0話 ある日のこと
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ある日のこと。
毎朝恒例の竹刀素振り千本してる合間にふと何かの気配がして空を見上げる。
すると抜身の剣が降ってきているのを視力5の僕の眼球が捕えた。
なんだ剣か。
舌打ちする。
美少女だったらラピュタに感動して涙した僕は受け止めてあげることやぶさかではないんだけれど、生憎それは切っ先鋭い片刃の剣である。
刃なんてギンギラギンのギン。
触っただけで真っ二つになりそう。
そんなもん受け止めたら絶対無傷ではすまないので誰も受け止めたくはないはずだ。
かくいう僕も痛いのは嫌なんで受け止めたくはないわけです。
というわけで、降ってきたそれをひょいとかわすことにして一歩右へ。
『あっ、気づかれちゃいましたぁ? でも逃げても無駄ですよお! ウフフフフ』
そんな軽いノリのハイトーンボイスとともに、なんとその剣は中空で軌道修正してきやがった。
右へ左へ反復横跳びして残像作ってみるが、剣は僕本体の動きを完全にトレースしてくる。
剣道の師匠をして『あれ? お前、三つ子だったっけ?』と言わしめたこの動きに付いてこれるなんてあいつめ、なかなかやりおるわ。
生来の負けず嫌いに着火マンでボッし始める僕である。
でも、このままだと串刺しは免れない。
どうしよう?
『も~、逃げても無駄だって言ってるじゃないですかぁ~。おつむの方は大丈夫なんですかぁ~? 脳筋をマスターにするのは嫌ですよぉ~?』
「うるさいよ。今、考え中なの。さっきから他人の頭の中で何をわけのわからないことをごちゃごちゃとしゃべ……」
っていうか剣がしゃべっていた。
僕、遅らばせながらマジ絶句。
いや、待てよ。
真剣なんて代物はこの現代社会においてマジ遺物。
存在すら危ぶまれるのに、お空から落ちてくるなんててんでありえない話だ。
あー、なるほど。
ここで僕の脳細胞は一つの結論を導くわけです。
すなわち、これは夢だ。
夢なら落ちてくる剣を無理に避ける必要なんてない。
だって夢だから。
呑気にそんなこと思ってると、たちまち剣は僕の目と鼻の先まで距離を詰めている。
『それではいっちょ、契約させていただきまぁ~す!』
身体に異物が侵入してくる感覚。
瞬間、みぞおちの辺りにぐさりというエグい音。
そして口腔内が絶賛鉄の味なうごぼぼ、ごぼぼ。
あれ? おっかしいなあごぼ。
マジで痛いわけですがごぼぼぼ。