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5:〔能力 パート2〕

「準備はいいかい?」


洞窟の前、木々が無く開けた場所で、僕と桃鬼は向かいあっている。

桃鬼は角を触りながら僕に聞いてきた。


「準備っていうか……」

「なんだい、歯切れが悪い」

「いや、ホントにやるのかと」


こうして僕と桃鬼が向かいあっている理由。それは、まぁ、僕に原因があるといえばそうなるのだけど。


「はぁ……聞かなきゃよかったかな」


尻尾を一振り。僕は、空を見上げてこうなった理由を思い返す。










三ヶ月程前だろうか。能力を自覚したはいいものの、イマイチ活用法が見出だせなかった僕は、ごく自然な流れで桃鬼にこう聞いていた。


「能力って、どうやったら使いこなせる?」



僕の尻尾やら耳やらをフニャフニャして遊ぶ手を止め、桃鬼は僕の肩に顎を乗せた。彼女、こうしたスキンシップを多用する。最初の頃はいちいち顔を赤くしていた僕がいたが、すっかりなれてしまった。


「そうだね……。アンタの場合、能力に頼らなくても充分闘えてるとは思うんだが」

「…………」


うーん、と桃鬼の顔がある方とは逆に首を傾ける。


確かに、この身体の身体能力は凄まじいものがある。

おそらく妖怪であろうこの身体。妖怪だから、というだけでも充分納得は出来るのだけれど、それでも元人間、しかも病人だった僕からすればとてつもない力がこの身体にはあるのだ。

初めて桃鬼と闘った時の様に、全力全開を出せば抵抗ぐらいはできたのだし。


ちなみにこの鬼、歳はもうすぐ五十になるらしい。なのにこの見た目。反則だろう。

逆に桃鬼から歳を聞かれたのだが、僕はすぐに答えられなかった。それというのも、猫又としての歳がわからないのである。人間だった頃なら答えられるが、それでは意味がないだろう。精神年齢ならともかく。

面倒だったので零歳と答えると絶句していたが、それならその妖力も納得出来る、としきりに頷いていた。

ついでに、と名前も聞かれたが、こちらはわからないということにしておいた。おいおい考えればいいだろう、とポジティブに考えた結果である。人間だった頃の名前をそのまま使うつもりはない。


「でも、せっかくの能力だし。使えるようにはなっておきたい」

「使えてるじゃないか」

「いや、そうじゃなくて……」


また僕の耳をいじり始めた桃鬼を他所に、僕は腕を組んで考える。


この『感情を操る程度の能力』。果たしてどれ程のキャパシティがあるかがわからない。


桃鬼いわく、能力は使っていけばだんだんと応用出来るようになるらしい。桃鬼の能力『硬度を操る程度の能力』も、最初は自分の身体にしか使えなかったらしい。それがだんだんと、自分の身体のみ→切り離した身体の一部(髪の毛)→身体に接する物→視界に入った物、と使えるようになったと言っていた。


そう考えると、この『感情を操る程度の能力』は、最初の時点でどれだけのことが出来るのか。

真っ先に試したのは自分の感情を操ること。まぁ、喜怒哀楽の四種類程なら自由に変えることが出来た。ただ、まだ力が上手く使えていないのか、それなりの理由がないとすんなりと感情が移らない。何の理由も無しに怒りの感情にしようとしても、なかなか上手くいかないのだ。それでも頑張れば出来るけど。


自分に使えることはそれでわかったが、次の問題は自分以外に使えるのかどうか。

こればっかりはどうしようも出来ない。

桃鬼のように相手が『物』ならともかく、僕の相手は少なくとも『心』を持った相手がいないと成立しない。

桃鬼に試してもいいのだけれど、その後が怖い。もし怒りの感情を植え付けて元に戻せなかったら大惨事である。

と、それを踏まえて桃鬼に話をすると、返ってきた返答が。


「なにを遠慮してるんだい。アタシにやればいいじゃないか」


である。果たして僕の話を聞いていたのか疑問が残る。

その後、勝手に話を『試し』から『決闘』に昇格させた桃鬼の思考回路も甚だ疑問である。










「もっとストレートに言えばよかったんだろうか」

「何をぶつくさ言ってるのさ。準備はいいのかい」


気が付けば桃鬼は角を触るのを止め、その手に石を持っていた。


「これが地面に落ちたら始める。用意はいいかい?」

「……いつでもどうぞ」


僕の言葉を聞き、嬉しそうに口の端を吊り上げる桃鬼。

多分桃鬼は闘うこと自体が大好きなんだろうなぁ、と考えている内に、石が宙に舞っていて。


――それが地面に着いた瞬間、僕の身体に向かって針が飛んでいた。


「っ!」


一瞬で全開、僕は崖の中腹に跳び移る。口に入る液体からは鉄の味。

頬に出来た切り傷を触り、僕は前と同じように跳び回り始める。


「相変わらず早い。……けれど、いつまで避けていられるかな!?」


一瞬前までいた場所に髪の針が突き刺さっていく。

動きを止めた瞬間に串刺しコースだが、動きを止めなければいい話。僕はギアを全開にして、桃鬼の隙を伺う。


しばらくはその攻防、といっても防戦一方だけども、桃鬼は全く隙を見せなかった。やはり二度目ともなれば警戒されている。

さてどうしようか、と針を避けながら考えていると、桃鬼が突然攻撃を止めていた。

その表情は不敵な笑みを映していて、それが僕の不安を煽る。


なにを、と聞こうとして木に着地。その瞬間、僕は理解した。


――針が、僕の足を貫いていた。


「ぐっ……!?まさか……!」

「そのまさか、さ。もう跳び回れないよ」


ドサッと音を立てて地面に倒れながらも、僕は周りを見渡した。

どこを見ても、薄い桃色の針だらけ。これが狙いだったか。


「さぁ、どうする?」

「くっ……」


足に刺さった針を抜き、それを桃鬼に投げる。が、針は桃鬼に刺さる前に失速、ハラハラと地面に舞い落ちる。やはり、髪に戻された。


ならば、と僕は身を屈めてジャンプ。崖の上へと飛び上がり――。


「無駄だよ。そら」

「なっ!!」


着地した瞬間、地面がぐにゃりと沈み始める。

慌てて飛び降りると、崖は少し歪んだ状態で固まった。

桃鬼め、崖の硬度を下げやがった。

どうやら、彼女は直接勝負をお望みらしい。


――なら、試させてもらおうじゃないか。



「さて、もう逃げることは出来ない。どうする?」


――こうするさ。


「フーッ、……フーッ……!」

「……!?」


ザリ、と後ずさりする桃鬼。無理もない。

今の僕の姿は、いきなり見れば皆そんな反応をするはずだから。


『感情を操る程度の能力』。


自分の感情を操り、怒の配分を多く、けれど理性は残しながら。

自ら怒りを誘発させ、身体を無理矢理戦闘モードに移行させる。

瞳孔が広がり、四つん這いの体勢になる。全身の毛が逆立ち、爪が地面をえぐり返す。

こうなれば、僕に逃げの思考は生まれない。

言うなれば、軽い洗脳。


「――シッ!!」

「っ!?」


桃鬼が戸惑っているのがわかる。それを見逃さずに真正面から突撃、力を篭めた爪を繰り出す。

ガキィ!と音がして、針で防がれたと理解した。

反撃される前に身体を翻して空中にエスケープ。


(危ない危ない。最初の目的を忘れるとこだった)


そのまま、桃鬼の感情を『探る』。やはり、漠然とではあるが、わかる。

今は……驚嘆?僕のいきなりの豹変に、驚いているみたいだ。


「なら……!」


手を桃鬼に向け、グッ、と握る。そして、見えない糸を引っ張るように右に引っ張る。


「……!?なっ……」


すると、桃鬼はフラリと身体を揺らし、ペたりとその場に座り込んだ。同時に、辺り一面に張り巡らされた針のカーテンが姿を消す。針から髪に戻ったのだろう。

僕は自分の感情を平常に戻し、桃鬼に歩み寄る。


「……アンタ、何をした?」

「少しばかり感情を悲しい方に引っ張った。どんな感じ?」

「何が、少しだい……!なんか知らないけど、すごく、せつないよ……!」


グッ、と自分の服を握りしめながら言う桃鬼。


……うぅ、そんな潤んだ瞳で見上げられたら、罪悪感が……。



「……ごめん。やりすぎた」

「そう思うなら、早く、戻して……!」

「わかった、えーっと…………あれ?」


……どうしたのだろうか?桃鬼の感情が操作出来ない。

と、僕はそこで気が付いた。桃鬼の感情が流れ込んでこないことに。

そして理解。

この能力、他人に使う場合は、まず相手の感情がわからないと使えないみたいだ。

その時の相手の感情を読み取り、その感情を原点として操るので、原点がないと操ろうにも操れないのである。


結論。

懸念していたことが、若干ズレて現実となりました。


「……ごめんなさい」

「な、なにを謝ってるんだい。は、早く……」

「いやだから、ごめんなさい」

「まさか……戻せない、とか?」

「ま、まぁ一時的な感情だから?時間が経てば治るよ多分」

「じ、冗談じゃないよ!こんな、こんな感情……どうしたら……」


あたふたしながらもどこか弱々しい桃鬼。

どうやら自分では立てないようなので肩を貸し、とりあえずベッドまで運ぶ。

寝て起きれば治るよ、なんて適当なことを言って寝かしつけることにする。


……それにしても、なんでいきなり使えなくなったんだ……?


「ね、ねぇ……」

「うん?」

「その……あの……ち、近くに……いて……」

「……あぅ」






ちなみに、この状況は三日間続いてしまいました。

主人公の名前は、もう少しで出てきます。


さて、この『感情を操る程度の能力』。考え方次第でいろいろと使えそうですが、それなりに制約もあります。今回も一つ出てきましたが、まだあります。


うぅーん。桃鬼が艶、いや強い。

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