表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/112

15:〔灰色世界の終末は〕

今回は少し残酷な表現が目立ちます。

苦手な方は、お気を付け下さい。

爪に残る不快感。

僕はそれを無理矢理飲み込み、更に自らの爪を振るう。

レーザー銃らしきモノを構えた三人の男達の腕を、レーザー銃ごと一瞬で切り落とす。

返り血が僕の頬に当たり、直後に断末魔が耳に突き刺さっていた。

両腕を失った男達のこめかみに、爪を一突き。それを三回繰り返すと、辺りは静かになっていた。


「ふぅ」


空を見上げ、息を吐く。

僕を中心としたここら一帯は、大量の『人間だったもの』で赤く染められている。


――一体いくら、殺してしまったのだろうか。


かつて生きることを諦めた存在が、今こうして他の命を刈り取っている。

それは、酷く滑稽なようで。

僕を得体のしれない感情でいっぱいにしていた。


「う……」


戦いはまだ終わりを告げていないのに、僕の身体は終わりを望んでいるみたいだ。

ボロボロになった着物の下には、ものの見事にレーザーで貫かれた身体がある。さらには、先ほどから音の聞こえ方がおかしいと思えば、左耳が一部吹き飛んでいた。そこから流れ出た血が固まり、穴を塞いでいるようだ。


「……この程度で済んでるほうが、不思議なくらいだな」


尻尾を力無く振り、呟く。

当たり前だ。圧倒的な科学力を身に纏った人間を何百何千と相手にして、死なないほうがおかしい。


「しばらくは……大丈夫かな」


能力で辺りを探ってみる。

この近くには、もう人間はいないみたいだった。


まぁ、ここら全ての妖怪を殲滅しに来たはずが、たった一匹の猫妖怪に何千人もやられていてはさすがに向こうも考え始めるだろう。

今は、丁度その時間かもしれない。


僕は、足元にあった赤いペンダントを拾い上げた。元の色は……確かめる意味もないので、気にしない。

パチンと音がして、開いたペンダントの中には、見知らぬ少女の笑顔があった。


「…………」


目を細め、ペンダントを握り締める。

せめて、あとかたもなく……。

そんな間違っているのかもしれない考えで、握り砕こうとした、その時。


「ミコト……」

「っ!」


背後から聞こえた、聞き覚えのある声。

僕は勢いよく振り向く。

そこには、桃鬼がいた。


「……ミコト」


再度、僕の名を呼ぶ桃鬼。森の入口にいる彼女の表情は、木の陰に隠れてわからない。


「……桃鬼?」


なぜかこの空気に耐え兼ねた僕は、彼女の名を読んでいた。

何も反応が無かったら、僕は彼女を森の中へと戻そうと思っていた。勿論、事情を話して。

だが、その予想は、悪い意味で裏切られた。


「……アタシの名を、呼ぶなァッ!」

「!!?」


瞬間、木々がざわめいた。


僕は、何が起きたかわからなかった。


気がつけば、僕は桃鬼に押し倒され、首をわしづかみにされていた。


「アンタは違うって……そう、思っていたのに……!結局、アタシを最初から騙していたのかい!!」

「………………!?」


ギリギリと僕の首を締め上げる桃鬼。

なんのことだかわからない。

桃鬼は、何に怒っている?


力が抜け、『ペンダント』を握っていた手から、一部砕けた『角』が零れ落ちていた。


………………え?


角、だって?


「がっ……っ!」

「あっ!」


無我夢中で首の手を振り払う。桃鬼から距離をとり、僕は周りを見渡した。

そして、自分の目を疑った。


「なん……だよ、これ……!」


そこに広がっていたのは、先程までと同じ地獄絵図。

命を無くした肉塊が、赤く赤く染め上げられている。


違ったのは、ひとつだけ。


だが、そのひとつがあまりにも大きすぎていた。


――『鬼の死体』が散らかっているなんていう、笑えない冗談のような、そんな違いなんて、信じたくなかった。


――いや、信じない!


「これは……ホログラフィーか?」


ホログラフィー。

レーザー光線を使い、空間に立体を生み出す光科学。

僕の知っているホログラフィーは、映像だけで触れはしない。

もしかしたら、知らないうち頭に直接『刷り込まれた』のかもしれない。


「くそっ」


能力を自分に使用。無理矢理感情を平常心にリセットする。

すると、『鬼の死体』は『人間だったもの』に戻っていた。

やはり、なにかしらの手段での洗脳。そこにホログラフィーを使ってリアリティを高めている。

そこらの木に装置が仕掛けられているはずだ、と僕は視線を森に向け、


「アアアアアッ!」

「っ!」


その場から飛びのく。

一秒前に僕がいた地面は、桃鬼の拳が粉砕していた。


「やめろ、桃鬼!」

「……一体どうしたらそんなに軽々しくアタシの名を呼べる。アンタには、罪悪感がないのかい!」

「違う!よく見るんだ、これは鬼じゃない!」

「これ、だって?ふざけるんじゃないよ、コイツラはアンタに殺された鬼達だ。それをこれ扱いとは、いい身分じゃないか。……反吐が出る」


ダメだ、今の桃鬼には何を言っても聞きはしないだろう。

ならば、直接感情を操作して……。


「なっ……感情が、っく」

「今のアタシの感情を操れるなんて思わないことだね。知ってるよ、アンタの能力の弱点。強すぎる感情は操ることが出来ないってことは!」


地面を蹴り上げ、髪針を手に僕に突進を仕掛けてくる桃鬼。僕はそれを真正面から受け止める。


「くっ……、ダメだ、桃鬼!」

「なにがだい?アタシは、アンタの存在の方が許せないのさ!」

「ぐ……!」


桃鬼と組み合い、押し合う。

妖力を総動員しても、僕の足はザリザリと後退を許してしまう。

身体から血が吹き出て、一瞬目が眩み。


その瞬間、僕達の横を、大量の人間が走り抜けていた。


「な……」

「!?」


マズイ、森の中には入らせてはいけない。


――くそ、目眩が……!身体が、動かない……!


均衡していた力が崩れ、僕は桃鬼に吹き飛ばされる。

一本の木を薙ぎ倒し、二本目で止まった僕の身体。

ガシャン、となにかが壊れる音が生きている耳に聞こえた。


「……あ……」


桃鬼が、ほうけた声を上げていた。

ホログラフィーが解除され、桃鬼の視界から鬼の死体が消えたのだろう。

これで、桃鬼は僕に攻撃はしてこない。


だが、もう遅かった。


次々に森へと流れ込んでいく人間達。

それに反比例して、ひとつ、またひとつと、命が、消えていく。


動かない身体。僕を支配するのは、絶望と、虚無感。

世界が、灰色に、染まっていく。


「あぁ……」


許せない。

許せない。

許せない。

許せない。


何が?


自分が、人間が、僕が、あいつが。


パチンと、なにかが、ハジけた音が頭に響いた。


「…………!」


瞬間、流れ込んで来たのは強烈な感情の激流。


ブルブルと身体が震え、全身の毛が逆立つ。

砕けそうなぐらい歯を食いしばり、動かなかったはずの身体を、噴き出す血を気にせずに動かして立ち上がる。


この感情は、果たしてなんと呼ぶのだろう。


ふと、森から出て来た一人の人間が目に入った。

そして、理解した。


――これが、殺意なんだと。


「ウ…………ゥアアァアアアアァアア!!!!!!」


瞬間、僕は駆け出していた。

一瞬でその人間の命を刈り取り、妖力を全包囲に撒き散らす。


「なっ……!総員、集まれ!くじっ」


僕を見て驚愕した人間の首を撥ねる。


もはや、止まらない。










「あ……あぁ……」


アタシは、動けなかった。

あまりの恐怖に、足が震えて立っていることすらできない。


周りには、人間らしき死体がゴロゴロと頃がっている。

先程まで、アタシには確かにこれが鬼に見えていた。

それが、アイツ……ミコトを吹き飛ばして木が倒れたかと思ったら、突然それは鬼ではなくなっていた。


ガチガチと、歯がぶつかる。


嫌な予感がして、森の入口に来て。

そこで見たのは、ミコトが角を砕いたその瞬間で。


信じていたのに、と。

裏切られた、と。


実はどこかで少なからずミコトを疑っていた自分を棚に置いて、一方的にミコトに襲い掛かった。


そして、今になって、理解した。


全ての黒幕は人間で。


ミコトは昔のままで。


勝手に勘繰っていたのはアタシの方で。


あぁ、やっぱりまだ混乱してる。


けど、これだけはわかった。


ミコトは、アタシ達を守ろうとしてくれていて。

アタシは、そんなミコトに襲い掛かり、邪魔をして。

ミコトを……壊してしまったんだと。


目の前で繰り広げられる、一方的な惨殺劇。

ミコトは、赤い涙を流しながら爪を振るっていた。










「…………」


気がつけば、周りには誰もいなくなっていた。


鬼も。

妖精さんも。

人間も。


けれど、まだ世界は灰色のままだった。


まだ、許せない。


なにかが、許せない。


何を、何を、何を?


ガクン、と首を曲げる。視界の中には、桃鬼の姿。

桃鬼は、まるで何かに怯えているかのようだった。

涙を流しながら、僕を見ている。


――あぁ、わかった。


「……僕は、自分が一番許せないのか」


自分のことなのに、今更気付くなんて。本当に、救いようがない。


無駄な戦いをさせたくないなんて言って、一人で戦おうとした結果がコレ。

森の中には、命がひとつも感じられない。

こんな結果に追いやったのは、間違いなく、自分。


僕は、なけなしの妖力を右手の爪に込める。


そして、自分の首に突き立てて、そのまま突き刺し――。


「…………?」


――刺さら、ない。


見れば、僕の爪がフニャフニャになってしまっている。

なんだコレは、と目を見開くと。

その瞬間、僕の視界は真っ暗になっていた。


「!?」


なにか柔らかいものに包まれる感覚。

なぜだかとても心地好く、懐かしい匂い。


「……ゴメン……」


耳元でポツリと呟かれた言葉。その声も、聞き覚えがある。

というより、僕の爪をこんなふうに出来るのは、一人しかいない。


「桃鬼……?」

「……っ」


グッ、と抱かれる力が強くなる。微妙に震えている身体。泣いているのか?


桃鬼から流れ込んでくる、暖かく、そして柔らかな感情。

灰色が、薄くなっていく。


「桃鬼」

「……っ」

「泣かないで」

「泣いてなんか、ないよ」

「嘘だ」

「本当、だ」

「なら、顔見せて」

「……嫌だ」

「お願いだから」

「…………」


ゆっくりと、桃鬼が身体を離す。

世界には、色が戻っていた。

僕は、少し紅くなっている桃鬼の頬に手を当てる。


「ゴメン。でも、ありがとう」

「なんで、ミコトが謝るんだい……。アタシが、アタシ、が」


桃鬼を抱き寄せ、僕の身体に顔をうずませて続きを言わせない。

悪いのは、僕なんだ。


だから、それなりの報いを受けなければ。


「っは……。ミコト?」

「僕を引き戻してくれてありがとう、桃鬼」


今度はしっかりと、お礼を言う。

そして、桃鬼に結界を張った。


「なっ、ミコト!?」

「桃鬼には、生きててもらいたいからね」


空へと舞い上がっていくロケットの姿。

そして、シェルターが完全に閉まりきった都市内に蔓延している、白い煙。恐らく、可燃性のガス。

簡単に言うなら、超巨大爆弾がそこにあった。

被害はとてつもなく広がるだろう。

人間め、随分と粋な置き土産を残して行きやがった。

生き残った人間も妖怪も関係無しに根絶やしにするつもりか。


「ミコト!出せ、出すんだよ!」

「残念だけど、それは無理。桃鬼には、生きていて欲しいから」


世界は広い。

人間がいる限り、妖怪は消えない。

だからこそ、桃鬼に生きていて欲しいんだ。


白い煙が朱に染まり始め、爆発的に内部気圧が跳ね上がる。


僕はギリギリまで、桃鬼を覆う結界に力を込め続ける。


そして、最後になるであろう、能力使用。

桃鬼の感情を操作。

僕が死んでも、哀しまないように。

笑い飛ばして、簡単に忘れられるように。


「ミコト!ミコ……」

「バイバイ。ありがとう」


それが最後。


瞬間、僕の目の前は真っ白になっていた。

毎日更新の目標が早くも敗れ去った……。


で、でもいつもより長かったからいいよね!


はい。すいませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ