表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/112

91:〔紅月〜狂気に埋もれた感情〕

 さて、魔理沙を前線から離すことが出来たのはいいんだけど……。


「あなたみたいな人初めてかも……。ね、もっと遊ぼうよ」


 目の前で不敵な笑みを浮かべている妹様。流れ込んで来る感情はどうにも楽しげであり好戦的で、いまいち戦う理由が無いこちらとしては、少し困りものである。

 確かに先程はこちらからも攻撃を仕掛けたが、考えてみれば僕が戦うと決めた相手は妹様ではなく、レミリアが言う『運命』なわけで。


「参ったなぁ……」

「なにが?」

「いや、君のお姉さんがさ? 僕が死ぬ『運命』にある、なんて言うもんだから」

「お姉様が? ふぅん……お姉様は『運命を操る程度の能力』を持ってるから……」

「なにそれ反則じゃん」

「そう? でもお姉様自身上手く使えてないみたいだけど。……まぁ、私はよく知らないんだけどね」


 唇に人差し指を当て、僕から視線を外しながら喋るフランドール。その際に少しだけ揺らいだ感情が気になった僕は、余計なお世話かと思いつつも聞いてみることにする。


「よく知らない? 姉妹なのに?」

「うん。だって私ずぅっと地下室にいたし、こうして館の中を出歩くのもスッゴく久しぶりなんだもの」

「地下室? またなんで」


 日の光に弱いとされる吸血鬼とはいえ、窓の少ないこの館なら地下に潜らなくとも大丈夫なはず。

 そう思って何気なく質問すると、彼女は口から指を離して首を傾げていた。

「わかんないけど閉じ込められてたの。私なんにも悪いことしてないのに」


 唇を尖らせて言う彼女。

 なぜ自分が閉じ込められていたのか本当にわかっていない様子だったが、僕には何となくだがその理由がわかっていた。

 おそらくだが、彼女は随分と情緒が不安定なのだ。さらには魔理沙に対して行っていた行為からもわかるが、ああも残酷なことを『遊び』と称して平気で出来る辺り、言っちゃあ何だが気がふれている。僕が言えた義理ではないが。


「ねぇねぇ、猫さんは名前、何て言うの? 私はフランドール。フランでいいよ」


 微妙な気分で彼女の事を考察していると、いつの間にか近付いてきていたフランドール……フランが、赤い瞳で見上げながらそう聞いてきた。そういえば、名乗ってはいなかったか。


「僕はミコト。まぁ猫でも猫さんでも好きに呼ぶがいいさ。で、フラン。ひとつだけ聞きたいことがあるんだけど」

「ん? なぁに?」


 背中の羽らしきものをパタパタと動かしながら、フランは首を傾げていた。見た目は可愛らしい子供そのものなのに。


「フランは、何で僕らと遊ぼうと思ったの?」

「え? あなた達が遊びにきてくれたんじゃないの? 『新しい遊び相手が来るから、たくさん遊んでもらいなさい』ってお姉様が言ってたよ?」


 やはりここでもお姉様。どうにも、今日はお姉様の手の上で踊らされている感が否めない。

 違うの? と聞いてくるフランの頭に手を置いて、目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。


「フラン。ちょっと君のお姉様に用事が出来たから行ってくるけど、いい?」

「遊ばないの?」

「今はちょっとね。けど後で必ず……」


 そこまで言って、なにかがゾワリと全身を駆け巡っていた。

 何が何だがわからず、しかし本能が危険を訴えている。頭の中でけたたましくなる警報。

 後ろで魔理沙が何かを叫んだのと同時に、全力で後ろに跳び――


「ッ!? くぁっ!?」


 瞬間、右手に何かがぶつかったような感覚。ワンテンポ遅れてきた激痛に顔をしかめ、右手を見た僕は自分の目を疑った。




 ――――右手が、無い。






「後でなんて嫌。今、遊ぶの」

「…………!?」


 抑揚を無くした声に、歯を食いしばりながら視線を向ける。

 瞬間全身の毛が逆立つのを感じた僕は、更に後退して魔理沙の横へと着地した。


「ミコト! 大丈夫か!」

「ちょっと右手がトンだだけ。それより……」

「なぁっ!? それよりじゃないだろ、完璧重傷だぜその右手!」


 隣でバンバンと結界を叩きながら叫ぶ魔理沙を横に、僕は汗を垂らしながら息を整えていた。

 流れ込んでくる感情に戦慄を覚えながら、しかし予想していた状況に唇を舐める。


「ねぇ、遊んでくれるよね? 四百年以上地下に閉じ込められていたんだもの……退屈でしょうがなかったんだから」

「フラン。これは遊びなんかじゃない。ただの殺し合いだ」

「何が違うの? 殺し合いって、遊びのひとつなんじゃないの?」

「っ……口で言ったってわからないか」


 覚悟してなかったと言えば嘘にはなるが、できれば真正面からぶつかるような戦い方はしたくなかった。最初こそ片腕を落とそうなんて考えていたが、それは彼女が狂気に刈られているからだと、そうでもしないと彼女は止まらないだろうと考えていたからだ。

 だが、先程の感情の揺らぎを見ると……。


「くそっ……魔理沙、絶対にそこから動かないでよ」


 動けないだろうけど。幽香のあのレーザーすら耐えた結界だ、魔理沙の力ではどうにも出来やしないだろう。

 相変わらず結界を叩き続けている魔理沙を尻目に、僕は妖力を脚に込めて跳び回り始めた。

 それを見てニヤリと笑ったのはフランの方。その小さな身体をフワリと浮かび上がらせると、いつの間にかその手に持っていた一枚のカードを掲げた。



 禁忌「クランベリートラップ」




「スペルカード……!」


 弾幕決闘以外でのスペルカード。

 スペルカードというものは、基本非殺傷の弾幕決闘のルールの中では、その威力はあまり発揮されてはいない。一発当てれば勝ちなのだから、威力を求める必要が無いからだ。勿論、スペルカードを造る時点でそれなりの威力制限はかけられることになるのだが。

 しかし、スペルカードは本人の意思次第でその威力を元の威力に戻すことが出来る。元々当てることのみを考えられている弾幕に、威力が追加される。考えるだけで恐ろしい事態だが、今はそれが目の前で起きているのだから笑えない。


「ちっ」


 跳び回るのを止め、列を成して飛んでくる赤の弾幕の延長線上から脱出する。

 一撃食らっても負けにはならないが、それで動きが止まってしまえば二撃三撃と続けて食らってしまうことも有り得る。どちらにしろ一撃も当たってはいけないのだ。

 固定弾幕である赤の弾の中から、追尾弾らしき青の弾幕から身をかわしていく。考えて避けていかなければ、固定弾と追尾弾に挟み撃ちにされてしまいそうなスペルカードだ。


「…………っ」


 ふらつく足元を気にしながら、これからどう戦っていくかを考える。

 正直な話、正攻法で戦ったんじゃ万が一にも勝ち目は無いだろう。それはそうだ、『一度炎に包まれ』て、『能力で無理矢理動かしている』ような身体では、何をどうしたって勝てはしない。顔や手など、あらわになっている部分こそ多少の火傷で済んではいるが、着物の下は自分でも見たく無いほどの大火傷。皮が焦げて剥がれ落ち、下から現れた肉が化膿して着物に張り付いて引き攣っている。加えて利き腕である右手が吹き飛んでいたんじゃ、勝ち負けどころの話ではない。


「どうしたの? 最初みたいにそっちからも攻撃しなよ!」


 フランの声が部屋の中に響く。同時にスペルカードの効力が切れて、僕とフランは同時に新たなスペルカードを宣言した。


 ――禁忌「レーヴァンテイン」


 ――爪符「地味な業物両手に十本」



 左手に伸びる五本の爪。右手が無いために五本足りないが、無いよりはマシというもの。

 炎剣を片手に空中に浮かぶフランに、五本の業物で勝負を仕掛ける。最初はあの炎剣にやられてしまったが、二度も同じ鉄は踏まない。後手必殺、一度フランに空振りさせ、その隙をつかせてもらう。

 そう考えながら、僕は地面から跳ぶ為に少しだけしゃがみ込んで――



 ――禁忌「フォーオブアカインド」




「な……!」



 しゃがみ込んだまま、目の前の光景に固まってしまう。

 そこには、炎剣を片手に笑みを浮かべるフランが、――『四人』、存在していた。

 固まっていた僕は、しかしすぐにその場から離脱。軋む身体に顔をしかめながら、次々と放たれる『レーヴァンテイン』を避けていく。

 さすがにこれは予想外過ぎる。四人に増えた事もそうだが、あの炎剣が弾幕のように飛んでくるなんて。悪い夢なら一刻も早く覚めてほしい。


「ぐぅっ!!」


 ジュウッ、と肌が焦げる音。冗談じゃない、このままじゃ本当に死んでしまう。

 そう思った僕は左手の爪をフランに投擲。同時にその手をぐっと握りしめ、思い切り手前に引き抜く。


「あ、う? なに、これ」


 同時にクラリと頭を揺らした四人のフラン。そのうちの三人がスッと消え失せ、残ったフランからも炎剣が失われる。

 一応の危険は過ぎ去ったものの、強烈な頭痛と、全身の強烈な痛みに膝をつく。


「やっぱり……っ、無理があったか……?」


 感情を引き抜いたはずが、フランは多少頭を振るだけで倒れてはいない。本来なら感情の一切を引き抜き、相手を行動不能にさせる『引き抜き』。しかし、身体が満身創痍なのと、それを能力で無理に動かしているこの状態では、完全に感情を引き抜くことが出来なかったようだった。それどころか、無理に感情を引き抜いたせいで強烈な頭痛を引き起こし、自分に使っていた能力が緩んで無視していた痛みが振り返すていたらく。今日はやることなすこと全てが裏目に出ている気すらしてくる。

 しかし、引き抜いただけで受け入れてはいないのが不幸中の幸い。今こんな状況でフランの『狂気』を受け入れてしまったら……想像するのもイヤになる。


「うぅ……ふ、ふ? 不思議な能力持ってるのね。じゃあ、私も能力使っちゃおうかな」


 フラフラと空中を漂いながら、しかし口の端を釣り上げながら言うフラン。その言葉に、僕は思わず呻き声を漏らしていた。

 おそらく、僕の右手を吹き飛ばしたのは彼女の能力だろう。大した予備動作も無く、妖力を纏った身体の一部を楽に吹き飛ばすような能力。そんなものを今使われてしまっては……。



「じゃあ、まずは残ってる左手を――」


 依然として続いている頭痛の中、死の宣告にも似た呟きを聞く。

 数秒後には、頭を抱えているこの左手も吹き飛んでいるのだろう。そうなってしまえばもう終わり。抗う術も逃げる術も生き残る術も無くし、後はただなぶり殺しにされるだけ。


「……これが、『運命』だって言うの……?」


 レミリアが言っていたのは、こういうことだったのか。

 本当に、『運命』とやらには抗うことすら出来ないと言うのか。



 ――冗談じゃない。



 ギリッ、と歯を食いしばる。頭が割れるような頭痛が、更にその猛威を振るう。

 諦めるな。頭痛がなんだ。火傷がなんだ。死ぬほど痛くとも、動けない程ではない。右手はもう無い。左手ももう無くなる。だが、右足がある。左足がある。上半身と下半身も繋がっている。口だって動く。声も出せる。目だって見える。開く。


 ――そうだ。諦めるには、まだ早過ぎる!


「あれ、まだ立つんだ」

「……運命とやらに、負けたくは無いんでね。それに、本当にそれが絶対のものなら、僕はとっくの昔に死んでるはずだから」


 そう。僕は、抗いようの無い『絶対の死』と言うものを、既に知っている。

 何をしても、何をしていても、ただ漠然と死に近付いていくあの感覚。

 『生きている』のでは無く、ただ『死んでいく』だけの真っ白な空間。

 あの時は、これが『運命』なんだと。『運命』は絶対のものなんだと、諦めていた。

 けど違った。絶対なんかじゃなかった。『運命』は、『奇跡』で打ち破ることができると、『彼女』が教えてくれた。

 そして、その『奇跡』は自分で起こすものだとも、『彼女』は教えてくれたんだ。

 だから僕は諦めない。

 自分の為にも、『彼女』の為にも。そして。


「……フラン」



 ――目の前にいる、彼女の為にも。


 引き抜いた感情、混沌とした『狂気』の中に微かに感じ取れた、一抹の感情。

 それが何なのかわかった今、僕は負ける訳にはいかなくなった。


「ここまで遊べたの、お姉様と咲夜以外にはあなたが初めてだわ。楽しかったよ。……けど」

「…………」

「私、もらった玩具すぐに壊しちゃうの……きっと、あなたも……」


 気がつけば、フランの手には小さな髑髏が握られていた。僕にはそれが、自らの心臓のようにも感じられる。もしかしたら、本当にそうなのかもしれないが。

 フランはその髑髏を胸元に寄せ、なんとも言えない表情で首を傾げていた。


「なんだかおかしいな。今までずっと、ずうっとこうしてきたのに。……今はなんだか、変な気分なの。あなたを壊したいけど、壊したくない。ねぇ……壊すって、どういうことなのかな」

「……言葉の通りさ。壊れたものは、元には戻らない。直すことが出来るものもあるけれど……フラン。君の手の中にある僕の命は、一度壊れたら二度と元には戻らない」


 霞んできた視界の中、けれどしっかりと言い放つ。

 フランの感情が揺らいでいる。おそらく、フランの感情の大部分を僕が持っている為に、その深層の部分が顔を出しているのだろう。


「元には、戻らない……それって」

「死ぬってことさ」

「!!」

「本当はわかってるんだろう? ただ、わからない振りをしてきただけで」


 彼女とて妖怪だ。たとえ地下室にいたとしても、沢山の命をその手で刈り取ってきたのだろう。彼女の口ぶりからしても、それは間違いない。

 ただ、彼女はその力故に、壊したくないものまで壊してきてしまったのではないのだろうか。せっかく貰った大切なモノも、力加減がわからずに壊してしまう。その度に悲しんで、けれど加減がわからないから、教えてくれる人もいないから何回も同じことを繰り返す。

 きっと彼女は、もう悲しみたくなかったのだろう。壊したくなかったのだろう。けれど、どうやっても壊してしまうから。だから、間違った方法で悲しみを封じてしまったのだ。

 例えば、壊すこと自体に楽しみを覚えれば、悲しむことは無くなるだろう。

 例えば、壊すことが何なのか、それがわからなくなってしまえば悲しみは現れないだろう。

 例えば、大切になる前にそれを壊してしまえば、悲しむ必要も無くなってしまうだろう。

 彼女はそうして、それを何年も、何十年も、何百年も積み重ねてきたのだ。それが気が付けば『狂気』となり、それがまた彼女を間違った方向へと進ませている。

 心の底に追いやられた『悲哀』の感情を見ずに済むようにと、それが更に大きな悲しみを生み出していることも知らずに、彼女は……フランは、今まで生きてきたのだ。

「フラ……ぐ、ゥッ!」

「?」


 フランの名を呼ぼうとして、頭痛が更に酷くなるのを感じた。

 元々、引き抜いた感情はそうそう長く持っていられるものではない。『狂気』のような負の感情なら尚更というもの。

 この頭痛は所謂警告。早く手放さないと、頭の回路がパンクすると訴えかけてきているのだ。

 だが、今感情を手放してしまったら、この『狂気』がフランの元へと戻っていってしまう。


「ぐぅ……ああぁ!!?」


 しかし、このままでは先に僕の方が駄目になってしまう。そう考えた僕は、やむなくフランの感情を手放すことにした。

 途端に頭痛が消え、霞んでいた視界もその輪郭を取り戻す。


 ――だが。



「ッ!?」

「フランッ!」



 底が見えて不安定になっていたフランの心。そこにあの感情が入り込むと言うことは。


「あ、ああ、あああああ」


 手にもっていた髑髏が掻き消え、その手が頭を抱え始めた。

 震えているような、小さくなったり大きくなったり、そんな声が、フランの口から漏れている。

 思わず呟いた一言。




 ――最悪だ。










「あぅ、あ、あは、アハハハハハハハハハハ!? みんな、みんな壊れちゃえ、コワレチャエェ!!」


 狂ったように笑うフランの周りに、おびだたしい数の弾幕が現れる。

 狙いなどあって無いようなものだろう。アレが放たれれば、間違いなくこの館は崩壊する。


 ――考えろ、どうすればフランを止められる。能力はもう使えない。身体も満足に動かない。弾幕を張れるだけの精神力も残っていない。ならばどうする、一体どうすれば……!










「あらあら。大丈夫かしら、御主人様?」










「!?」


 瞬間、目の前が真っ暗になる。

 なんだ、と思った瞬間に、何者かが僕の身体を抱き抱えていた。その人物は、僕の耳元に口を寄せ、小さく、しかし妖艶に囁いていた。


「心地好い闇に惹かれて来てみれば。随分とボロボロね、御主人様」

「……ルーミアか?」

「えぇ。私は貴方の忠実な下僕。ご安心なさい、あの吸血鬼の娘は、私がなんとかしてあげる」


 僕を抱き抱えたまま、闇の女王は暗闇の中で小さく小さく微笑んだ。


再投稿させていただきました。

さすがに前のは短すぎたしなぁ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ