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30/112

30:〔後始末は全力で〕

さて、今僕はのんびりとお茶を啜っていたりする。あまりお茶は飲まない方だったが、ここのお茶はなかなか美味しかったりする。


「はふぅ……」

「年寄りくさいわね」

「いや、実際年寄りだし」


僕の隣でくつろいでいる紫に呆れられた。鶴は千年亀は万年、というがここには万年生きている猫がいる。事実は小説より奇なりだ。


「で、この封印にも大分慣れたんだけど。そろそろなんかないの?」

「そうね……。貴方という優秀な式もいることだし、そろそろいい頃かも知れないわね」

「半分しか妖力出せないけど」

「充分よ。半分といっても、私と遜色ないじゃない」

「うそ」

「本当よ。ミコトはもう少し自信を持つべきね」


はぁ、と溜め息をつかれてしまった。悪かったな弱気で。

けれど、長い間本物の化け物二人と一緒に過ごせばこうなるのも仕方ないと思う。片方は最強の鬼神、片方は巨大爆発を退けた爆弾娘である。


考えてみれば、僕はその二人どちらとも戦っているんだよな。うん、よく生き残ったもんだ。


「それはいいとして、何をするのさ。説明して」

「……まぁいいわ。自信があろうとなかろうと、貴方の強さに変わりはないし。じゃあ、行くわよ」

「は?いや、だから先に説明を」

「論より証拠、よ」

「微妙に使い方を間違えてなぁっ!」


言葉の途中でスキマに落とされた。あぁ、お茶を最後まで飲ましてくれてもいいじゃないか。








「っと」


いきなりのスキマにも対応して、落とされても難無く着地。いや、身体能力に感謝。


「で、ここどこ?」

「ここは幻想郷。人間と妖怪が同じ地に住む場所ね」

「同じ地に……。大丈夫か?」

「今のところはね。まぁ、私が説明するよりは自分で見た方が早いでしょう。しばらくそこらを歩いてみなさいな」

「え?ちょっと」


声をかけるまえにスキマに引っ込んでしまった紫。相変わらず自分勝手というか、自由奔放というか……。

まぁ確かに百聞は一見に如かず。とりあえず歩き回ってみましょうか。







なんて思ったのもつかの間。


「うわぁ……なにこの覚えがありすぎる妖気」


遠目になんだか目を惹かれる山があったので気まぐれに能力を使用してみたのだが、明らかにそこらの妖怪とは違う妖気が突き刺さってきた。僕の知る限り、こんなふざけた妖気を持ち合わせる妖怪など一人しかいない。

言わずもがな、桃鬼である。


「ここに来てたのか、もしくは最近来たのか……。わからないけど、なんか嫌な予感がする。いってみよ」


ガサリと木の枝に跳び移り、目的地を最終確認。

妖力を脚に込め、僕は跳んだ。

全力の半分以下のスピードに泣きたくなったのは本当。









山の麓にたどり着き、けれど止まらずにそのまま山を駆け上がり始める。


「なんだこの山……妖気が」


少しスピードを落とし、能力を使用。やはり、山自体から妖気が感じられる。不思議だが、妖怪である僕にはなかなか心地が良い。人間には毒だろうけど。


そんなことを考え、やがて歩きだしていた僕の目の前に、空から黒い羽が舞い落ちてきた。


「これは……鴉の羽?」

「また知らない妖怪の姿。今日は千客万来ですかね」

「?」


同時に頭上から聞こえてきた声に、僕は空を見上げた。

そこには、立派な黒の翼をもった女の子の姿が。


「ここらじゃ見ない妖獣さん。貴方は何の用?」

「なに、知った妖気を追ってきただけさ。立派な翼の女の子」

「あやや、お上手で。しかし、知った妖気といいましたか。もしかして、よそ者の鬼のことで?」

「多分そう。嫌な予感がしたものでね」


フワリと地面に降り立った女の子。

まだ年若いと見えるな。せいぜい三十といったところか。


「君、その鬼がどこに行ったかわかる?」

「はぁ、この上にある鬼のところへ向かいました」

「なんか言ってた?」

「私を一撃でのめした後に『もっと強い奴はいないのかい?』と。いや、強かったです」


確定。絶対桃鬼だ。

あの戦闘狂、面倒なことしてくれる。


「そこまで案内頼めるかな。えーっと……」

「名前ですか?鴉天狗の射命丸 文と申します」

「猫又のミコトだ。じゃあ、案内よろしく」

「はい」


バサリと翼を羽ばたかせ、文は空へと舞い上がっていく。


「あ、あんまり高く飛ばないで。僕飛ぶの苦手なんだ」

「あやや。これは失礼」

「いや、わがままでゴメン。じゃあ今度こそ」


低空飛行に入ってくれた文の背中を見て、僕も地面を蹴って三本程で隣に並ぶ。

どうやらトップスピードは同じのようでホッとしていた僕に、文は驚いていた。


「ミコトさん、でしたか。速いですねぇ」

「いや、本当は……。なんでもない。文こそなかなか」

「この辺りじゃあかなり速い方なんですけど。走りで並ばれたのは初めてです」

「そりゃあなぁ……」


本当はもっと速い、と言おうとしたが、止めておいた。説明が面倒だから。


数分すると、坂が無くなり少し開けた場所に出た。そこには沢山の鬼の姿があり、さらに奥の方に薄い桃色を発見。


「ありがとう……っていないし。なんだ、そんなに鬼が怖かったのか」


ここに近付くにつれスピードが下がっていたので、文はおそらくあまりここには近寄りたくはないのだろう。感情も恐怖ばかりだったし。


「あ、ミコトさん」

「久しぶり、志妖。で、あの馬鹿は何してんの?」

「なんでも、ここの鬼神と戦いたい、と言い出して……」

「……はぁ。それ、今日じゃなきゃダメなんだろうか」

「私は、止めても無駄でした」


確かに、志妖に桃鬼は止められないよな。

僕としてはできれば、後日、もしくはもっと後にしてほしいところなのだが。

せめてこの幻想郷を回り切ってからにしてほしい。



「来たばっかりでトラブルもやだし……。しょうがない。桃鬼!」

「?」


四人程の屈強そうな鬼に囲まれていた桃鬼は、僕の声にあっさりと振り返った。いや、さすがに不用心だろ。

そんな考えを尻目に、桃鬼は堂々と広場の中央を横切ってきた。


「ミコトじゃないか。どうしたんだい?」

「無理を承知でお願い。鬼神との戦い、後にしてくれない?」

「いいよ」

「いいの!?」



あまりのあっさりさに声を上げてしまった。僕の隣では志妖も目を見開いて驚いている。


「いやね、強い鬼がいると聞いてきたはいいんだが、どうやら今は留守らしくてね」

「あ、そういうこと」


全くつまらない、と心底つまらなそうに呟く桃鬼。


「帰ろうか、志妖」

「あ、ハイ」


僕の隣を通り過ぎ、桃鬼は志妖の肩を叩いてから山を降りていく。志妖は慌てて僕に手を振って、桃鬼の背中を追っていった。


「少し拍子抜けしたけど……。まぁいいか」


とりあえず僕も、と鬼達に背中を向け、歩きだす。


「待てよ」


が、ガッシリと肩を掴まれて引き留められていた。

参ったな、最初から跳んでいけばよかった。


「なんですか?」

「なんですかじゃないだろう。いきなり喧嘩を売ってきて、なにもしないで帰るのはないんじゃないか?」


一本角の鬼が、口を歪ませてそう言った。

それに対して、僕は。


「しょうがないですね……。じゃあ、僕が相手になります。面倒なんで、全員でかかってきて結構ですよ」










その様子を、文は空からじっと眺めていた。


「あやや……大変です……!」


口に手を当て、どうしようかと空中をフラフラさ迷い始める。だが、視線はしっかりとミコトを捕らえて離さない。

文から見て、ミコトからは別にそこまで強さは感じなかった。

だから、てっきりあの脚を生かして逃げるものだとばかり思っていたのだが。


「しょうがないですね……。じゃあ、僕が相手になります。面倒なんで、全員でかかってきて結構ですよ」


その瞬間、文は自分の耳を本気で疑った。


だが、次の瞬間には自分の目まで疑うことになった。

なぜなら、


「あれ、消えた……」


ミコトのいた場所に土煙が上がったかと思うと、


「…………え?」


十秒後には、その場にいた鬼全員が倒れていたのだから、それも仕方ないことかもしれない。


しばらく文は自分の目を擦りつづけ、それでも目の前の光景が変わらないことに思わず空から落ちそうになった。










「ふうっ」


右手首にリボンを結び直し、大きく息をつく。

やはり、封印があるのとないのとでは大違いだ。一応気絶で収めておいたから、大事にはなるまい。

そう考えながら山を降りていくと、いきなり目の前に文が現れた。ずいぶんと急いでいたのか、肩で息をしている。

え、やっぱり飛んでても疲れるの?


「あ、貴方、何物ですか!?」

「ん?」

「鬼を、しかもあんな、大勢を、一瞬でなんて、ありえない……」


ゲホゲホと咳込みながら言う文の背中をさすりながら、僕は言った。


「なに、単なる長生きなだけの妖獣さ」










そういえば、いきなり外しちゃったけど大丈夫かな……?

眠い……

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