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2:〔新しい選択肢を〕

ひとしきり涙を流した後、妙な爽快感を感じながら湖の水で顔を洗う。

そういえば、最後に泣いたのはいつだったか。本当に久しぶりだ。


「ふうっ」


ぶるぶるぶるっ、と頭を振り、顔に残った水滴と髪についた水を振り払う。何故か身体まで震わさったが気にしない。


「さて……」


目を擦りながら周りを見渡してみる。

なんのことはない、辺り一面森である。

どうやらここは森の中にぽつんとある小さな湖らしい。いや、沼か?どうでもいいけど。

波紋が収まった湖に、もう一度自分の顔を映した。

やはり、そこには猫耳がついた灰色の髪をした自分がいる。


「………………」


湖から離れ、そばにあった木に腰掛ける。何となく髪を触り、「痛っ」爪が肌に突き刺さった。

爪を見て、シャキシャキと擦り合わせてみる。やはりどう見ても人間の丸爪ではない。


「………………」


熟考。


「僕、人間じゃない……?」


そんな答にたどり着いた。

深く考えずとも、直に猫耳がついている人間などいない。では自分はなんなのか?


「猫耳……猫……猫又?」


頭についた猫耳。鋭い爪。そしてあえて無視していたがそろそろ認めざるをえない尻の辺りにある違和感。

そういえば、猫又は尻尾が二又に分かれている、と何かの本で読んだ気がする。確認するしかあるまい。


「…………わ」


そこには予想通り、二本の尻尾。しかも自由に動かせて、触れば結構気持ち良かったりもする。


「……まぁ、猫又かどうかは別として、人じゃないことは確かかぁ」


空を仰ぎ、切り替える為に口に出してみた。うん、空は青い。

何故か丁度よく開いていた穴に尻尾を通し、今度は周りの確認に移ることにする。

見渡す限り三百六十度森なのは確認済み。ならば、と僕は来た道を逆走する。

一体どんな走り方をすればこうなるのか、と自分でツッコミたくなるような跡があるので、迷わずにあの大樹の元に辿り着けた。


「出来るかどうか……勝負ッ!!」


瞬間、膝を最大限まで曲げ、バネのイメージで跳躍。景色が縦に流れていく様はなかなか拝見出来るものではないが、僕は正にそれを体験中。まるで絶叫マシーンに乗ってるみたいだった。

ガサッ、と森から飛び出し、「わわっ、跳びすぎっ」

飛び出し過ぎた。

他よりも随分背が高い大樹すら飛び越えてしまった。が、そのお陰で辺り一面を一望出来た。


「あれは、村かな」


先程の湖の更に向こう、だいたい一キロぐらい先に集落じみたものを視界に捉える。どうやら視力も上がってる模様。

一瞬無重力状態になり、僕の身体は重力に捕まりはじめる。

大樹の枝にバシッと捕まり、宙ぶらりんの状態で考えた。バサバサと葉が暴れ、何かの実が落ちていく。

「せっかくだし、行ってみようかな」


もう、これが夢かどうかなんてどうでもよくなっていた。


夢なら夢で、『あぁ、いい夢だった』で終わらせられる。


現実なら、この世界に連れてきてくれたであろう『彼女』に、僕の中にいる『彼女』にお礼を言って、生きていく。


今はどちらにしろ、こうして生きているのだ。一度は生きることを諦めた人間にとっては、余裕でお釣りがくるほどの有り難さがある。


僕は、死にたかったわけじゃない。

ただ、死ぬことしかできなかっただけで。


「君がくれた新しい選択肢。僕はそれを進んでみるよ。何より……僕が君に望んだんだし、ね」


身体を揺らし、振り子の要領で反動をつける。

その力を使って、少し前にある枝に飛び移る。


「――じゃあ、行ってみますか!!」


久しぶりに、心からの笑顔を出せた気がした。

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