34:〔天魔対面〕
二人の天狗と別れてから数分。
文の言う通り真っすぐ進んで行くと、何やらお屋敷的な建物の姿が。
そういえば最近は時間の流れを気にせずに過ごしていたが、果たして今は西暦でいうと何年にあたるのだろう。かぐや姫の話は確か平安時代に書かれたと言うが(起きた時代と書かれた時代が同じとは限らないが)、それを踏まえればもう千何年になるか?平安京らしき場所もあったことだし(しかし、あれは本当に平安京だったのだろうか?わからん)、僕が致命的な勘違いをしてなければそこまで大きな間違いでもあるまい。式になって大分経つし。
門番的な天狗に文の名を告げ、難無く中へ入る。どうやら文はなかなかに偉い様子。
門番天狗が僕を値踏みするように見て、馬鹿にするような笑みを浮かべた時はイラッときたが我慢。
「や、来ましたね」
「来ましたとも。さ、案内してくれ」
中で待っていてくれた文の後についていき、キョロキョロしながら進んでいく。
「立派な建物だね。驚いた」
「はは、普段は天狗以外滅多に入らないんですけどね。さ、着きましたよ。この先に天魔様がおられます」
一つの扉の前で立ち止まり、文が少しだけ表情を引き締めた。
僕は尻尾を一振りして、いつでもいいよと文に言う。コクリと頷いた文は、
「天魔様、射命丸にございます」
「入れ」
「失礼します。さ、どうぞ」
扉を横に滑らせ、文について中へと踏み込む。瞬間、
「文、そやつは何者だ?」
強烈な妖気が僕を包んでいた。さすがに天狗のトップ。椛とは比べものにならない。
第一印象はあまりよろしくない様子なので、ここはひとつ遜って……。
「お初にお目にかかります、天魔殿。私はしがない一匹の妖獣でございます」
膝をつき、頭を下げる。
しばらく重たい沈黙が場を支配した。
むぅ……こんな言葉遣いしたことないから、何か失礼なことを言ってしまったかも。
なんて考えながら尚も頭を下げ続けていると、
「ふむ……どうやら、天狗に仇なす者ではないみたいだな。頭を上げい」
そんな言葉が聞こえて、同時に耳のチリチリ感が引いていった。
内心ホッとしながら、僕は頭を上げて天魔を見る。そこには、立派な白い翼を携えた初老の男の姿。どことなく威厳が感じられるその姿は、成る程、天狗のボスに相応しい。
「何か用があってきたのだろう?」
「あ、はい。えっと……」
「彼をいつでも此処に連れて来てよろしいでしょうか?」
「えっ?」
今まで黙っていた文が、僕の言葉に被せるようにそう言っていた。
僕が口を開けてポカンとしている間にも、文は話を進めていく。
「彼はあの鬼を退くことが出来る力の持ち主。親しくなっておいて損はありません」
「む……。他でもないお主が言うのならばそうなのかもしれんが。しかし、な」
「大丈夫です。ミコトさんは好き勝手に暴れるような妖怪ではありませんよ。ねぇ?」
「え?あ、うん」
確かにところ構わず暴れ回る程戦いに飢えてはいないが……。
なんで、文はこんなに僕を援護しているんだ?
そんなことを考えている僕を余所に、天魔は顎に手を当ててウンウン唸っている。が、やがて何かを閃いたように目を見開いて僕を見た。
「ミコトとやら」
「はい?」
「お主に、この天狗の屋敷に入る許可を与える」
「本当ですか?」
「が、ひとつ条件がある」
ニヤリと笑う天魔。なんだか嫌な予感が。
「お主、最近この山に住み着いた二匹の鬼を知っておるか?」
「二匹……ですか。はぁ、知りはしませんが、心当たりなら」
しかも確信出来る程のね。もう先が読めてきた。つまりは、
「最近そやつらが決闘と称して天狗を倒して回っていてな、こちらとしては困るばかり。で、だ」
「わかりました。その鬼をなんとかすればいいんですね?」
「その通りだ。期待してるぞ、ミコトとやら」
またしてもニヤリと笑い、その白い歯を覗かせる天魔。ただのお茶目なじいさんに思えてきたが口には出さず、僕は一礼してその部屋から出た。
「本当に大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、多分ね」
長い廊下を渡りながら、ひょこひょこと隣をついてくる文にそう返す。
二匹の鬼とは、ほぼ確実に桃鬼と志妖のことだろう。しかし、決闘云々の問題は桃鬼が勝手にやっているだけで、隣にいるだけの志妖はただ巻き込まれているだけだと考えられる。不敏な娘である。
「ま、問題はどうやって二人を見付けるかなんだけどさ」
「そうですね、手伝いま」「鬼だっ!あの鬼が現れたぞ!!」
「力の弱い者は逃げろ!クソッ、白狼天狗集まれ!!」
ビュンッ!!と僕らの横を突風を巻き起こしながら天狗が通り過ぎていく。
バサバサと着物がはためき、僕は風が巻き起こる中、眉をひそめた。
「……探すまでもなかったか」
「あやや……」
風が収まり、僕は尻尾を一振りする。
じゃあ、あの馬鹿にキツイお灸を据えにいきますか、と。
今日の夜にもう一度更新する予定でいます。




