99話 これから赤銅色の掟を話そう
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「そういえばヨナタン殿。あなたの国には何でも施政を滞りなく行うために特殊な法があるとか。ないとか」
ユーリは自分のもみあげをいじりながら言う。
ぴくりとヨナタンさんの頬が動いた。
「それは証人制度のことを言っておられるのか」
「ええ。確か、あなた方のような戦士たちは皆、身内を帝都に住まわせて人質にされているとか」
あ、そんな制度。
確か僕の世界にもあったぞ。
内乱を防ぎ、政権の安定のために制定されていた人情味溢れる制度である。
違う世界でも人間の考えつきそうなことは似通っているらしい。
大きく頷いて、今や真っ赤な顔を伏せて大人しくなっていたヒルデを解放してあげる。
すると彼女がいきなりグーパンしてきたので軽くいなして肘固めをキメた。
その頃一方、ヨナタンさんは固く結んでいた口を開いていた。
「人質などではない。証人でありまする」
ユーリは小さく頷く。
「いいでしょう。でも王の命令に背けば、その“証人”が処断されてしまうのではないですか? いえ、処刑と言ったほうが正しいでしょうか」
「……話が、見えませぬな」
「ところで、ヨナタン殿にご家族は?」
「…………妻が一人、おりまする」
「帝都に、住んでおられるのですね?」
「それに何の関係があるのですか。関係など何もありませぬ」
「なるほど。奥方様は幸せね。貴方が戦士の誇りを曲げてまで守ろうとするほど愛されているのだから」
「話がずれておりまするぞ。私が妻を守りたいがためにあなた方を見捨てる命に従っておるとお思いか。否。私はケテルに仕える戦士として、すなわち私の意思によって王の命に従っているのみでありまする。命ぜられるのは王。しかし、それに従うのは私の意思でのみ。お恨みになるのなら恨めばよろしい」
「この決断を奥方様のせいにしたくはないと? あなたは優しい人なのね」
「……話に、なりませぬな」
「こうやって、あなた自らが私たちの矢面に出てきたのもあなたの性格を反映しているわ。本当ならば、門を固く閉じるだけで、いいえ。てっとり早く橋を落とせばよいだけなのに。もしかして王の命が変更される可能性をお考えになってのことかしら」
じっと目を閉じて腕を組んで座りながらだんまりを決め込む。
そんなヨナタンさんにユーリは肩をすくめた後、僕の方をちらりと見やった。
ふうん。
彼女のやろうとしていることを察する。
まあ、剣には汚いお仕事が似合ってるしね。
ヒルデへの肘ロックを解除して僕は、椅子に座っていたユーリの前に出る。
そしてヨナタンさんをビシっと指さした。




