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12:〔少女と化け猫〕

日の光が入り込まないこの場所なのに、相変わらず僕の癖は健在らしい。

ゆっくり慎重にまぶたを開き、当然そこに太陽は無いことを再確認してから息を吐いた。

ぱちぱちと何度か瞬きをしてから、さぁ体を起こそうかと力を入れる。


「ん……」


起き上がれない。

どうした、僕の身体。昨日の一撃が案外効いているのかと視線を自分の身体に向ける。


「……てぃ」

「あぅ」


僕の身体に引っ付いていた妖精さんを引っぺがす。片っ端から。

あらかた剥がし終え、妖精さん達を木の外に放り投げる。


「よし、行くか」


妖精さんの安否は気にしないで木の穴から飛び降りる。今日は人里の様子を見に行かなければならない。


「ミコトさん、ひどいです……」


ぽつりと聞こえた呟きはもちろん無視して、僕は駆け出す。


フカフカの木の葉の上に落としたんだから痛い訳無かろう。全く。























「な…………」


木の上で絶句する僕。目の前の光景が信じられなかった。

確か僕が直接最後に人里を訪れたのは六十年程前。その時はまだ人間は原始的な生活を送っていたはずだ。獣を狩り、魚を採って、叩き割った石で調理をしているような、そんな生活を。


だからこそ、僕は目の前の光景が信じられなかった。


「……どこの繁華街だよ」


そこにあったのは、街だった。集落でも村でもなく、街。

僕が前いた時代となんら変わらない、いや、むしろそれ以上に発達した文明が、僕の目の前にある。

僕は、しばらく見開いた目を閉じることが出来なかった。













(しかし、近くで見ると更に凄い。この建物なんて何で出来てんの?コンクリートですらないし……)


猫の姿に変化をし、街中を練り歩くことにした僕は、必要以上にキョロキョロしていた。

猫だからこそ大して不自然では無いが、人型ならただの挙動不審者である。猫で良かった。いや、そもそも人型でここを歩いたら挙動不審以前に捕まっていると思うけれど。


(服は……僕の知ってるものと大して変わらないのかな。材質は違うみたいだけど)


子供に抱き抱えられながらそんなことを考える。やめて引っ張んないで、尻尾が千切れる。


――それにしても、これはどう考えてもおかしい。


子供の腕からスルリと抜け出してエスケープして尻尾をクルリ。すると、子供は首をかしげて僕の隣を通り過ぎていった。

幻術って便利。


(さてさて……。僕の記憶じゃ、人間はたかだか数十年じゃここまでこれないはずだけど)


歴史なんざ詳しいことは忘れたが、僕の言っていることは正しいだろう。人間の文明は少なくとも数千年、数万年単位でゆっくりと進歩していくものだ。それも、人間自体の進化過程も加わる原始時代となればなおさらなはず。


(な、はずなんだけど)


ただいま僕の目の前に居るのは、なんともスマートな鉄の塊(もしかしたら鉄ですらないかも)を持っている屈強な成人男性。

簡単に言おう。

銃持ったオッサンである。


「………………」


オッサ、男は僕を見下ろしたまま黙りこくっている。

なんだ、なんか用かオッサン、なんて言えるはずもなく(まず猫だから話す時点でおかしいんだけど)、僕はじっとしていた。

動いたら撃たれそうな感じだしさ。流石に銃撃たれたら身体に穴開いちゃう。……ん、穴?


「…………ふむ」


オッサンは銃を地面に置いて僕を抱き上げた。なんだい肩なんかに乗っけて。


僕を肩に乗せたオッサンは、銃を拾って歩き出す。時折撫でてくれるので、単なる仏頂面な人なだけだとわかった。ダンディ。

僕は抵抗せずになされるがまま。ダンディなオッサンの肩に乗ったままじっとしている。


(それにしても、穴、ねぇ……。やっぱり当たりかな)

























「開けろ」

「はっ」


オッサンの一声で、目の前にある扉が開かれる。偉いんだね、この人。


そんな他人事な考えをしている内に、オッサンはどんどん進んでいく。長い長い廊下を歩き続けて、辿りついたのは少し小さめな扉の前。


「…………」


そこでオッサンは、僕を肩から下ろした。僕を見つめる視線からは、何かを託されたような、頼まれているような、そんな感情が読み取れる。

オッサンが扉の横にあるボタンを次々と押していく。


(パスワードかよ……ますますおかしいな)


最後の一つを押し終えたのか、扉からガチャリと音が聞こえてきた。同時に背を向けたオッサン。

その大きな背中をじっと見送った。


「誰?……あら」


扉を開けて出てきたのは、小さな少女。少女は僕を見て、少しだけ微笑んで部屋の中へと招き入れた。










部屋の中に入り、僕は周りを見渡す。大量の本以外は変わったものはないな、とか考えていると、不意に少女が声をかけてきた。


「さて、もう正体を見せても大丈夫よ、妖怪さん」

「!」


当たり前の様に話し掛けてくる少女。しかしその視線は本に向けられていて、何かのついでのように呟いただけのような印象を受けた。


「……なんでわかった?」

「なんとなく、かしら」

「……なんとなく、で僕の変化が見破られるなんて。理不尽過ぎる」


姿を人型に戻し、ベタリとその場に座り込む。

そこで初めて、少女は僕を真っすぐに見た。


「へぇ……」

「不思議?」

「えぇ、とっても。貴方、名前は?」

「ミコト。猫又のミコトさ」

「いい名前じゃない。私は永琳。八意永琳よ」



ふぅん、とそっけない返事を返す。

永琳は、また本に視線を戻していた。気になったので横に行って覗き見てみる。


「……わかるの?」

「えぇ」


三秒で挫折、そして永琳がいわゆる『天才』と呼ばれる人種だと言うことがわかった。

近付いたついでなので、気になっていたことを聞いてみることにする。


「怖くないの?」

「どうして?」


疑問形で返されてしまった。どうやら怖さを隠している訳ではないようだ。


「僕は妖怪だよ。人間の恐怖から生まれた存在。普通、妖怪を見た人間はもっと慌てるはずだけど」

「貴方は人を襲うの?」

「いや別に」

「ならいいじゃない」


つい正直に答えてしまった。

しかし、やはり僕は妖怪にしては怖くないのだろうか、と若干自分の見た目に想いを馳せてみる。

無意味なのですぐに止めた。

そんな僕の横で、永琳がペラリと本をひとめくり。何気なく言った。


「それとも、仲間が殺されたから、八意家の一人である私に復讐でも?」

「……!」

「あら、当たらずとも遠からずってとこかしら」


クスリと笑う永琳。

彼女が言った言葉を、頭の中で反芻させる。

やはり、鬼を殺したのは。


「……やはり人間だったか」

「えぇ、やったのは私達人間よ。私は詳しいことは知らないけど、ね」


そう言って、また本に視線を戻す永琳。

僕は頭をポリポリと掻き、眉間にしわを寄せる。

人間が妖怪を恐れるのは当たり前のこと。しかもこの時代は僕がいた時代とは違って妖怪が普通に存在していて、普通に人間を襲っているのだ。ある程度力を持った人間が駆除に乗り出すのも、また当然かもしれない。


「そうか……。それだけわかれば充分だ」

「いいの?私達は近いうちにあなた達に直接仕掛けるのよ?」

「なら、こちらも相応の対応をするだけさ。僕は帰る。むざむざ潰されるつもりもないし」


扉を開き、猫の姿に変化。人がいないことを確認して、前足を外に踏み出す。


「十年よ」

「?」


声に振り返ると、永琳が本を閉じて立っていた。


「十年後に、私達は妖怪を殲滅しにかかる。覚えておいて」

「……何故教える?」

「さぁ?わからないわ。……でも、貴方みたいな妖怪もいることがわかったのは、幸運だった」


ニコリと笑う永琳。


その笑顔を背に、僕はそこから去った。







さて……これからどうしたものか。


永琳登場!


……ようやく、ですね。はい、すいません。


なかなか口調が掴めず、書きあぐねましたが、うまく書けてますかね?


質問、あったらどんどんどうぞ!


ポイントも入れてくれたら、嬉しいなぁ……(._.)

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