第38話 最終決戦
「はあ、はあ・・・。ララ!」
「会いたくないって言ったのに・・・。やっぱり来ちゃうんだね、神門は」
そんな当たり前のことを言われても困る話だ。俺はララを連れ戻すためにここまで来たのだから。
「みんながお前を心配してる。さあ、帰ろうララ。みんながお前の帰りを待ってるぞ」
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!絶対帰らない!」
「なんでだよ!聞かせてくれ!俺が何か悪いことをしたなら謝る。直しだってする。だから帰ろうぜ」
「嫌だよ・・・。帰っても辛いだけだもん・・・」
「・・・・・・・・・」
辛い。ララは確かにそう言っていた。俺はララがこんな弱音を吐いたところを聞いたのは初めてだった。初めてだったからこそなんて返せばいいのか分からなかった。
「だからってなんで魔王なんかに・・・」
「神門にはどうせわからないよ・・・。私の気持ちなんて!」
「ララの気持ち・・・」
「そうだよ。どうせ今も分かってないんでしょ」
いや、本当は気づいていた。ララは俺のことが好きなんだろう。だからこそずっと一緒にいたかったのかもしれない。けど、そんなララをいつもミラが一歩先を追い越してくる。ララは今までずっと我慢していたんだろう。それなのに俺はそんな気持ちから向き合わないで逃げていた。だからララは辛くなって逃げ出して今ここにいる。そういうことなんだと思う。
「私は神門が好き!大好き!この気持ちはミラちゃんにだって負ける気はないよ。けど、ミラちゃんはいつもそんな私の一歩先にいた。追いつけなかったよ。私にはあんなに素直になるなんてことできなかったの・・・。それで辛くなって逃げてきたらここに辿りついたの。そして私は思った。こんなに辛くなるくらいなら私が魔王になってこんな世界を壊してやる!ってね」
「そんな理由で・・・そんなくだらねえことでこの世界を壊すのかよ!」
俺はララがこんなに追い込まれていることに全然気づかなかった。ララは今までどれくらい我慢してきたのだろう。どれくらい辛い想いをしていたのだろう。そんなことを考えるだけで俺の心はとても痛かった。
「くだらなくない!私にとってはとても大事なことなの!だから神門なんてもう見たくない!死んじゃえ!」
ララは叫んだ後に魔法で電撃を飛ばしてきた。俺はそれを避けはしなかった。避けたらまたララの気持ちから逃げているような気がしたから。
「なんで・・・なんで避けてくれないの・・・。真面目にやってよ!」
「俺はいつだって真面目だ!今だって!俺は、ララがそんな気持ちになってるなんて知らなかった。そんなに思いつめてるなんて知らなかったんだ。俺が悪かった。謝るよ」
「謝ったってもう許さない!」
「それでもいい!俺は何度でも謝る。ここに来るまでに、俺は多くの人から、みんなの気持ちを受け取ってここまで来たんだ。この世界を・・・いや、お前を救うために!」
「・・・!」
俺はララに近寄って、攻撃されながらも抱きしめた。強く抱きしめた。ララの体温はとても冷たく、今にも壊れてしまいそうな、そんな冷たさだった。
「嫌だよ、離してよ・・・。これ以上好きになりたくないのに・・・」
「嫌だ、離さない。ずっとってわけにはいかないだろうけど、なるべくずっとそばにいる。別にいくらでも俺に甘えたっていい。可能なことなら何をしたっていいさ。俺らは、たとえ血が繋がっていなくても、結婚していなくても、もう立派な家族なんだから、遠慮なんてするな。もちろんミラもいるけど、お前の家はここじゃないだろ。帰ってこいよ、ララ。みんなお前の帰りを待ってるぞ」
「・・・うん。ごめんなさい・・・。ただいま」
「いいよ、気にするな。・・・おかえり、ララ」
ララは泣いていた。今までずっと抱えていたものを涙にして。そんなララを俺は優しく抱きしめた。
こうして魔王になったララは魔王をやめてこの世界を後にした。この世界にまた一つ英雄伝説を残して。その後、魔界を含めて再び平和になったことは言うまでもなかった。




