第16話 さようなら俺とあいつの変わった日常
第二章の最終回です
本当の最終回っぽくなっているかもしれませんが一応言っときます
この話はまだ続きます。
第三章があるので
では、またお逢いしましょう
俺らは今、扉の前にいる。その扉はもちろんファンタジーの世界へ繋がる扉。この扉をミラとララがくぐると扉が閉まってもう会えなくなってしまう。多分二度と会えなくなってしまう。
前の俺ならもちろん喜んでいたと思う。けど、今の俺は素直に喜べない。ミラやララと過ごしていてそれが当たり前になり、その日常が楽しいという別の俺がいる。そんな俺の感情がごちゃごちゃになってしまって本当に帰していいのか分からなくなっている。けど、帰るか帰らないかは俺が決めることじゃない。あいつらが決めることだ。俺には関係ない。けど、なんか寂しくなるな…
「で、今から開くが開いたら誰かが通らないと閉まらないし向こうからも来てしまう可能性があるから絶対に通れよ」
「はいはい。で、どうするんだミラ、ララ。本当に帰るのか?」
「…少し考えていいかな神門?」
「あぁ。で、ミラは?」
「私も考えたい。時間はあるから。明日には決断するから」
わかったと言って俺らは今日はホテルに戻った。みんなも悲しそうな顔をしている。みんなで過ごしてきたからな。やっぱりいざとなると寂しいんだろう。
あの後、帰っているときは誰一人として口を開くことはなかった。今の俺らはスポーツで試合をしていて負けてしまった。まさにそんな感じだ。
確かに今まで一緒に過ごしてきたのにいきなりいなくなってしまうのは悲しいことだ。けど、人には誰だって別れは必然として訪れる。だが、別れがあるからこそ人はその人と過ごした時間を大切に思うことができてそれが想い出になる。けど、やっぱり悲しい。
どこかでいった覚えがあるが俺は勘がいい。だから人の隠し事や考えていることが分かってしまう。だからあえて言おう。今、ミラとララは帰る気でいる。顔の表情などを見ていて俺にはわかる。離れるのは悲しく、辛い。けど、一番つらいのはもちろんあいつらだ。けど、あいつらは向こうの世界の人間であり、こちらの世界の人間ではない。だから、こちらにいるよりは向こうにいたほうが幸せに暮らせる。それは本人達も一番分かっているはずだ。
俺はミラと初めて出会ったのは俺の部屋だ。向こうの世界では噂でしか聞いた事がなかった。けど、実際は噂以上に可愛かった。実際に過ごしていてミラが魔王の娘なんて考えられないくらいだった。それに今は事故ではあったが今ではミラは俺の妻であり、家族だ。子どももできてしまったから否定したくてもできない。ララも家族と同然だ。ララは初めて出会ったのは城だ。当時の俺は勇者だったから必然的に出会ってしまったけど、一緒に旅をしてきた仲間だ。そう考えると離れたくない。一緒にいたい。けど、運命は変えられない。仕方ないのかもしれない。
俺らはホテルにつき、部屋に戻った。でもやはりムードはどんよりしている。みんな風呂に入っていく。俺もはいるとしよう。
俺は風呂の準備をして男湯に入る。そこにはやはり神藤もいる。いや、あいつも男だ。いて当たり前だ。
俺がお湯に浸かっていると神藤が話しかけてきた。
「なぁ、神門」
「…なんだよ、俺に何か用か」
「お前やみんなが辛いのは分かる。俺だって辛い。だからこそ、今は笑っていてやらないとダメなんじゃないのか」
そんなこと俺もわかってる。今は俺が笑っていてやらないとダメなんだ。それは分かってる。一番分かってることなのに…
「まぁ、いきなり笑ってろって言われて無理な話だよな。だから、せめて見送りのときは笑っていてやろうぜ…な?」
「あぁ…」
俺は目から涙を流していた。そんな俺を神藤は慰めてくれる。「俺らの中でお前が一番辛いのは知ってるから」と…俺はその後もすっと泣いていた。
気づくと俺はベッドで寝ていた。確か、風呂で泣いていて神藤に慰められていた。その時に泣きつかれて寝てしまったんだろう。でも、楽にはなった気がする。今ならミラとララの前でも笑っていられる気がする。笑って見送ってやれる気がする。
あれから何時間経ったんだろう。今はまだ月の光で暗い夜は照らされている。多分まだ深夜だろう。俺は起き上がってベランダに向かって歩く。手前まで来てドアが開いていることに気づいた。開いているドアはカーテンで隠されていた。ベランダに出てみるとそこにはミラがいて、泣いていた。
「ミラ、こんなところで泣いてると風邪引くぞ」
俺はいつものように話しかけた。それに気づいたのか手で涙をぬぐってにっこりと笑ってきた。けど、その笑顔はどこか寂しそうでけして笑っているというよりは悲しそうだった。
「徹か。どうしたの?」
「夜風に当たりにきただけ」
「そう…」
「なぁ、ミラ。お前向こうに帰るんだろ?」
俺がそういったら驚かれた。そりゃそうだ。誰にも言ってないのに俺が分かっていたんだから。
「やっぱり徹には敵わないなぁ…」
「ミラの顔の表情とか見てれば分かるよ」
「徹…帰りたくないよぉ…ずっと一緒にいたいよぉ…」
「それは俺も一緒だ。けど、いつまでもお前が行方不明だと向こうでお前を育ててくれたお母さんが心配するぞ」
俺はミラを優しく抱きしめた。ミラは声を上げて泣いている。仕方ないさ。こいつだってまだ十代の女の子だ。無理はないさ。
「だからこそお前はここにはいてはいけない」
「けど…やっぱり帰りたくない…」
「大丈夫だよ。俺とミラは家族だし由紀だっている。それに俺らは絆で繋がってるんだ。大丈夫だよ」
「うん…」
俺はミラをベッドに連れて行き、寝かせてから自分のベッドに戻る。大丈夫、きっとまた会えると俺は信じてるから。
そして次の日。俺らはラースのいる扉の前まで来た。
「それで結論は?」
「私とララは向こうの世界に帰るよ」
「よし、じゃあ扉開くぞ」
そういった後ラースは扉を開いた。いよいよ別れの時間だ。
「じゃあな、ララ、ミラ」
「うん、バイバイ神門」
「じゃあね徹」
俺はこれで十分。もう何も思い残したことはない。
「じゃあね、二人とも」
「「うん」」
理紗は笑っていた。けして泣いてはいなかった。また会えると信じてるから。そんな目だ。
「元気でね、ミラちゃん、ララちゃん…」
「また来いよ」
「もちろんだよ」
「うん」
流石に昨日慰めてくれただけあって神藤は泣いていなかった。けど悠は泣いていたけど。仕方ないよな。ああ見えても悠は女の子なんだから。
「向こうの人によろしくねミラさん、ララさん」
「「うん」」
妹の理沙は流石だな。しっかりしている。けど、やっぱり寂しそうな顔だな。仕方ないとは思うけど。
一通りみんなが最後に言い終えてそろそろ別れの時。
「じゃ、いこミラちゃん」
「う、うん…」
「ほら、ララが待ってるぞ。元気でな」
そう言って俺はミラとララに背をむけた。これ以上はもう向いてられない。俺が泣いてしまいそうだから。だが、背を向けたのに俺はミラに呼ばれてつい振り向いてしまった。
「徹!」
「ん?どうし―――」
俺は最後まで言い切る前にミラに唇を重ねられて口を塞がれた。そう、俺は最後にキスをされた。別れ際のキスを。
「ん…」
「はぁ…じゃ、バイバイ徹。今までありがとう!」
「あ…あぁ!また来いよ!」
こうして扉は閉まった。ラースも一緒に扉をくぐったらしい。そしてみんなは一昨日みたいに元気に歩いて空港を目指す。
あぁ。終わったんだな。これからは静かな日常と言う新しい日常が始まるんだな。
さようなら、ミラとララのいた俺の日常。
さようなら俺とあいつの変わった日常。
また会う日までしばしのお別れだ。それに俺はまた会えると信じてる。ずっと待ってる。こいつらや由紀と一緒に。
こうして俺の変わった日常は幕を閉じた。
第二章 ファンタジー世界の扉探し編 終了




