121話 ほーいせんめつせんじゅつどやあ
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重装歩兵横隊の左右。
堰き止められていた魔族たちが重装歩兵の障害を避けようと密集している場所。
そこに騎馬軍団は鏃の形状となって飛び込んだ。
右翼先頭は僕、左翼先頭はヒルデである。
唾を吐き散らすアルデバランの蹄が魔族の顔面を砕く。
それでも速力をまったく落とさない、むしろさらに加速するアルデバランの胸甲が魔族の肉の壁をぶち抜く。
左翼側のほうで魔族たちの悲鳴が聴こえた。
クレイモアを構えたままチラリと眺めると、まるでつむじ風に巻き上げられた枯れ葉のように十数体の魔族が吹き飛ばされているところだった。
おそらく、というか間違いなくヒルデの仕業だろう。
僕も負けてはいられない。
馬上より腰を浮かし、握っていたクレイモアを渾身の力で以て下から上へ斬り上げる。
彼女のような魔法は使えないので単純な物理攻撃である。
しかし、音を置き去りにしたその剣戟は、間合いに入っていた全ての魔族を消しとばし、破壊の渦を産み出した。
さらに吹き飛ばされた魔族に当たって巻き添えをくらった数十の魔族が一瞬で蒸発する。
目の前でそんなことをされたら、普通なら戦意は挫けるはずだ。
にもかかわらず、彼らはむしろ戦うことに悦を見出してるかの如く。
僕目掛けて殺到してくる。
「あははっ! そうこなくっちゃねえっ!」
魔族たちが立ち向かってくる姿を木端微塵にするのは実に感慨深い。
後続の重装騎馬が次々と魔族に体当たりして破壊していく音を背にして僕は笑いながら剣を忙しく振るう。
愉しい。
愉しい。
愉しい。
しばらくして流れを逆流するのに片手だけじゃ物足りなくなってきた。
なので剣の鞘からヒモ付き手投げ斧を取り出し、二刀流で以て目についた敵を片端からぶち殺しながら進んでいくわけである。
近場の敵はクレイモアで破砕し、それで届かなければ手投げ斧で頭蓋をかち割る。
そうこうしているうちに、僕は第一陣の背後に抜けていた。
遠くに魔族の母集団が見える。
まったく動く気配を感じない。
加勢する気はないようだ。
手投げ斧に引っかけられて轢きずられていた魔族にクレイモアでトドメを刺してから叫んだ。
ならば殲滅せよ――――ッ。
お腹の底から出した僕の声は、怒声悲鳴入り乱れる修羅場に残響する。
オオオオオォォォォオオ―――――。
鬨の声で返事が返ってくる。
僕の後ろに付いてきていた旗持ちの騎馬兵が持つマルクト王国の獅子旗が大きく揺らされる音を聴いた。
手投げ斧をしまってアルデバランの手綱を握る。
そして左方向へと進路を向けさせる。
後続の重装騎馬たちもそれに続いて進路を変更していく。
一方で左翼側も進路を右へ転換し始めていた。
まるで我が子を優しく包み込む母のように、魔族の第一陣を包囲していく。
取り囲まれて四方から攻撃を受けていく魔族たちの叫びが戦場をうねった。




