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ある日、空から剣が降ってきた。  作者: まいなす
第一章 “白き山裾城”決戦
116/198

115話 これは砦×魔族の薄い本が出ますね



「こいつはまあ、見事にがっぽり開いちゃってるなあ」


 僕が城門に着いたときには、夜分遅くだと言うのにたくさんの人だかりができていた。

 彼らは皆、揃いもそろって絶望の嘆きを呟いている。

 それをかき分けて城門の目の前までやってきた僕は、先の台詞に繋がる。


 確かに、上から分厚い落とし戸が六枚ほど落ちてくるタイプの門は大きく開いていた。

 おかげで平原の向こうで月に照らされた草が輝いているのがよく見える。


 さらにはご丁寧に堀を渡していた橋まで降りていた。

 これでは敵に入ってくださいと言ってるようなものだ。


 周囲は無数の篝火で照らされていた。

 その光に負けず劣らず、白い巨大な壁は月と星のわずかな明かりを反射して幻想的に輝いている。

 その真下で、僕はゆっくりとため息をついた。


 この世界に来てからため息を吐く回数が日に日に増えている気がする。

 だからこうも運が悪くなるのだろうか。

 まあいいや、そんなことよりも、である。


 さて、どうするかなあ。


「な、なんだこれはッ!?」


 背後でしたのはヒルデの声。

 振り返ると、酔いも覚めすぎて真っ青になっている顔面を歪めた彼女がそこにいた。


「見ての通り。この砦は今や、股を開いて待機している女の子になってしまったってことだよ。処女でなくなるのも時間の問題、なんてね」


「ばっ、こ、こんな時に冗談を言っている場合か、きさまっ! ……それとも、なにか。も、もしかしてこれも備蓄庫と同じように何か策を弄していたのか?」


 そんな期待されたような目を向けられても困る。

 これは完全に想定外。

 どうしようもないね。


 肩をすくめると、ヒルデは眉間を指で押さえた。


「くそッ……これでは砦の防御が……。あるものでバリケードを」


「だめじゃわいッ! 【ウンディーネ】が使えんわいッ! 城門が開いたまま使えばこっちも水浸しッ! 危険ッ! っていうかむりッ!」


 唐突に声のした方に顔を向けるが誰もいない。


「こっちじゃわいッ! ほれこっちッ!」


 視線を落とす。

 するとそこには禿げあがったおでこに長い口髭がチャーミング。

 僕たち私たちのトラウゴットさんが立っていた。

 両手には酒瓶を持ってしゃっくりなんかしている。


「おそらくッ! 城門開閉装置の機関部分を爆破したんじゃッ! 門を閉めるための重しが落ちてしまったに違いないッ! お見通しッ! じゃけん修理すべしッ!」


 トラウゴットさんは叫ぶ。


「誰だッ! 誰がこのようなことをっ!」


 ヒルデの激昂に、近くにいた正規兵が指をさす。

 ちょうどその先には、三人の兵士たちが自分で自分を突き刺して転がっていた。

 彼らはどういう理由とどういう理屈でこうしたのか。

 それを知る由は今はもうない。


 唖然とするヒルデから視線を切る。


「えっと。修理できるんですか?」


「できるッ! 当たり前ッ! 余裕余裕ッ!」


 胸を頼もしく叩いたトラウゴットさんは親指を立てた。

 格好いい。

 頼もしい。

 ステキ。


「でも時間必要じゃわいッ! 速くて半日ほどッ! 稼ぐべしッ!」


 半日ねえ。

 頭痛がしてきたぞ。

 トラブルが重なるのは仕方がないけれどなあ。


 やれやれしていると、ヒルデが僕をどんと押しのける。


「無理だっ! 明日の夜明けにはおそらく魔族の軍勢が平原を埋め尽くすのだぞっ! どうやって……、いや、どうやっても持たせることなどできないっ! 何とかならないのかっ!」


 そんなどうしようもないことを言って、彼女はトラウゴットさんに詰め寄って胸倉を掴む。

 そしてグラグラと激しくゆすった。

 もちろんヒルデとの身長差からトラウゴットさんの足は地面から浮いてぷらぷらしている。


「やめい」


「あう」


 彼女に横薙ぎのチョップをして僕はトラウゴットさんを解放してあげるのだった。

 彼はこの砦のマスコットなのだ。

 ユーリの盾風情が、たて突いていいわけはない。

 痛みに呻いて頭を抱えたヒルデをおいといて、地面に落ちて尻餅をついていたトラウゴットさんに手を差し出して立ち上がらせる。


「げほげほッ! 良い人ッ! 良い人ッ! あざすあざすッ!」


 なんか超フレンドリーに握手してくる。

 そんな彼に頼んだ。


「時間の方はこっちで何とかするから。今すぐ城門の修理に取り掛かってくれますか」


「まかせたッ! そしてッ! まかせろッ!」


 ちょこちょこと短い脚を動かして走っていくトラウゴットさんを見送る。

 すると痛みから立ち直ったヒルデが僕の方をじっと見ているのに気付いた。


「なにさ」


「……何とか、なるのか?」


 いやいや美少女戦士ヒルデシアちゃん。

 ここで何とかできなきゃ、皆そろってくたばるだけだぜ。 

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