1:〔灰色の目覚め〕
本作品は東方Projectの二次小説となります。
いかな駄文であろうとも『気にしないぜ!』的な人はどうぞ。
『いや……遠慮しとくよ』的な人はバックしてください。
でも読んでくれたら嬉しいなぁ……嬉しいなぁ……。
「…………ん」
目を開く。薄く、薄く。
いつも始まりはこうだ。
ゆっくりと目を開き、容赦無く窓の外から突き刺してくる朝日を視界に受け入れて、そこでようやく僕は朝が来た事を実感する。
「…………?」
しかし、違う。何がって?それは……そう。光がないんだ。いつもなら、薄く、細く開いた世界から光が入ってくるはずなのに。
今は、それがない。
「暗い……」
光が来ないことを理解した僕は、それでもゆっくりと慎重に目を開いた。癖だ。こうしないと光をもろに食らってしばらく目が利かなくなるから。
しかし、今はそうなることはない。そもそもの光、太陽光が存在しない。
「なんだ、ここ……」
言いながら、身体を起こす。そこは、いつもの窓際の、目を開いたら太陽が直接目に入る位置にあるベッドではなく。
「……木、か?木の、中?」
そう。僕がいたのは、昨夜横になったベッドではなく、木の中。大樹に開いた穴の中だった。
「…………」
寝ぼけて、いるんだろうか。
しかし、その割には周りの雰囲気がリアルに感じる。
風に吹かれて囁くような木の葉。
どこからか聴こえる虫の声。
そして、清々しさすら感じられるこの空気。
「夢、だな。そういうことにしておこう」
僕は強引にそう納得し、また横になった。もしかしたら、自分でも知らない内に現実逃避しているだけかもしれないけど。
まぁ、寝て起きたらわかるでしょう。
『……君は、幸せだったかい?』
僕は、目の前に横たわる『彼女』に向かって話しかけた。
『彼女』は、ちらっとこちらを向いて、その尻尾をふらりと揺らす。
『そっか……。僕も、幸せだったよ。特に、君と出会ってからは』
手を伸ばし、『彼女』の頭を撫でる。『彼女』は嬉しそうに目を細めると、僕の腕を伝って、横たわる僕の身体の上に座った。
『彼女』は、猫だ。
何時からだろう、気がつけば開かれた窓際に座っていて、僕を見つめていた。
ほとんど誰とも会わなくなった僕は、一日の大半を『彼女』と見つめあって過ごしていた。
『君は……物好きだねぇ』
笑って、灰色の身体を撫でる。
『彼女』が現れる少し前ぐらいだっただろうか。
僕は、余命宣告を言い渡された。
持って半年……早ければ明日にでも。
心臓に開いた穴のせいで。
決して穏やかではない現実を、しかし僕は穏やかに受け止めていた。
『……もう、いいや』
医療費で生活が苦しく、会いに来るたびにやつれていく親。
なんとかなる。
そう言って僕を励まし、僕の笑顔を見て複雑な表情をする医者。
僕は、いるだけで周りを苦しめていた。
『ねぇ……。君は、自由に生きてる……?』
僕の上で、じっと僕を見つめている『彼女』に、僕は語りかける。
もう、眠たくなってきた。
『ねぇ……。連れていってよ……』
次に起きたら、何もかもから解放されて。
『ねぇ……。君と、一緒にさ……』
そんなありえない物語を望んで、僕は『彼女』を見つめる。
そして、その灰色の瞳に吸い込まれるような感覚を覚えながら、僕は眠りに落ちた。
「……………………あれぇ?」
混乱。
さっきまで見ていたのは夢?
それとも、この大樹の穴で目が覚めた方が夢?
自分の身体を見てみる。あのやけに軽く薄っぺらい患者服ではなく、灰色の甚平が身体を覆っている。もちろん、上半身に張り巡らされていた点滴用のケーブル等も見当たらない。
甚平をつまんでみて、自分の手の爪がやけに鋭いのにも気が付いた。
「……まぁ、いいか」
その一言で片付ける事にした。
夢なら夢でいい。
とにかく、自由に動けるんだからそれを満喫しようじゃないか。
「とうっ!!」
とりあえず穴から出ることにする。下を見ずに。
すぐに後悔した。
高かった。
ビル何階分だよ!とツッコミたくなる高さだ。
「わあぁあぁぁーー!!」
頭の中冷静。しかし外見大慌て。そろそろ頭の中もパニックに陥りそうだ。
なので。
「フッ……。この程度」
外見も装ってみました。
とかやってる内に葉っぱがつもった地面はすぐそばに。腹を括って着地を試みる。
「…………っ!」
――スタン。
…………あれ?
固くつぶった目を、恐る恐る開いてみる。僕は四つん這いの体勢になっていた。
パシッ、と舞い上がった葉が顔を叩いた。
「………………」
立ち上がる。足は痛くない。
まるで猫のように着地してしまったな、と頭を掻こうとして、違和感。
頭に、なんかある。
「まさか……な」
フニャフニャとしたそれは、僕の言葉とは裏腹に確信を促す。
まごうことなき猫耳である。
今考えてみれば、確かに音の聴こえ方がおかしいな、とは感じていたが……。
猫耳(多分)を触るのを止め、本来耳があるはずの箇所、こめかみの横に手をあてるが、
「ない……」
やはり、なかった。
これは本格的におかしい。
僕は現実逃避も出来なくなってきた。
「…………っ!」
瞬間、僕は駆け出した。恐ろしいスピードが出て、けれどそれに驚いている余裕も無くて。
先程から聴こえていた水の音に向かって全力疾走。
ザザッ!と草村から飛び出して、目の前にあった透き通る湖に近寄る。
天然の鏡は、見慣れた僕の顔に、いろいろと追加した姿を映し出した。
まず、灰色の猫耳。次に、灰色の髪。そして、灰色の瞳。
僕は、理解した。
湖に映った僕の姿は、波紋で揺れ動く。僕はそこに、『彼女』を見た。
「……連れてきて、くれたのかな?」
僕は、頬に流れる涙を拭かずに、ただ笑って呟いた。
さて、最初は暗めでしたが……。
次回からはパッと明るくなります。
大丈夫、主人公はポジティブです(笑)




