16:〔夢を魅させて〕
真っ白。
清々しい程、真っ白。
憎らしくなる程、真っ白。
僕は、この白さを知っている。
限られた人以外誰も訪れない、閉鎖空間。
出ることも叶わない、僕を縛り付ける空間。
そう、ここは。
「僕の、病室……」
僕はベッドに横たわり、ただ真っ白な天井を見つめていた。
本当に真っ白。
飽きる程に真っ白。
美しい程に真っ白。
くだらない程真っ白。
「……帰って、きた……?」
手を見つめ、握って、開いて。
そこにはあの鋭い爪はなく、人間にしては白過ぎる肌の指に人間の平爪がついていた。
「いや、最初から夢だったのかも、ね」
耳や尻尾は確かめる気にもならず、僕は手をパタリとベッドにほうり投げた。少し揺れるベッド。
なんだろう、この気持ち。
残念なような、それでいて何も感じないような。
心に穴が開いてしまったような……。
「なんだか、眠たいな……」
今回は、『彼女』は来ないみたいだ。
ただの眠気とは違う、まるで全てが吸い取られていくような眠気。
僕は、死ぬのか。
そう考えると、先程の感情が更に大きくなった。
あれ……僕、泣きそうだ。
「そうか……わかった」
案外早く流れ始めた涙を拭い、僕は少し笑った。
寂しいんだ、これは。
まるで、あの世界から僕だけ弾かれたような気がして。
それだけの話なのに、僕はとんでもなく寂しいんだ。
おかしいな、独りには慣れてるはずなのにさ。
「しっかり!しっかりしなさい!目を開くんだ!」
僕を揺さぶる誰か。誰なのかはわからない。この視界の滲みは、溜まっている涙のせいなのか、それとも。
頬を流れる涙の量が増えた。なぜかなんて、わかりきっていた。
「……しにたく、な、い」
勝手に零れ出た言葉。
一瞬、僕を揺する動きが止まった。
「……!…………!」
あぁ、もう何を言っているのかすら聴こえない。
あぁ、ごめんなさい。
少し、願うのが遅すぎたみたいです。
でも、神様。
果たしてあなたが存在しているのなら。
早く願っていたとして、その願いを叶えてくれていましたか?
こんな馬鹿な僕の願いでも、叶えてくれていましたか?
もし叶えてくれていたのなら、その一回をここで使わせて。
――僕に、もう一度だけ、夢を、魅させて――。
「っ!」
ドクン、と身体が鼓動を打った。
真っ白な世界は、一瞬で終わっていた。
わけがわからず、周りを見る。
そこは、あの真っ白な病室ではなく――。
「な……」
――無惨にも焼け焦げた、大地があった。
だんだんと思い出してきた。
そう、僕は。
妖怪に戦争を仕掛けてきた人間達と戦って。
人間の罠にかかった僕は桃鬼とも戦って。
その隙に他の妖怪や妖精さん達が殺されてしまって。
暴走した僕を、桃鬼が引き戻してくれて。
その時、巨大爆弾と化した都市が目に入って。
それから桃鬼だけでも守ろうとして……。
――あれ、なんで僕が生きている?
今更ながら、僕はその疑問にたどり着いた。
見れば、僕の立っている周辺の大地は、周りのように焼け焦げてはいない。
なぜだ、と顔を上げる。
瞬間、僕は言葉を失った。
「………………!」
そこには、一人の妖怪が立っていた。
頭から生えた角には黒く煤がこびりつき。
その服はところどころ焼け、開いた隙間から覗く肌は赤く爛れていて。
それでも、その身体は揺らぐことが無く。
僕の着物を掴んで離さなかった、今では僕と同じ位大きくなった彼女の背中が、そこにはあった。
「志、妖……」
「ケホッ……。大丈夫、ですか?」
僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女はクルリとこちらを向いた。
改めて見てみると、志妖が立っていた場所から後ろは、放射状に拡がる形で全て無事だった。
つまり、あの絶望的な爆発を志妖がなんとかしたということになる。
「ミコト!出せ!」
「え?あ、あぁ」
いきなり声を出した桃鬼に驚きながらも、彼女を包んでいた結界を解く。
すると桃鬼は、いきなり僕に頭突きをかました。
「つあ……!」
「アンタは馬鹿かい!?なんて無茶するんだい!!」
「いや、無茶っていうか……」
「死ぬつもりだったって言うのか!だったらもっと馬鹿だよ!」
「うっ……!」
肩をガシリと掴まれ、僕は反射的に目をつぶってしまった。
額に来るであろう痛みに備え、歯を食いしばる。
が、予想していた頭突きは来ず。
「……アタシがどれだけ、悔しい思いをしたと思ってるんだい」
フワリと、桃鬼の香りが僕を包んでいた。
「桃鬼……?」
「勘違いでアンタを追い詰めた挙げ句、肝心な所で助けてあげられない……。それどころか、死に向かうアンタに、近付くことすら出来なかった。これがどれだけ悔しくて、苦しかったか……」
血に汚れるのも気にせずに、桃鬼は僕の身体を抱き寄せた。
「……ゴメン」
「謝ったって、許しなんかしないよ。勝手に死ぬことなんて絶対に許しゃしないんだから」
言葉と共に、桃鬼の腕は僕を逃がすつもりは無いみたいだ。
しっかりと抱き締められた僕は、しょうがないのでそのまま気になっていたことを口に出した。
「そういえば、志妖。どうやってあの爆発を……」
「あ、ハイ……。ただ、全力で、こう……」
志妖は言いながら手を前方に突き出している。アバウトなジェスチャーである。
つまりは、全力で波動を撃ったのだろうが……。
「……それだけ?」
「あ……でも……」
ジェスチャーを止め、指先を擦りもじもじとし始める志妖。
え、恥ずかしがる要素あった?
と、いきなり桃鬼が僕を解放した。
「『生み出した波動を操る程度の能力』だろ?」
「あ、ハイ」
桃鬼の言葉に、もじもじを止めて頷く志妖。
「あの、私が生み出した波動を、一カ所に纏めて……こう……」
バーン、と平坦な声でジェスチャー発動。
つまり、波動を集中させて爆発にぶつけたって事らしい。
あぁ、まぁ、あれだ。
志妖めっちゃ強い。
「っと……」
「ミコト?どうしたんだい」
「……?」
急にフラフラして、足元が定まらなくなってきた。
どうした、僕の身体。
あ、そういえば。
「……限界、かな」
思い返せば僕の身体。かなりの重傷だった。
血を流し過ぎたみたいだ。
「ゴメン……。少し、寝る……」
そのまま僕は仰向けに倒れ込んだ。
空には、一筋の白い線。
「ミコト!ミコト、冗談は止めておくれよ!」
誰も冗談なんか言っていない。
悪いけど、今死ぬつもりはこれっぽっちもなくなってしまった。
目を閉じて、僕は考える。
これは、果たして僕の願いが叶った結果なのだろうか。
それとも、大量の命を奪った罰を受けさせる為に、死ぬことを許されなかったのだろうか。
正直、どうでもよかった。
自殺したら地獄行き。そんな話をどこかで聞いた。
殺人をすれば当然地獄行きだと思う。
どちらにしろ地獄行きならば、僕はまだ生きてみようと思う。
たとえそれが自分勝手で自己中なこじつけだったとしても。
とりあえず、今は寝よう。
次目覚めた時、またこの世界に目覚めますように。
ふぅ〜……ようやっと戦いが終わりを迎えました。
なんと爆発から二人を救ったのは彼女だ、ということで……。
今更ですが、この物語は多分に事故解釈(誤字にあらず)と歴史改変が含まれます。
それが気に入らない方は、……でも読んで欲しいのが本音です(笑)。
ここらで感謝の意を。
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では。




