小さな疑問
何時間歩いただろうか。もう日は暮れかけ、それでもなお雨は降り続ける。
歩くのも辛くなってきた。少し疲れたかな、休もう。
そう思って、近くの段差へと腰掛ける。路地裏に人影は無い。
頭も痛いし、辛いけど。少し休んだら、今度こそ、あいつを殺すんだ。
数分休んで、また立ち上がる。その足取りはおぼつかないけれど。私の身体なんて、どうなっても構わない。
数歩歩いて、雨で湿った地面へと倒れる。私の身体は疲弊しきっていて、もう歩くことすらままならなかった。
姉さんの敵を取るまでは、死ねないけれど……少しだけ、眠ろう。やっぱり疲れてたみたい。
――これが、悪い夢なら良かったのに。
次に起きたら、また姉さんがいてくれたらいいのに。
そんな淡い期待を抱いて、ゆっくりと目を閉じる。
意識が深い夢の底へ引き込まれる前に私が聞いたのは、ぱしゃぱしゃと、水溜りを踏みしめて何者かが走る音だけだった。
夢を見た。
そこには、姉さんがいて。私から離れるように歩いていた。
私は追いかけた。
それでも、距離が縮まることは無かった。
追いつかなくて、泣きじゃくる私に、姉さんは振り返って、何かを呟いた。
何て言ったの? 姉さん。
また歩き出そうとする姉さんに、私は叫んで――飛び起きた。
「姉さんっ!」
はあはあと、荒い息をつく私を見て、そいつは驚いて椅子からひっくり返っていた。
なぜ私はまたこの家にいるのだろう。
ひっくり返ったそいつは、起き上がりながら
「起きたか。大丈夫か、うなされてたぞ?」
と呟く。
どうして私はここにいるのか、と問うと。
「いや、路地裏で倒れてたから。拾ってきた」
人を物のように言うのはどうかとは思うが、それに対する怒りよりも先に、私は疑問を口から放った。
「どうして……?」
「は?」
間の抜けた返事を返されて、私はもう一度、しっかりとした声音で聞き返した。つもりだったのだが、その声音は震えていた。
「どうして、私に優しくするの……?」
そいつは、答えなかった。ただ一言、『さぁな』とだけ呟いて。




