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3:〔初めての鬼〕

「っと」


ガサカサ、と音を立てながら木の枝に着地。一応乗っても大丈夫そうな枝を選びながら進んでいるけれど、どうもこの身体は超人的な身体能力が備わっているみたいだ。

まぁ、人じゃない事は明白なので『超人的』という言葉は正しくないのだけれど。


走ればまるでジェットコースターに乗っているようなスピードで移動出来るし、ちょっとやそっとじゃ息切れは起こさない。今度どこまで全力で走れるか試したいところ。

垂直跳びなら十メートルは軽く越す。怖いのでまだ全力で跳んではいないが、こちらもいつかは試してみたい。


「あれ、道が塞がってるや」


枝を跳び移りながら進んでいくと、いきなり目の前に巨大な岩石が出現。岩の下には川があり、どうやら水がそれによってせき止められているようだ。

溢れ出した水は横にある大穴に貯まっていき、そこから更に他の穴へと流れていく。

もしかしたらあの湖もこうして出来たのだろうか、と考えを巡らせながらも、先に進もうと適当な木に跳び乗り――


「っ!?」


――その木が、いきなり根本からへし折れた。


慌てて他の木に跳び移り、めきめきと音を立てて倒れていく木を見る。木の根本には、巨大な岩が。

とっさに先程の川をせき止めている岩を見るが、それではない。

ならいったいどこから、と考えた、その時。


「おやぁ?人間かと思えば……見慣れない妖怪だねぇ」


川の上流から、妙に間延びした声がした。

見れば、そこには大人の女性。魅力溢れる身体つきをしたその女性は、掛値なしに美しいと言えた。

言えるの、だが。


「完璧に不意打った、と思ったんだが……。アンタ、何者だい?」


『片手で木をへし折りながら』、『頭にある角を触りながら』言う女性に、どうしてそんな浮いた考えができようか。


「っ」


動揺を隠せず、僕は木から飛び降りる。

どうやら、『彼女』はとんでもない世界に連れてきてくれたらしい。


「答えな。アンタは何者だい?」

「……そういう君は?」

「アタシかい?アタシは鬼さ。この角が見えないか?」

「見えるけど……」

「ならいいじゃないか。あぁ、一応名乗っておこうか?」

「いい。こっちまで名乗ることになるから」


僕の言葉に、そうかい、とクツクツ笑う鬼。


「なら……」


笑いが止まり、空気が締まる。髪の毛が逆立ち、自然と体勢が低くなる。


「名乗らないなら、消すまでさ!」


ブワッ!と身体が圧される感覚。瞬間、僕は空中にいた。一瞬前まで僕がいたところを、丸太もどきが通り過ぎていた。


「やるじゃないか」


かなりの高さまで跳び上がっていた僕を、鬼は着地が終わるまで黙って見ていた。膝立ちの状態で尋ねる。


「なんで?」

「すぐに終わっちゃつまらないだろう?」


笑顔で答えられた。美しいが、見とれている暇はない。


「っ!!」

「っ、速いねぇ……厄介だ」


一カ所に留まっては相手の思うつぼだと感じた僕は、全力全開で木々の間を跳び回った。上下左右、とにかくランダムに移動。


「チッ」


鬼が舌打ちしたその瞬間、鬼の背中を視界に捉えた。好機!


「ハァッ!!」

「がッ!?」


思い切り鬼の首をへし折る勢いで膝蹴りをぶつけた。

スピードを全く抑えずに直撃させることが出来た。常人なら首の骨がへし折れる程の威力。

ミシミシ、と骨が砕ける音が聞こえた。


「……っ!?」

「たいした速さだね。反応が追い付かなかった」

「なっ、あぐ!?」


しかし、鬼は吹き飛びもせずに僕を叩き落とした。

砕けたはずの首の骨をバキバキ鳴らしながら、苦痛に顔を歪めているであろう僕の傍に屈む。

僕は距離を取ろうと跳び起きようとして、


「あうっ!?」


転んでいた。右足、先程膝蹴りを放った方の足に力が入らない。


(あの音は、こっちの骨が砕けた音だったのか)


ギリギリと音がする程歯を食いしばる。

片足だけでも、思い切り地面を蹴れば少しは離れられるはずだ、と左足を抱えるように縮め、


「させると思うかい?」

「ぐっ!」


身体を乗せられ、左足ごと地面に押し付けられてしまった。

これでは逃げようにも逃げられない。


手を背中の後ろに回され、なんとか伸ばせた左足は押さえ付けられる。右足は問題外。

……これは、本格的に危ないかもしれない。


「さて、そんなに弱い妖力でよく頑張ったもんだね。けど、アタシの縄張りに入ったのが運の尽きさ。……どうせなら、楽に殺してやるよ」

「……ぐ……!」


ギリギリと引っ張られていく両腕。引き千切ろうとしているのは明白だった。


――冗談じゃない。こんなところで、死んでられるか!


「っ!?何を……」

「――――っらぁ!」


バキッ!と頭の芯に届く音。同時に左肩に響くふざけた痛み。

無理矢理に左肩の関節を外し、どうでもよくなった左肩を無視して身体を半回転。皮が裂けた気がするが、それもどうでもいい。

僕の突拍子もない行動に驚いたのか、鬼は残った右手も放してくれていた。

腹に蹴りをくれてやり、鬼が屈んだその隙に距離を取る事に成功する。


「……無茶苦茶だね、アンタ」

「それは褒めてるの?だったら、あんまり、嬉しくないな」

「ただ呆れ返ってるだけさ。それにアンタ、そんなボロボロの身体でまだ勝つ気でいるみたいだしね」

「………………」


頭をポリポリと掻き、呆れながらも楽しそうに笑う鬼。

そんな鬼を見る僕の顔は、いったいどんな表情をしているのだろう?

視界が狭くなり、唇の端が吊り上がる。

一体どうしたというのか、僕は鬼の言う通り勝つ気でいる。

普段の僕はこんな事は考えない。最初だって、逃げる事を前提に戦って、いや、まず戦うことすら考えていなかったのに。

けれど、今の気分は最高にハイになっていて、まるで、何かのスイッチが入ったかのような感覚すらあった。

そしてなぜだろう。

鬼の感情が僕に伝わってくるのだ。何を考えているかまではわからないけれど、漠然とした感情が、僕に流れ込んでくる。

今の鬼は、とても楽しそうだった。


「その目……正に獣って感じだねぇ……。いいよ、アンタ。面白いじゃないか!」


ダン!と地面を蹴り、鬼は僕に突撃を仕掛ける。

もの凄い勢いで迫ってくる鬼は、けれどとてもゆっくりに見えて。


「あああああ!!!!」


僕は、残った足で地面を蹴り、鬼に真正面から向かっていった。

































































「…………う……うぅん…………ん?」


最初に思ったのは、ここがどこかということだった。

パチリと目を開き、しばらく瞬きを繰り返している内に頭がハッキリとしてきた。

結局、あの後はあの鬼に吹き飛ばされて気を失ったのだった。

身体は……あまり動かない。左腕に違和感があるが、無理矢理関節を外したのだからしょうがない、と納得。

しょうがないので首だけを動かして左を向く。


「おや、起きたのかい」


左腕が捕まっていた。

見なかったことにして右を向いてみる。うん。右腕はそれとなく動くみたいだ。


「無視か」

「痛い痛い痛い!肘関節は無事だからやめて」

「なら反応してくるたっていいじゃないか。少し悲しいぞ?」

「いや、それよりもなぜ僕の横に寝て」

「嬉しいかい?」

「いや別に痛い痛いってだから肘は健全だからそっちには曲がらないって」

「嬉しいだろ?」

「嬉しい嬉しい!結構本気で嬉しかったりするからだからマジで許してそっけなくしたことは謝るから!」

「それでいい」



満足げに頷いた鬼は、そこでやっと僕の腕を解放した。危なく左腕が逆くの字を描くところだった。


「で……」

「なぜ殺さなかったか、か?それともここはどこか、か?」

「いや、なんで隣に君が寝ているか」

「気に入ったから」

「さいですか」


軽く流すことにした。


「冗談だ。アンタが暴れるから押さえ付けてたのさ。固定しとかないと治らないだろう?」


感謝せい、と笑いながら言う鬼。綺麗だから無下に怒れないのが腹立たしい。


「まぁ、起きたのなら大丈夫だね。ここはアタシの住家さ」


立ち上がり、伸びをしながら言う鬼。

どうやらここは洞窟みたいな場所のようで、僕が寝ているのはやたらに積まれた葉っぱやら草やら、とにかく柔らかめの植物で構成されたサバイバルベッドだった。

身体は起こせないので、寝たまま話しかける。


「じゃあ、もう一つの方は……」

「ん?なぜ生かしたかって?」


いつの間にか向こうを向いていた鬼は、軽やかにクルリと回り、ニヤリと笑って、


「気に入ったからさ」


そう言った。


「そういえば名乗ってなかったね。アタシは魅王みおう 桃鬼とうき。ここに一人で生きてる、気楽な鬼さ」

いろいろと迷った挙げ句、初対面は鬼にしました。


うー、主人公。負けてていいのか!?

まぁ、これぐらい強くないとね。強くしすぎた気もしないでもないけど。



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