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42/112

42:〔気に入らない。けれど〕

一日寝かして、旨味を増してから投稿……。


嘘です。すいません。

「あ、あの……」

「うん?」


ミコトさんがスキマへと消えて行くのを見送ってから数分。私は残っていたりんごを少しずつ口に入れながらのんびりと過ごしていると、少女が不意に声をかけてきた。今度は嚥下するのに数秒もかからず、すぐに返事を返す。

少女は、ミコトさんが消えていった、今は何も無い空間を見つめながら口を開いた。


「あの方って、もしかして」

「知っているのか?まぁ、確かにミコトさんはあれで強力な妖獣だけれども……」

「ミコト、ミコトってやっぱり……。あ、あの方が、伝説の化け猫の!?」

「で、伝説?」


急に騒がしく喋り始める少女の尻尾は、二本ともピンと立っている。

それにしても、ミコトさんが伝説?


「詳しく教えてくれないか?ミコトさんが伝説だって?」

「はい!巷の猫の間では有名なんです!すごく昔から生きていて、最強の化け猫だって……!」

「ほぅ……」


まるでずっと憧れていた……いや、事実憧れていたのだろう、少女の尻尾はちぎれんばかりにブンブンと振られている。

わからなくもない、確かにあの方には何か惹かれるモノがあるし、実際とてつもなく強い。もはや妖獣の域を超えているような存在なのだから、同族の彼女にとっては英雄のような存在なのだろう。

……まぁ、長く生きている割には子供っぽいところもあるのだが。


「あの方が……わぁ〜……」


目を輝かせながら呟く少女。

しかしなんだ、少しばかり嫉妬もしてしまう。

私とて妖獣の中では最高の位として扱われる九尾の狐。それに正直、こんなに可愛い娘にあんなに懐かれて……。いやいや、今はそれよりも。


「私は八雲藍という。見ての通り、九尾の狐の妖獣だ。君は?」

「き、九尾の狐……!あ、えと、橙です」

「橙、か。成る程……」


見れば見るほどに可愛らしい。

なんだか、このまま手放すのは惜しい気さえしてきた。

そうだな……。


「なぁ、橙」

「はい?」










鼻歌混じりで人里から少し離れた獣道を歩く。はて、メロディーは覚えているのに曲名や歌詞が全く思い出せない。


「……当たり前か」


考えてみればこの身体になる前の曲だ。逆にメロディーを覚えている方がすごいのか。


「……ん?この場合、未来の曲になるのか?」

「なにがかしら?」

「いや、こっちの話」

「……驚かないのね」

「いるのわかってたし」


横から現れた我が主人こと八雲紫がつまらなそうに呟く。いちいち驚いていたら身が持たないことを理解して欲しい。


「で?今回は何の用?」

「えぇ。単刀直入に、一時的に貴方の式を剥がすから、それを言いに」

「式を?またなんで」

「最近、人間と妖怪のバランスが崩れてきてるの。人間の数が増えて、妖怪の勢力が押されてきていてね」

「……?」


首を傾げる。確かに最近人里が賑やかだとは感じていたが、それがなぜ式を剥がすことに繋がる?


「何故、って顔ね」

「いまいち理解が追い付かなくてね」


それもそうね、と紫はスキマから飛び降りた。傘をさしながら僕の隣を歩き始める。


「ようは、妖怪の数を増やしたいのよ。そのために少し力を使うから、貴方に使っている力を戻そうと思ってね」

「僕にそんなに力を使って?」

「いいえ。封印のお陰でほとんど。でも念のために、ね」

「ふうん……」


てくてく歩いていく僕等。

それからどうやって妖怪を増やすのかの説明を聞いたが、どうやらなかなかに画期的。


それは、此処、幻想郷の周りに『幻と実体の境界』なるものを創り、幻想郷自体を一つの『世界』としてしまおうというものである。

そして、幻想郷の中を幻の世界、外の世界を実体の世界とすることで外で幻となった妖怪をこちらに呼び込もうということらしい。


「スケールがでかい話だ……。一つの世界を創り出すなんて」


僕の言葉に、フフ、と小さく笑みを零す大妖怪。

それを見て何となく溜息をつくと、僕は右手首のリボンを解いて紫に手渡した。しばらくはスキマが使えなくなるが、致し方ない。


「ありがとう。じゃあ、私はしばらく留守にするわ。藍をよろしく頼むわね」

「はいはい」


飄々とした面持ちでスキマへと消えていく紫を見送り、僕は今日も青い空を見上げた。


と、一息入れる間もなく。


「ミコトさん」


またもスキマが開き、中からは藍と先程の少女が出て来た。今度はなんだ。


「どうしたの?」

「紫様から話は聞きました。その件で私も紫様の手伝いをするので、この娘……橙をしばらくお願いしたいと思いまして。ほら、橙」

「あう……その、あの」

「橙?そんなに畏まる必要はないんだ。ほら、さっきみたいに」

「はい……」


おい、なんだその仲よさ気な雰囲気は。僕がいなくなってからなにがあった?猫は非常に気になってます。


「あ、兄様!」


なんてくだらないことを考えていると、いきなり彼女、いや橙がそう叫んだ。え、兄様って僕のこと?


「し、しばらくの間、や、よろしきゅお願いしましゅ……」


噛み噛みになりながら言う橙。

その可愛らしさに若干ながら心を揺さぶられ、これはいけないと頭を振る。反則だろう、これは。


「では、よろしくお願いしますね。あ、出来れば橙に戦い方や妖術を教えてあげて下さい」

「え、ちょ」


橙の可愛さにやられている隙に、藍はさっさとスキマに消えていってしまった。

残されたのは二匹の猫又。


「……これからどうしろと?」

























で、正直なところ明確な目的も無かったので。


「ニャン?」

「ミーミー」

「フミャー!」

「ニャンニャン……」


普段橙が主体となっている猫グループに会わせてもらった。

ちなみに今のを訳すると、

「この方が?」

「そうみたい」

「感動だー!」

「カッコイイ……」


といった感じ。

どうやらリスペクトされているようだが、そんな覚えは全くないんだけれど……。


「兄様は、猫の間ではとっても有名なんです!伝説なんです!」


総勢十四匹の猫がズラッと一列に並んでいるある種異様な光景を眺めている僕に橙は言う。

はて、僕が伝説?


「伝説ねぇ……。特に何をしたわけ訳でもないのに」

「何千年も昔から生きている最強の化け猫で、あの鬼を打ち負かしたという兄様を知らない猫はいません!」

「むぅ……事実だけど。というか橙、兄様って?」


先程から気になっていたことを橙に聞く。別に悪い気はしないけれど。

すると橙は、少しだけ顔を伏せて小さな声で呟く。


「だ、だめですか……?」

「ぐっ…………!」


上目遣いの橙に何かが弾けそうになった。が、そこはなんとか踏み堪える。

全く、感情を操る僕をここまで揺さぶるとは。橙、侮れん。


「いや、別にいいけど」

「本当ですか!?わーい!!」

「おわっ」


なるべくクールに答えた僕に、喜び勇んで飛び付いてくる橙。これは狙っているのか、それとも純真無垢な感情の表れなのか。後者なら嬉しい。だがそれゆえに破壊力が凄まじい。


その後、背中に張り付いて離れない橙をぶら下げながら辺りを歩き回った。

























「……ん」

「どうかしましたか?」

「いや、終わったみたいだな、と。そろそろ迎えに「来たわよ」……迅速な行動どうも」


依然として背中に引っ付いたままの橙を剥がし、前方から現れた紫に向き直る。と、


「ととっ、どうしたのさ」


スキマからズルリと抜け落ち、そのまま地面に向かって倒れていく紫を抱き留めた。

僕にしがみつく紫の表情は、いつもの胡散臭い笑みはかけらも存在しない。


「少し力を使い過ぎてね……。でも、計画は成功したから大丈夫よ」

「心配の方向が違うだろうに。そんなに無理するぐらいなら……」


やらなければよかったのに、と言いかけて、その言葉をすんでのところで飲み込んだ。

代わりに体勢を入れ替え、上半身を抱えたまま地面に座る。


「寝れば治る?」

「妖力が少なくなっているだけだから、時間が経てばね。大分時間はかかるけど」

「どれくらい?」

「わからないわ。少なくとも、一日二日じゃ無理」


いつもの口調で、けれど若干弱々しく感じさせる声で言う紫。


……ええい、まどろっこしい。


「頼みがあるならさっさと言え。紫らしくない」

「……!」

「僕の能力、忘れたの?隠し事なんかすぐにわかるんだよ。だから、早く」


語尾が情けなく小さくなってしまったが、別に気にしない。

そんな僕を見て、紫はクスリと笑って、右手首を僕に差し出した。そこには、リボンが。


「これを?」

「ええ……。これを付けると、貴方の封印されている妖力が私に流れ込む。けれど」

「そか。じゃあ早速」

「え……ちょっと」


紫が何かを言う前に、僕はリボンを解いて自分の右手首に結び付けた。

途端に身体が重くなり、


「ぅん……!?」


力が抜けて、抱き留めていた紫の身体にのしかかってしまった。

いけない、と無理矢理身体を起こし、なんとか持ちこたえる。


「成る程……。これは、また……」


封印とは一味違う、段違いの脱力感。


「貴方も大概、人の話を聞かないのね」

「……初めて言われたよ、そんなこと」

「そうかしら。少なくとも私は……いえ、やっぱりやめておくわ」


紫は僕の腕から離れ、何事も無かったかのように立った。紫の身体には元通り、いや、数倍力強くなった妖力が感じられる。


「……どう?」

「えぇ。とてもいい気分で、かなり最悪な気分」

「……は?」


矛盾してる、とは言わなかった。言えなかった、の方が正しいけれど。男のメンツで馬鹿みたいに仁王立ちしてはいるけれど、気を抜けば今すぐに世界がひっくり返りそうだ。


「……疑問だわ。妖怪は得てして自分勝手に行動するもの。なのにどうして」

「…………」


鋭い視線が僕に突き刺さる。

橙は、いつしか現れていた藍の陰に隠れていた。


しかし、どうして、か。


「さあね……。でも、妖怪は妖怪らしくなきゃいけないの?」

「?」

「別にいいじゃないか。妖怪だからといって妖怪らしくなきゃいけないなんて、息苦しいじゃん。妖怪らしく、人間らしく……?そうじゃない。人間だろうと妖怪だろうと、『自分らしく』行けば、それでいいんじゃないの?」


やば、本格的に倒れそうだ。

けれど、せめて喋り終えてからにしよう。じゃなきゃ格好悪い。


「僕は、僕が考える通りに行動しただけ。あんな辛そうな紫見てらんなかったから」

「…………私が、貴方を騙していたとしたら?全部演技だとしたらどうするの」

「そんなのは関係無い。僕が行動した結果がそうだとしても、僕は後悔なんかしないよ」


後悔なんて、何も生み出さない。

そんなことは、ヘドが出るほど思い知ったから。


「後悔するぐらいなら行動なんかしない。紫だって、そう考えていたから今回行動したんでしょう?」

「…………」

「なんにしろ……あれ、何の話だっけか、あぁ、そうだ」


ぐらりと視界が揺らぐ。長話も場所と場合を選ばなきゃいけないな。

でも、最後に。


「元気になってよかった」


視界が暗転した。意識が薄くなり、僕は倒れていくのを感じながら気を失った。

























「!!」


いきなり後ろに倒れていく彼を、私は無意識に抱き留めていた。

彼は予想外に軽く、いや、軽すぎるほどの身体に驚く。


「……わからないわね」


彼から流れ込んで来る妖力のおかげで、今の私の身体はとても軽かった。

しかし、それとは裏腹に、腹が立っていた。

勿論、彼に対して。


自分勝手に行動する妖怪は、自分の命を投げ出してまで他の妖怪を助けたりなどしない。いや、そんな妖怪もいないわけではないが、彼のようにしょっちゅう命を投げ出すような馬鹿は捜してもなかなか見つからないだろう。


――何故、そこまで出来る?


――何故、もっと自分のことを考えない?


別に彼が嫌いなわけではない。むしろ、尊敬に値するであろう妖怪だ。

しかし、なんだろう。

彼に向けるにはお門違いな怒りが、私の中にある。


こんな感情は、初めてだ。

彼を想うがあまり、その彼のある意味『自分勝手』な行動に腹が立つ。

相反する二つの感情は、私の中にある何かをグシャグシャにまぜっ返してなお暴れ回る。

気付かない内に感情を操られたのだろうか。そんな考えすら浮かんでしまう。


「……わからないわね」


嘘だけれど。とっくに気がついている。


そもそも、どうでもいい相手に怒りなんか覚えるはずがない。

良かれ悪しかれ、相手に興味があるからこそそんな感情が生まれるのだ。

そして、私がその『良し』と『悪し』、どちらに属しているのかは――。


「行くわよ、藍」

「はい」


私の表情を見てクスリと笑った藍には、ばれてしまっているのだろう。






あぁ、全く気に入らない。けれど――悪い気は、しない。

やっとここまで来た……。

途中経過。


現在、ミコトが巻き返して志妖に並んだ雰囲気!


桃鬼頑張って〜!

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