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46:〔一陣の風に舞い散る花びら〕

「伝説の化け猫も、所詮はこの程度かしら」


傘を一振り、私は呆れてそう呟いていた。

前々から噂は聞いていた。途方もなく長い時間を生きた伝説の妖獣。その妖獣とは思えない妖力と類をみない圧倒的速さで、鬼すら打ち倒すことが出来たと。

もしかしたら、この私よりも強いのかもしれない。そう考えていた矢先に現れた彼は、


「期待ハズレ……。伝説なんてそんなものかしらね」


今、遥か向こうの森の中に吹き飛んでいった。

言うほど速くは無かったし、もしかしたら伝説自体眉唾、いや、まずアイツは偽物だったのかも。そう考えれば納得出来るし、何よりまだ楽しみがあるということ。

私はそう思うことにして、踵を返して家に戻ろうとした、が。


「……何か用かしら」

「いいえ?ただ、まだ終わりではないのではないかと思ってね」


いつの間にかそこに存在していた大妖怪の姿。私は舌打ちをして彼女に向かいあった。

戦ってもいいが、コイツの能力は敵に回すと厄介だからだ。


「もう終わったわよ。あんな妖力じゃ、私の一撃には耐えられない」


そう。あの程度の妖力では、どう足掻こうと耐えられない。死なないにしても、すぐに立ち上がることは出来ないだろう。

だが、目の前のコイツは私の言葉を聞いて、あろうことか笑っていた。


「何よ。何か間違っているかしら」

「フフフッ……いいえ、『知らない』って幸せね」


クスクスと笑う。

さすがに少しいらついた私は、傘をコイツの喉元に突き出そうとして、


「っ!!?」


瞬間、全身に鳥肌が立っていた。


――なに、この強大な妖力は!?


思わず振り向いたその先には、先程あの化け猫を吹き飛ばした森の姿。

まさか。


「精々頑張りなさいな。言っておくけど、貴女の想像以上に恐ろしいわよ?……敵に回したら、ね」

「くっ!」


言いようのない恐怖感に駆られながらも、私は背後に傘を突き出す。

しかしすでに、八雲紫の姿は無かった。


「…………面白いじゃない!」


ギリギリと、歯が砕けそうになるほどに食いしばる。


認めない。


この私が、他の妖怪に対して、


――――××しているなんて――――。
























「……やってくれるじゃんか、風見幽香」


木に寄り掛かるようにして立ち上がり、口に溜まった赤色を吐き捨てる。

話には聞いていた。


風見幽香――。


その圧倒的な妖力と身体能力で、邪魔が入れば人間妖怪関係無く滅ぼしにかかるという恐怖の存在。


「あの様子じゃあ、戦いに恐怖を覚えたことが無いみたいだな」


確かに身体能力は凄まじい。油断していたとはいえ、僕が一瞬見失う程のスピード。

まぁ、たとえ見えていたとしても、今の僕では身体の方が追い付いてこなかっただろうが。


「それにしても……」


込み上げてくる鉄の味を飲み込み、遥か向こうにいる風見幽香を睨みつける。

いきなり襲われ、さらには一撃食らって黙っている程僕は優しくはない。相手がそれなりの実力者なら、尚更だ。


「試しもかねて、早速使わせてもらうよ、永琳」


着物の内側に忍ばせていた小さな箱を取り出し、開く。

中には灰色の小さな丸薬が、ミッシリ。


「……今はいいや」


ツッコミたくなったが、グッと堪えて、そのうちの一粒をつまんで口にほうり込む。

奥歯でかみ砕き、そのまま嚥下。


喉元を何か熱いものが過ぎていき、胸辺りでさらに熱さを増すそれ。


パチン!と何かが弾けた音が、頭の中で響いて。


「……懐かしいねぇ」


身体に満ち溢れる妖力を惜し気も無く解放。

僕は、狡猾な笑みを浮かべて森を飛び出した。





「なっ…………」


風見幽香が驚きの声を上げた時には、僕は既に懐に飛び込んでいた。

額がぶつかりそうになるギリギリの距離で、僕は言う。


「怖いのか?」

「っ!」


驚きとも怒りとも取れる表情で拳を突き出す風見幽香。

だが、遅い。

何も無い場所に拳を突き出している彼女の背後、肩に顔を乗せて、もう一度。


「怖いんだろう?」


ギリ、と歯を食いしばる音。その瞬間には、僕はもうそこにはいない。

半ば瞬間移動じみた速さに、風見幽香は歯噛みしている。

これは初速がほぼ最高速に近い僕だからこそ出来る技。妖力で身体を強化しないと、止まる瞬間に脚がイカレてしまうので今しか使えないのが少し残念だが。


「くっ……!まだ終わりじゃないわ!」

「終わりだよ。お前が僕に恐怖した時点で、ね」


右手を突き出し、風見幽香の感情を掴み取る。

すでに恐怖に染まり掛かっている感情を、僕は。


「堕ちろ」

「…………っ!」


思い切り、右に引く。

瞬間崩れ落ちそうになる風見幽香だが、そこはプライドが許さないのか倒れはしなかった。


だが、まだ終わらない。

今の僕は、ちょっとばかり残虐なんで。


「これ、お前の前にも食らった妖怪がいたんだけどね」

「……!?」


額をつけ、目を閉じる。


「大丈夫。ほんの二、三秒で千回程死ぬだけだから」

「……なっ」

「じゃあ――良い夢を」













「……っは!?」

「あ、目が覚めた?」


僕の膝の上で、額に汗をじっとりとかいた風見幽香、幽香でいいかもう。

幽香が、目をパチパチとさせている。

うん、まあ当然の反応。


「わ、私」

「良い夢見れた?ていうか、随分酷かったねぇ、夢の中の僕」


何が起きたのかがわからないのか、幽香は起き上がりもせずに、いや、起き上がれないのかもしれないが、下からじっと僕を見上げている。こうしていればかなり綺麗な人なのに。妖怪だけど。

ちなみに今は夕方を通り越して夜寸前。


「……何をしたの?」

「ちょっとばかし夢を見てもらっただけ。どこから夢かは自分で考えてみて下さいな」

「じ、じゃあ、あれは全部……」

「どこから言ってるかはわからないけど、後半はだいたい夢だね。ちなみに、細工して君の感情が直接夢の内容に影響するようにしたから、あの僕は君が思い浮かべた僕そのものだ」


実は能力と幻術の応用なので純粋な夢とは言えないが。ちょっとセリフも弄ったし。


「どうして殺さないの?」

「理由が無いから。確かに少しいらついたりはしたけど、その分はお返ししたからね。それに、寝顔が綺麗でしたから」

「…………おかしな妖獣」

「名前はミコト」

「知ってるわ。ついでだから、私を家まで送ってくれないかしら。お茶ぐらい出すわよ」


やはり起き上がることが出来なかったらしい。

僕は幽香を抱き抱え、幽香の指差す方向へと歩き始めた。









首を垂れた向日葵。

それがまるで今の幽香のように見えて、不思議な気持ちになったのは秘密。

勉強しなきゃいけないのに。

あ、試験明日だ。

もう関係ねぇや、ハハハハハッ!





ちなみに、現在人気投票は志妖がトップ!

むぅ、やはりあの人畜無害な性格が……?

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