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38:〔天魔の羽〕

すっかり治った右腕をそれとなく動かし、生えて元通りになった左手の爪を擦り合わせる。

すっかり本調子である。


「うーん。空に輝く太陽が一段と眩しい」


そう呟く僕は、現在屋敷の屋根の上。さんさんと大地を照らす太陽光を全身に浴びて寝転っています。

早い話、ひなたぼっこなんだけど。


「あやや、こんなところに居ましたか」

「ん、文か。どうかした?」

「いえいえ。ただなんとなく捜してみただけでして」


翼をたたみ、隣にちょこんと座る文。何を言う訳でもなく、じっと僕を見つめている。


「なにか?」

「あ……。いや」

「質問があるならどうぞ。よほどのこと以外なら答えてあげる」


たたんだ翼を触りながら、僕はくだけた調子でそう言った。

うーん、いつ見ても翼ってカッコイイ。憧れる。


「あの……一体どこにあんな速さを生み出す力が、と」

「へ?」

「実は私、この間は『かなり速い方』なんて言いましたけど、天狗の中では一番速いんです。ですから、こう……あの戦いのミコトさんを見て驚いたというか」


もじもじとしながら言う文。

確かに、あの時の僕の身体はかなり『キレて』はいたが……。


「まだ、あれはマックスではないかなぁ」

「まっくす?」

「あぁ、いや……。そうだな、あれはまだ本気のスピードではないというか……」

「なっ……まだ上があるんですか!?」

「いてっ」

「あ、す、すいません。興奮して……」


いきなり開かれた翼が顔に直撃。顔をさすりながらどう説明しようか考える。


「でも、今のミコトさんからはあそこまで強い妖力は感じられませんよ?」

「それはこれのせい。これをつけてると、普段の妖力の二割しか出せないんだ」


怪訝そうに見上げてくる文に、右手首のリボンを見せる。

あの戦いの最中、よく無くさなかったものだ。


「はぁ……普段の二割、ですか。なら、それを外せば全力が出せる、と」

「理性が許すぐらいの全力はね」

「?」


これまた怪訝そうな表情を見せる文。それはそうだ、この言葉だけで理解されてもこちらが腑に落ちない。


それから僕は、自分の能力と、それの使い方について文に説明した。


「ははぁ……。つまり、その『感情を操る程度の能力』で自分の感情を操れば、あれより速く動けると」

「ま、そんなとこかな。一歩間違えれば大惨事になるから、あんまり使わないけど」

「大惨事、とは?」

「……聞きたい?」


恐る恐る、と言った感じで聞いてくる文に、僕は少し低めの声で返した。

ゴクリと唾を飲み込んで、文は小さく頷く。

僕は、そんな文の耳元に手を当てて……。


「……ふぅ〜」

「ふひゃあ!!」


息を吹き掛けた。ビクビクッと身を震わせて、文はパタリと倒れた。


「その先は知らなくてもよろしい。好き好んで知るものでもないしね」

「わわわ〜……」

「……ふむ、ちょっと強すぎたかな」


耳元に手を当てた際に、少しばかり『快感』の感情を加えてみたけれど……。


「てぃ」

「痛ッ、はっ!今のは……!?」

「よかったな。僕の能力を直に体験できて」


ぺちんと頬を叩き正気に戻す。はっとした感じで身を起こした文は、ふやけたようにまた倒れた。

まるで先程までの余韻に浸っているようだ。


「凄い……。凄すぎます……」


……うっとりしているように見えるのは、気のせいということにしておこう。

目の前にスキマを開き、その場を後にした。





「あ、いたいた。文さん、ミコトさんを知りませんか?天魔様が話があるそうで……」

「……はふぅ……」

「…………?」










「っと。なにか?」

「……突拍子もないのぉ。ついさっき白狼の者を使いに出したばかりだというのに」


いきなりスキマから現れた僕に、呆れた顔で呟く天魔。


「いえ、なぜだか呼ばれた気がしまして」


これ本当。

最近、あの『命を感じ取る程度の能力』が発展してきたようで、意識していなくても常時発動、更には少し集中すれば感情も読み取れるというスグレモノに。


「まぁよい。ミコト、お主にここを自由に出入り出来る権利を与える。いつでも気軽に来るがいい」

「有り難いことで。感謝します」

「敬語もやめぃ。お主、この天魔よりも遥かに永く生きているようではないか」

「はぁ……しかし」

「対等に話せる相手が欲しかったところだ。遠慮するな」

「……なんて呼べば?」

「天魔でよい」

「じゃあ……またくるよ、天魔」

「ああ」





ぱたんと音を立ててしまる扉。

なんてこった、天魔と肩を並べる立場になってしまった。

更にはその証として天魔の羽までもらってしまった。


「……どうせなら身につけておきたいな。紫なら何か持ってるかなぁ」


僕はそう呟きながら、スキマを開いた。










「紫様?」

「残念、僕だよ」

「ミコトさんでしたか。出来るだけ玄関から入ってきて欲しいものですが」

「次からはそうするよ。紫は?」

「さぁ?紫様の行き先など知りません」


皮肉っぽく呟く藍。同じ式として同情しちゃうよ、全く。

だがしかし藍。僕は口の周りにミカン汁を付けた九尾を初めて見たぞ。


「うん?それは……」

「あぁ、そうだ。これ天魔の羽なんだけどさ、どうにかして身につけれないかな」


僕の言葉に目を見開く藍。まぁ、その反応は正しい。

いきなり天狗のトップの羽を持ち帰ること自体おかしい。

だが、藍はすぐにいつもの表情に戻り、少し待ってください、と言うと家の奥に引っ込んでいった。


「こんなのはどうでしょう?」


戻ってきた藍の手にあったのは、直径十センチ程の金属で出来た輪。


「さ、座って下さい」


僕の肩を押し、炬燵の前に座らせる。

鼻歌を歌いながら藍が僕の手にある羽を取り、どこからか取り出した細い針で羽の根元、芯の部分に穴を開けた。天魔の羽だけあってそもそものサイズがデカイために芯も太く、そこから裂けることもなさそうだ。


「〜〜〜〜♪」


藍はおもむろに自分の尻尾から一本の毛を抜き、それを羽に開けた穴に器用に通した。あんなに細いのに、藍の毛は金色に輝いている。


「これをこうして……。少し痛みますけど、我慢して下さいね」

「え?って痛ッ!」


その鮮やかな作業に目を奪われていると、不意に藍は手にとったハサミで僕の左耳を切った。思わずビクリと身体が震える。


「痛いのは今の一瞬だけです。後はここに……」


藍は、あの金属の輪に金色の糸を通した羽を結び付け、耳の切れた部分に入れる。不思議と痛みは無く、血も出ていない。


「――――」


聞き取れないぐらいの小さな声が藍の口から放たれ、同時に切れた耳が少しだけ熱くなる。


「終わりです。さ、どうですか?」


嬉しそうに藍は言って、僕に鏡を向けた。

金属の輪は見事に僕の耳を貫通しており、穴が開いている部分は金属で覆われて補強されている。

輪自体に重みはほとんど無く、違和感は全く感じない。

さらには、輝く金色の糸で結ばれた純白の羽。


「おぉ……」


思わず息を呑む。

これは、予想外に……良い。


「ありがとう、藍。気に入った」

「喜んで頂けたみたいでよかったです。簡単には壊れたりしませんので、そういった心配はしないでも大丈夫ですよ」

「いや、ありがたい。じゃあ、また少し出掛けてくるよ」


もう一度礼を言ってから、スキマを開く。

あ、そうだ。


「口、拭いた方がいいよ」


そう言って鏡を手渡してから、僕はスキマに入るのだった。

ミコト は てんまのはね を てにいれた!





いきなりですが、人気投票じみたことをやろうかなとか。


ミコト、桃鬼、志妖、この三人の内誰が一番お気に入りかを感想やらメッセージでお送り下さい。


一番票が入ったキャラで、一つ話を作ってやろうかという魂胆であります。


お暇があれば、ぜひ一票。

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