10話 げっとだぜ!
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「鍵をゲットだぜ!」
叫んでみたものの、合いの手を入れてくれる相棒はいない。
こうなってくると剣がなんだかちょっぴり恋しくなってきたぞ?
女の人の死体の胃の中にあった金色の鍵を指で弄びつつ、井の中の剣に思いはせる。
いやいやいや。
こっち来てからというものの、剣としかまともにしゃべってないからこういう変な気持ちになってしまうのだ。
べ、別に剣のことなんてその辺のミジンコと同じレベルでいてもいなくてもどうでもいい存在なんだからねっ。
ツンデレを発症しながら地面に埋まってる扉に鍵を差し込む。
がちゃり。
そんな音を立てて、すんなりと鍵は回った。
よいしょと気合を入れて扉を持ち上げてみる。
む、なかなかこの扉、厚さに反して思ってたよりも軽いぞ。
油圧緩衝器のようなステキ装備でもついてるんだろうか。
トキメキを覚える僕だったが、そんなものはどこにもついていなかった。
砦の中のゆるい光が扉の向こうへ差し込んでいく。
そこは小さな部屋、というか空間だった。
具体的な大きさはというと、小さな子供が一人入れるか入れないかくらいの。
どういう用途でこんな空間を作ったのか。
あれか。
これがどこぞの匠が大好きな収納スペースというやつだろうか。
改築という名の新築ドキュメンタリーテレビ番組でおなじみの、あの音楽が僕の耳に空耳としてやってきた頃合いだった。
「あっ」
まぬけな声が口から漏れる。
「おっとっと」
収納スペースの中で縮こまって痩せ細っていた女の子からのドス攻撃を腹にヒットさせる寸前で僕は止めたわけです。
「あ、ごめん」
女の子の、恨みと憎しみと悲しみとをミックスした瞳が、僕を貫く。
歯を噛みしめた女の子の口から聴こえるフーフーと獣のような唸り声が、僕を貫く。
ドスを止めた左手から染み出した僕の血液がぽたぽたと地面に流れ落ち始めた。
「ごめんね。ノック忘れてたよ」
こっちの世界の言葉で謝る。
あ、話は変わるんだけれど、お気づきの方はいるかもしれない。どっかの誰かさんは女の子が収納スペースに入ってたなんて扉を開けた時点では一言も言及してなかったんじゃないか、と。
そんなお方は、女の子が急に出てきてわかりにくいだろバーローって非難するかもしれない。
しかしながら、そういうお方に言っておきたいことがある。
あれ?
言ってなかったっけ?
小さな子供が一人入れるか入れないかくらいの空間、だって。
そんなメタな現実逃避をしつつ、女の子の頭を撫で始めたのは僕の右手なのだった。




