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58:〔時を経た幻想郷 守護者の疑問〕

更新遅れました……。


人里のとある寺子屋。

誰もいない教室を見渡し、彼女――上白沢慧音は大きな伸びをして息を吐いた。

今日の寺子屋は午前中で終わり。授業を受けていた子供達も今は元気に遊んでいることだろう。妖怪が人里では人間を襲わなくなったために、今ではそんな心配は無用。人里の守護者である彼女としては安心の一言である。


が、しかし警戒を怠るわけにはいかないわけで。


「うん……?」


人里に見知らぬ妖気を感じ取った彼女は、いつもと変わらぬ足取りで寺子屋から出ていくのだった。










「アイツか。なんというか……地味な色合いな癖に目立つ妖怪だな」


通りに出て気配のする方向へと顔を向けると、そこには案の定妖怪の姿があった。

大結界が張られてからは、妖怪も普通に人里に出入りするぐらいだから別に何も珍しいことではない。

しかし、その妖怪、いや妖獣の姿はある意味異質だった。

簡単に言えば灰色。

難しく言っても灰色である。


「灰色と言えば、アイツを思い出すな……。うん?アイツ?」


……自分で言った言葉に疑問を覚えた。疲れているのだろうか。

だがその言葉に疑問を拭い切れない私は、しばらくその灰色を眺めて考えに耽った。

どこかで見たような、しかし全く覚えがない不思議な感覚。


「そういえば、資料の中に同じような灰色の妖怪がいたな。それか?……いいか、そういうことにしておこう」


私の資料、稗田家が代々纏めてきたものの中に、あの妖怪と同じ灰色の妖怪が記されている。

伝説の妖獣であり、速さでは他の追随を許さない。曰く人の感情を自在に操ることが出来たという化け猫だ。

しかし、大結界が張られてからはその姿を見た者はいないと言う。

それどころか、その化け猫の姿を見た、という情報すら無い。記録には残っているが、記憶には残っていない。まさに伝説の妖獣となっている。


「いや、今はそんなことはどうでもいい」


私は軽く頭を振り、店先に並んでいる林檎をじっと見つめている彼女に近寄った。

私の接近に気が付いた彼女は、二本の尻尾をピンと立てて驚いていた。


「見ない顔だな。名前は?」

「…………」

「どうした?」


当たり障りの無い言葉を選んだつもりだが、彼女は尻尾をフラフラと揺らしながら私の顔を見つめていた。

まるで何かを確かめるように、だ。


「私の顔になにかついているか?」

「…………」


ふるふる、と首を横に振る彼女。


むぅ、と思わず腕を組んで唸ってしまった私だが、やはり彼女は私の顔を見つめ続けていた。

こうしていてもらちが開かない、どうせだから家にでも招待しようか、と考え、


「あうっ!」


私の後ろで、小さな子供が転んでしまっていた。

子供は俯せの状態から身体を起こして座り込み、涙目になりながら擦りむいた膝を眺めた。

土が付いた傷口から血が滲み出て、なんとも痛々しい。


「…………」


すると、相変わらず何も喋らない彼女がふらふらと子供の所へ歩いていく。

何をするのか。もし危害を加えるようだったらその場で消し飛ばすことも考えながら私も後を追った。


「……痛い?」


しゃがみ込んだ彼女の問いに、子供は今にも泣きそうになりながら頷いた。

それを見た彼女は、うっすらと微笑みを顔に浮かべ、血が流れ始めた傷口に手を伸ばす。


「……『分けて』あげる」


そして、彼女がそう言った時。


「――――!」


神々しい、それでいてどこか柔らかな光が彼女の手から現れた。

思わず息を呑む。


「痛い?」


彼女がそう言いながら手を離す。

信じられないことに、傷口は無くなっていた。

驚いている子供は、それでもすくっと立ち上がり、彼女にペコッと頭を下げて走り去った。


「…………」


子供が走り去った方向をこれまたじっと見詰める彼女。

その身体が、不意にフラリと揺らぐ。


「お、おいっ!?」


驚きで身体が固まっていた私は、それを見て慌てて彼女を抱き留めた。トスンと右腕に受け止めた彼女の身体は驚く程に軽く、またしても私を驚かせる。


「大丈夫か?」

「…………」


薄く開かれた眼でコクりと頷く彼女。全く、信じられるわけがなかろう。


「すぐそこに私の家がある。休んでいくがいい」


返事を聞かずに彼女を背負う。その際、フラリと揺れる尻尾が見えた。










彼女を部屋に降ろし、壁に寄り掛からせて座らせる。

たたんでいた敷布団をその横に敷き、どうぞ、と一言言ってあげると、彼女は素直にそこに横になっていた。


「これは……」

「うん?……あぁ、それは私が使っている資料だ。悪い、整理していた最中なものでな」


寝転がったそばにあった私の資料に手を伸ばした彼女は、その内の一枚を手に取った。

その紙に記されているのは、彼女と同じ灰色の妖獣。


「その妖獣はもう長いこと姿を見せていない。もしかすると、もう死んでしまったのかもしれないな」

「…………」


私がそう言うと、彼女は紙をゆっくりと元の場所に戻し、ゴロンと寝返りを打って天井を見上げた。

だんだんと細くなっていく眼は、しかし完全に閉じることが無い。まるで天井の向こう側、空を見通しているかのよう。



「慧音。いるか?」


ガラガラ、と玄関が開く音。それに反応してそちらを見ると、そこには白髪赤眼の女性の姿。


「妹紅。どうした?」


言いながら視線を戻す。彼女は既に目を閉じ、規則正しい呼吸を繰り返していた。

随分とまぁ……警戒心が無いと言うか。


「――!慧音、そいつは!?」

「ど、どうしたいきなり。彼女のことなら私も知らない。ついさっき出会ったばかりだ」

「……そうか。慧音もだったな。いや、何でもない」


彼女を見た瞬間に慌ただしくなった妹紅だが、驚きながらも返した私の言葉を聞くと急におとなしくなっていた。

私はそんな妹紅に疑問を覚えながらも口には出さず、妹紅と共に眠っている彼女を見つめた。










「…………」

「礼ならいい。とにかく気をつけてな」


しばらく眠り続けた彼女は、夕方に目覚めるや否やふらふらと立ち上がり、私にペこりと一礼した。

一応妹紅がついていくと言って共に出ていったが、果たして大丈夫なのだろうか。

部屋に一人残された私は、なんだか複雑な気分で残った仕事に向かう。

纏めた資料の一番上、灰色の妖獣がこちらを見ているように見えた。

しばらく、こんな感じで進んでいきます。


面白みに欠けるかもしれませんが……

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