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4:〔能力〕

洞窟の外、朝日を浴びて思い切り身体を伸ばす。

あれから一週間。

信じられないことに怪我は全て完治していた。ついさっき何気なく起き上がってみたら、普通に動けたからそのまま外に出てみたのである。


「桃鬼は……まだ帰ってきてないのか。いろいろと世話してもらったし、お礼言いたいんだけどな」


本当にいろいろと世話になった。


身体が起こせない間は食事を取らせてくれたり。


身体が起こせるようになっても食事を取らせてくれたり。


いきなり担がれてどこへ行くのかと聞けば、『水浴び』とだけ答え、まだ傷が閉じていないのに湖に投げ飛ばされたり。

(その時なぜだか非常に水に対して嫌悪感を覚えたので、やっぱり僕は猫又なのだろう)


『添い寝をしてやろうじゃないか』とか言って寝ている僕の隣に来たと思えば、寝ぼけた桃鬼に投げ飛ばされて必死で戻ってきたり。


「…………うん。まぁ、感謝はしてるよ?」


本当だよ?多分普通にしてれば四日ぐらいで治ってた気もするけど。


「さて、どこに行ったのか。高いとこから見ればわかるかな」


キョロキョロと周りを見渡し、最終的に洞窟がある崖を見上げる。

僕は特に迷うこともなく駆け上がり、崖の頂上から森を見渡してみた。

すると、遠くにある集落――この前見つけたものだろうか――から、黒い煙が上がっているのが見えた。


「ふむ」


尻尾をパタリと地面に下ろす。

桃鬼がいるかもしれないし、やることもないのだから行っても損はないだろう。

僕はその煙に向かうことにした。










いざその場所に着いて見れば、大したことではなかった。

なんのことはない、桃鬼がこの集落に物を奪いに来たのだが、抵抗を受けたので蹴散らしたところ松明が倒れて家(竪穴式だった)が一軒燃えただけだった。

というより今は西暦何年なんだろう?服が下半身だけの時点でなかなかに昔であることはわかるが、歴史だけは苦手でそれこそ常識中の常識しか知らない。


「で?何しにきたんだい?」

「こっちが聞きたいんだけど。何取ってきたの」

「肉」

「そ」


一言返しで会話を切ることにした。

現在僕らは石の雨に曝されている。早い話、桃鬼が僕を巻き込んだのだ。

木の葉に紛れて桃鬼の略奪行為を見物していたところ、僕に気付いてあろうことか声をかけてきたのである。


「どうするのさ」

「ん?逃げるけど?」

「どうやって」


石の雨に槍が混じり始めた。見れば僕らは囲まれていて、見る人全員が僕らを殺そうとしている。


「面倒だね、何人か」

「殺すの?それは……」

「なんだい、嫌なのかい?」


コクりと頷く。桃鬼は不思議そうに僕の顔を見て、少し笑って髪を掻き上げた。


「わかった。そんな顔しないでおくれよ。その代わり、手伝ってくれ」

「何を?」


僕が聞き返すと、桃鬼はぐっと拳をつくる。すると、キィン、と音がして、桃鬼の指の隙間から長い針が飛び出した。


「アタシを持って、跳んでくれ」

「……?わかった」


石が未だに飛び交う中、僕は桃鬼を抱き上げる。


「いくよ」

「いつでも」


そして、全力で跳躍。

せいぜい五、六メートル跳べればいい方だろうと考えていたが、甘かった。

忘れていたんだ。僕は、全力で跳んだことがなかったことを。


「ちょっ、跳び過ぎだよコレは!」

「申し訳ない。加減がわかんなかった」

「これなら最初から跳んで逃げた方が早かったんじゃないかい……?まぁ、いいけども」


軽く二十メートルは超してしまった。

ハッハッハ!人がゴミのようだぁ!(だったっけ?)なんて笑うことはなく、僕は桃鬼を抱く腕を放した。

桃鬼は器用に空中で体勢を変え、足を下にする。

そして、針を握った拳を振り上げると、


「死にはしないから、安心しな」


僕らを見上げる人に向かってぶん投げた。

少しすると、声こそ聞こえないが叫びながら人が倒れていくのが見えた。


着地した時には既に円は崩れていて、僕と桃鬼は特に焦ることもなくその場を後にした。










「ねぇ、桃鬼」

「ん?」


肉を豪快に食いちぎりながら、桃鬼は返事をする。美しいと不思議となんでも様になるから腹立たしい。

「さっきの、何?」

「さっきの?……あぁ、これのことかい?」


僕の質問に、桃鬼は持っていた肉を置き、髪を掻き上げる。そして、その手をギュッと握ると、またしてもキィン、と甲高い音がして針が飛び出した。薄い桃色の、桃鬼の髪と同じ色の針だ。


「これは、アタシの能力さ。『硬度を操る程度の能力』っていって、その名の通り物の硬さを操ることが出来る。これは、アタシの髪を硬くして針にしたものさ」

「『硬度を操る程度の能力』……?」

「そ。別に硬くするだけじゃなくて、軟らかくすることも出来るのさ。……こんな具合に」


桃鬼はそう言うと、足元に転がっていた石を拾い上げる。そして、僕の手に乗せた。


「…………?」

「握ってごらん」


言われた通りに握ってみる。すると、


「わ……」


石がぐにゃぐにゃになって千切れてしまった。まるで粘土のようだ。


「凄いな……」

「まぁ、いいことばかりでもないんだけども。硬くし過ぎれば簡単に壊れたりするし、軟らかくし過ぎても粘土みたいに千切れちゃう。やり過ぎると、結局物としては弱くなるんだ」

「へぇ〜」

「それに、結構加減が難しくてね。髪の毛みたいに、アタシの身体の一部なら簡単なんだけど、それ以外は失敗する方が多いぐらいさ」


能力、か。


「僕にもあるのかな」

「さあねぇ。私は気付いたら持ってたから、案外アンタにもあるんじゃないかい?」

そんなことを言われたら、なんだか期待をしてしまう。

そんなわけで、考えてみることにした。


(能力……能力か)


そういえば、初めて桃鬼と会った時不思議なことが起きていたことを思い出す。

あの時は、桃鬼の感情が直接僕に流れ込んでくるような感覚がして……。


「感情……」

「ん?」

「感情、を……操る程度の能力」

「ほぉ。それがアンタの能力かい」

「え?」


勝手に口をついて出てきた言葉。

しかし、妙にしっくりくるものがあって、これが僕の能力なんだと勝手に認識していた。


……けれど、何が出来るんだ?これ……。

能力自覚の巻!


まぁ、どんなことが出来るかは次回で。

主人公がイロイロと模索するのが案外楽しかったり。

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