8:〔百鬼闘夜祭・前〕
さてさて、僕は今妖精さん達と共に結界張りに勤しんでいる。
結界といっても、「あれ?見えない壁みたいので進めん」みたいなものではなく、「なんかいきたくないなぁ……」と本能的に思わせる、洗脳系の結界だ。
万が一それを抜けてしまった人間は、少し可哀相だが結界で閉じ込めて同じところを延々と歩き続けてもらう。
僕は前者の担当で、妖精さんが複数で作り上げたここら一帯を覆う結界に能力を使用、結界の範囲内に入った人間に恐怖の感情が込み上げてくるようにする。
一応人間用に力を弱くしてあるが、力の弱い妖精さんは先程から僕にくっついてプルプル震えている。しょうがないので着物の内側に入ってもらっているが、数がだんだんと増えてきている気がする。
流石にすこし鬱陶しい。
後者の結界は他の妖精さん(それなりに力がある)を森の至る所に配置し、結界に入りなおかつ進もうとする人間を見つけ次第結界をかけてもらう。
それでも進んでしまい、運悪く洞窟の前の広場に着いてしまった人間に関しては、ご愁傷様と申し上げるしかない。
流石にそこまで面倒は見きれない。助けられたら助けるけど。
「じゃあ妖精さん達、お願いするよ。無駄ないたずらはしないように」
「「「「は〜い」」」」
うん。素直でよろしい。
ここの妖精さん達はいたずら好きが多いが、そのいたずらもかわいいものばかりなので特に気にすることはない。他の妖怪、妖獣もしかり。
中には僕や桃鬼までとはいかないまでも、かなりの力を持った個体も存在するのだが、僕のところにいる奴はいたって温厚。
危ない奴らは全て桃鬼の方にいってしまったからな。理由が『強そうに見えない』だったから少しカチンときたが我慢した。
「桃鬼。終わったよ」
「おや、ありがとさん」
小高い丘で呑気に酒を飲んでいる桃鬼の横に座り、辺りを見渡してみる。
そこには沢山の鬼。角だらけである。
皆、桃鬼(となんか馴れ馴れしく座っている僕)を見ている。おそらく、桃鬼の言葉を待っているのだろう。
桃鬼は空になった酒の容器を投げ捨て、立ち上がる。
そして、よく通る声で鬼達に言った。
「お前達にはこれから闘ってもらう!勝ち残った奴にはそれなりの褒美をやろう!その力、このアタシに見せてみろ!」
「「「「「オオオオオ!!!!」」」」」
地鳴りのような鬼達の雄叫び。
ろくな説明もなしにこの盛り上がり、流石は荒くれ者が集まっただけはあり好戦的な奴らばかりである。闘うこと自体が好きなコイツラにとっては、今回のこれはお祭りみたいなものなのだろう。
僕は丘から下りて、桃鬼から少し離れたところで立ち止まる。
「闘いが嫌な奴はミコトのところに行け!無理に闘う必要はないぞ!」
ピタッと雄叫びが止まる。
……なんだよコノヤロー、そんなに僕が気に入らないか。なんなら今ここで桃鬼と闘ってやろうか。そうすればコイツラも認めざるをえまい。
とか考えていると、僕の懐に入っていた妖精さんがトントンと僕の身体を叩いていた。
何かと顔を下げれば、そこには僕より頭一つぶん小さな鬼の女の子。
「……どうしたの?」
「…………」
女の子は僕の質問には答えず、僕の着物をキュッと握っていた。
「他にはいないな?ならば、始まりだ!方法は一対一!勝った方は自信があるなら続けて闘っても一度抜けてもかまわない!その代わり、負けたらそこで終わりだ!破った者には制裁を与える!最終的に最後まで残っていた者を勝者とする!場所は――」
桃鬼が大きな声で簡単にルールを説明している。
その間、女の子はずっと僕の着物を握っていた。