長に黄昏れている暇も余裕もないのだ。
突破力のある攻撃で敵の陣形をぐちゃぐちゃにしたんだ。
この好機を見過ごしてくれるはずはない。
オオオオオオォォォォオォオオ――――――。
案の定、魔族の母集団から、今度は一万程度の第二陣が切り離された。
数は第一陣の半分。
しかし、長槍兵を前面に配置し、その後ろに弩兵。
さらにその両翼をウォーウルフの騎兵たちががっちり固めている。
明らかに第一陣とは質が違う。
まるでホンモノの包囲殲滅戦術を見せてやると言わんばかりだ。
彼らは一斉に吼えると、ゆっくり前進し始めた。
『あのぅ~、マスターぁ? ここで残念がお知らせがあるのですけどぉ~。ごにょごにょ』
なんだ。
ヒルデが目の前にいるので心の中で返事すると、剣はトンデモナイことを言いやがった。
『実を言うとですねぇ~、あ、怒らないで聞いてくださいねぇ~、マスターぁ? あのぅ~、そのぅ~、実はあと二分くらいで【エリュシオン】が維持できなくなっちゃうんですよねぇ~。えへへ』
そこでなんで照れ――。
って、はああああああああああああああああああああっ!?
危うく口から洩れそうになった叫び声を噛み殺す。
いや、無理。
殺しきれない。
「って、はああああああああああああああああああああっ!?」
いきなり叫んだ僕に、泣いていたヒルデは『何だ』と言った。




