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11:〔撹乱〕

「ミコト!」

「ん?」


崖の上から森を一望していると、下から僕を呼ぶ声が。言わずもがな、桃鬼である。そもそも僕を呼び捨てにするのは桃鬼ぐらいしかいない。


「よっ、と。どうしたの?」

「いや、少し気になることがあってね。来てくれ」


珍しく真剣な顔付きで言って、僕に背を向ける桃鬼。

なんだろうかと思いながら、僕は桃鬼についていった。






















「これは……」

「ヒドイもんさ。森の入口に倒れてたのさ」


洞窟の中に入っていった桃鬼についてきてみれば、そこには自分の目を疑う光景があった。

そこにあった、いや、いたのは、無惨な姿で倒れている鬼だった。角はへし折られ、右腕は肩から存在せず、足はわけのわからない方向へ捩曲がって。

極めつけは、身体中に開いた小さな穴。息は、もうしていない。ただ、悔しそうに未だ歯を食いしばっているばかり。

顔を見て、彼はあの決闘祭で勝ち残り、『四天王』となった者だと気付く。


「ミコト。コイツはね、四天王の中でも一際成長が大きかった奴なんだ。あの決闘からもう五十年経つ。コイツをここまでできる奴は、アタシか……ミコト、アンタしかいない」

「……何が言いたい?まさか、僕がやったって言いたいのか?」

「そんなわけないじゃないか。アタシはアンタを昔から知ってる。アンタはこういうことをする奴じゃない。……ただ、アタシは疑ってなくても、他の鬼はそうはいかないんだ」


真剣に、けれど少し辛そうな顔で言う桃鬼。


「なぁ、ミコト。言ってしまうけど、他の鬼達はアンタを疑ってる。皆で『こんなことが出来るのはアイツしかいない』と。アタシがどれだけミコトは違うと言っても、聞かないんだ、アイツら……」


俯き、申し訳なさそうにしている桃鬼。

むぅ、と僕は考える。

森の入口で倒れていたというこの鬼は、僕や桃鬼に及ばないとはいえ他の四天王達を置き去りにするほどの強さを誇っていた。その彼をここまで叩きのめすことが出来るのは、確かに僕か桃鬼しかいないだろう。そして、鬼達は桃鬼に絶対的な信頼を寄せている。僕が疑われるのも無理は無かった。

桃鬼が本当に申し訳ないと思っているのが感情として伝わってくる。


「気にしないでよ、桃鬼。……けど、そうだな……。このまま僕と桃鬼が一緒の場所にいたら、桃鬼にまで……、?」

「どうしたんだい?」

「いや……まさか」


ピクリと耳が動き、僕は一瞬で洞窟を飛び出した。


僕のもうひとつの能力、『命を感じ取る程度の能力』で感じ取った、大量の二つの命の固まり。

一方は非常に大きく、一方は掠れて消えかかっているような、弱々しい気配。


その正体は、広場にいた。


「な……止めろ、おまえら!!」


反射的に叫ぶ。

仕方ないだろう。

目の前で鬼達に追い詰められている妖精さん達を見て、止めに入らない方がどうかしてるはずだ。


「なんだい、なんの騒ぎだこれは」


僕の着物を能力で掴んでいた桃鬼が、少し遅れてやってくる。

よかった、僕だけではこの場は収めきれない。


「桃鬼様!止めないで下さい!コイツら、俺達の仲間を……!!」

「違います!ミコトさん、私達は何もしていません!」


桃鬼は鬼に、僕は妖精さんに言われてたじろぐ僕達。


「何の話だ。妖精にはお前ら鬼をどうこうする力は無いはずだけど」

「そうだよ。アンタ達、頭を冷やしな」

「しかし……!もう『今回』ので六人目!これ以上コイツラと一緒に過ごすのには堪えられない!

「『今回』……?桃鬼、前にもあったのか、あんなことがあったのか……?」

「白々しいぞ、貴様!妖精には確かに出来ないかもしれないが、貴様には、いや、貴様だからこそ出来るだろう!」

「なっ……ぐあっ!」

「ミコトさん!?」


鬼に胸倉を捕まれ、そこから殴り飛ばされる。

妖精さんが心配そうに飛んでくるが、それを手で制して立ち上がった。

桃鬼をちらりと見る。彼女は、腕を組んだままこの僕から目を逸らしていた。


――そうか。桃鬼もわかってるんだな。

なら、ここらで区切りを付けさせてもらおう。


「くっ……!くくっ、ハハハハハッ!まさかこんなに早く気付かれると思わなかったよ!」

「なっ……!」


僕を殴り飛ばした鬼が、目を見開いて僕を見ている。

その鬼の右腕を、僕は何気ない仕草で、切り付けた。


「グッ……、き、貴様ッ!」

「アハハッ!お前らに僕が勝てる訳がないだろう!」


鬼の拳を鼻先で避わし、僕は首根っこを掴んで押し倒す。

鬼から流れ込んでくる、激しい感情。

僕はそれを無視し、自らの爪に妖力を込め――。


「ミコトッ!!」

「!!」


――桃鬼が、僕を殴り飛ばしていた。


木に背中を打ち付けた僕は、グラグラする視界の中で桃鬼を睨みつける。

桃鬼の表情は、それこそ感情が読み取れない、複雑な表情をしていて。


「――出ていけ、ミコト!」


喉の奥から絞り出すような声で、それだけ言った。いや、それだけしか、言えなかったのかもしれない。


僕は、ふらふらとした足取りながらも立ち上がり、狡猾な笑みを桃鬼に見せ付けてから、背を向けた。



























真っ暗な夜。僕はあの大樹の中で目を閉じている。


僕は、あの後生き残っていた妖精さん達を引き連れてここへ来ていた。

悲しいことに、他の妖精や妖獣達は、鬼達にその命を奪われていた。

ある意味仕方のないことなのかもしれないが、それでも守れなかったのは悔しい。


「ミコトさん……」

「?」


一人の妖精が、フヨフヨと穴の中へと入ってきた。

なんだか悲しそうな表情だ。


「本当に、ミコトさんが……?」


僕の足元にちょこんと座り、上目遣いで聞いてくる妖精さん。

そんな妖精さんに、僕は。


「そんなわけないじゃん」


しれっと、答えた。

妖精さん、ポカン。


「僕が鬼をどうこうしたって何の意味もないし、理由もない」

「な、ならなんで!?」

「あのままじゃ、桃鬼が危なかったからさ」


少し無理矢理過ぎたかもしれないけど、と付け加える。


最初、洞窟で桃鬼から話を聞いた時は、うっすら考えただけで、こんなに早く実行する気は無かった。


「どう転がったとしても、僕はこうするつもりだったんだ。桃鬼率いる鬼組と、僕が収めるその他妖怪勢。この二組は、別々に分けるべきだって」


しかし、実際に鬼達の感情を取り込んで考えが変わった。

予想以上に、鬼達は切羽詰まっていたのだ。

何人も仲間を殺され、しかし明確な犯人はわからない。ならば、犯人らしき相手だけでも消しておきたい。

次は誰か。大事な仲間か明日は我が身か。


「下手したら、僕らは収拾がつかなくなった鬼に全滅させられていたかもしれない。そして、そうなったら、僕も向こうを全滅させなきゃならない。仮に辛うじて鬼達が踏み止まってたとしても、自分達の頭が仲間殺しかもしれない奴と仲良くしてたら、いい気分じゃないだろ?」

「……なるほど」

「どっちにしろこの森の妖怪はほぼ全滅に陥る。そうなるのは、嫌だから」


その為にわざと悪者を演じ、桃鬼が僕を追い出しやすくしたのだが……。


実は桃鬼自身、僕を疑っていた。

口でどれだけ言おうとも、感情までは騙せない。

まぁ、だからといって桃鬼を責めようとは思わないけれど。むしろそれは当然な感情だ。


「まぁ、今重要なのはそこじゃない。重要なのは、どこのどいつが鬼達をやったのか、ってとこだ」

「……はい。正直、あの鬼を殺すとなると……」


妖精さんは僕をちらっと見て、慌てて目をそらす。

気を使ってくれているのだろうか。いい子だ。


「別にいいよ。確かに僕なら出来る……。ということは、鬼をやった奴は僕ぐらい強いかもしれない」

「……そんな妖怪、ここにいるでしょうか……?」

「いや、妖怪とは限らない」

「え?」


そう。犯人は妖怪とは限らない。

しかし……果たして、彼等にそんな力があるのだろうか?

僕の知る限り、そんなことはありえないんだけど……。


「……僕は寝る。何かあったら、呼んで」


目をつぶり、考えるのをやめる。



明日は人里にいかなきゃならないな、と最後に一人呟いた。

なんかごちゃごちゃしてしまった……。


指摘、感想があればどうぞ。

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