9話 死の谷を越えて
「これも持っていきなさいな」
別れ際に灰の肖像シリーズを纏ったノブミにアズミは所持していたワンドを差し出した。
「このワンドはソーンワンド。灰の装束同様、大賢者ゼリ・キャンデが遺した物」
「よいのですか?」
「···あなたが力を受け継いだのは間違いなかった。それだけのことですわ」
渋々のようで、アズミはすっきりした様子もあった。
「アズミ姉さん」
「姉呼びまでは認めてませんわっ!」
「ええ〜??」
わだかまりはいくらかは解消した様子のキャンデ姉妹だった。
「学生は限定的ですが、セッテの魔法兵達は改めて反魔王軍の活動に協力させましょう。このっ、新校長が!!」
副校長はどさくさに校長の座に納まっていた。
「ええ、まぁ、頼みます。俺達は希望の砦に向かうついでに、谷の街道の魔物を片付けておくので、道の補修と補強もお願いしますね?」
「その点に関しては前払いしただけの働きをしてもらわねば困りますぞっ? 勇者の皆さん!」
「あーはいはい。頑張りますっ」
「この学院の将来が心配なんだぞ?」
「臨時でしょ?」
「なにか仰りましたかぁーっ?!」
「では出立します!」
ヒカル達はそそくさと水と魔法の都セッテを後にした。
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オイトの谷。セッテと遥か西にある希望と砦を結ぶ最短の魔除けの街道が通る要衝であったが、魔王軍の侵攻に伴い、その手の者と思われる勢力に度々攻撃され、現在は通行困難となっていた。
「ふぅっ、規模ありそうな戦闘ありきで銀毛の馬を借りれないから、ちょっと掛かったね」
「しょうがないよ。それよりコスモマージの件もある。それなりの対策取られてる前提だ」
谷の入り口が見える位置で、ヒカル達は気を入れ直していた。
ノブミ以外の装備は、ヒカルはミスリル鋼シリーズの防具と剣。モモミチはビショップシリーズを強化。ミリンミリンはミスリルのブーメランと槍にサーペントマフラー、プラチナ亀の腕輪を新調していた。
いずれもコスモマージ戦より強力。さらに全員事前情報から即死耐性のハートの護りと、耐性のあるモモミチ以外は呪い耐性の天使の護り、モモミチは魔力を高める果実の護りを身に着けていた。
「谷の上から襲撃されると面倒です。いっそ、わたくし達の方が、より上空から、強襲しませんか?」
「クワっ? 面白そうだぞ!」
ヒカル達はノブミのフライの魔法で飛行し、谷の上空まで上昇した。
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見下ろすと谷の魔除けの街道は度重なる襲撃であちこち破損し、魔除けの効果はまだらとなっていた。
そして、
「いました!」
向かって左右の谷の上には2種の魔物の集団が点在していた。1つは自爆する特性の虫系モンスター、ボマーバグの塊。もう1つはさらに奇怪で闇の力を宿す首の無い鎧と馬の塊で、日差しに焼かれ続けていた。
「虫はただの休眠ですが、あの異様なのはデュラハンの群れです! 初めて見ますがアンデッドなので日差しへの防御形態なのでしょうね」
まずボマーバグ達が反応し、飛翔を始めだした。
「虫が来る! 細かい操作補助は自分とモモミチだけでいい、俺とミリンミリンは左右に飛ばして解除してくれ! 俺は右手でっ」
「オイラ左かっ」
「わかりました。しかし虫は先に処理します。気絶してしまうので、少し加減して···!!」
ノブミは大賢者の力を解放し、ソーンワンドを構えた。
「トゥルース・マナエレクトン!!!」
真なる魔術の雷を放ち、無数に逆巻きだすボマーバグの腹の爆薬袋を誘爆させて壊滅させるノブミ。
「プロテクト! レジスト! ストロング! ノブミはエリクサー飲んでてっ」
「はい···」
補助魔法を付与しつつ、気絶まではしないものの疲弊したノブミの前に出るモモミチ。
「···この光の力っ、セッテでコスモマージを滅したのは貴様らか!!」
融合形態から分離してゆく首無し騎士のデュラハンの塊の内、一際強い力の塊から1体の強壮な特殊個体が姿を現した。
右手側の谷にこの個体はいた。左手はデュラハン塊の数は多かったが特殊な気配は無いとヒカルは判断していた。
「阻害されてるにしてもっ、情報の伝達、解析を軽く考え過ぎじゃないか? 魔王軍!」
闇の首無し馬を駆るデュラハンの群れに突進するヒカル。ミリンミリンも左の谷の上で交戦を始めていた。
「ターンアンデッド!」
左右の谷のデュラハン群に纏めてアンデッド祓いの清めの光を放つモモミチ。デュラハンの強度と、規模を広げ過ぎたことで一撃では祓えなかったが、初手を遅らせることはできた。
「せぇあっ!」
「クワクワクワァーッ!!」
デュラハンの即死と呪いの特性はアクセサリーで防ぎ、左右の谷の上で死の騎士達を蹴散らしてゆくヒカルとミリンミリン。
ヒカルは特殊個体まで行き着いた。
「我はデュラハンロード! 八魔将が一角っ!」
「だと思ったっ、俺はヒカル! 勇者の一角だっ!」
「なにぃっ?!」
馬上のデュラハンロードと激しく切り結び、盾を切断されながら首無し馬を両断して滅し、剣を両手持ちに切り替えるヒカル。
「勇者か、やるな。くくっ」
対峙する魔将とヒカル。
「ターンアンデッド!」
「サンダー!」
残る魔力でヒカルに援護を入れるモモミチとノブミ。
「うっ?! 無粋なっ」
怯んだ隙を逃さず、加速して交錯様に十字にデュラハンロードの胴と片手に持つ頭部を切断するヒカル。
「悪いな。俺達、4人で勇者なんだ」
「おおっ、魔王、様···」
デュラハンロードは消滅した。
「おいっ? ヒカルばっか助けてズルいぞっ? こっち雑魚が倍いるんだぞ?!」
左の谷では、起こした水流に乗り、相手が多過ぎて一旦逃げに回るミリンミリンなのであった。
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谷の残存のデュラハン達を殲滅後、ノブミが使い魔の呪符を使って梟の使い魔を生成してセッテに討伐完了を報せ、一行はオイトの谷を越え、希望の砦を目指した。
「···また凄いとこだな」
たどり着いた希望の砦は堅牢な城壁とバリスタと強固な魔除けに守られたまさに要塞。
元は既に魔王軍に滅ぼされた国の辺境要塞兼、北の港町との交易拠点であった。
しかし南のツノココ砂漠が陸路からの魔王軍領への最も有効な入り口であった為、ここが人類の最大拠点となっていた。が、
「忍者が一杯いるぅーーーっ!!!」
そんなことより忍者達に大興奮のモモミチ。
実際、希望の砦には忍者職が多かった。というより世界中から強者が集まった結果、探索と工作活動に加え前衛でも戦える貴重な忍者職の者達が好待遇で優先的にここに集められていた。
これまで極端に見掛ける機会が少なかった理由でもある。
「まだ関心あったんですね。最近言わないかもう冷めたのかと···」
「執念深いんだぞ」
「よし! 皆っ、仲間になれそうな忍者を探そう!!」
「今から入れるのか?? それより、砦の司令官に」
「忍者GOっ!!」
結局、モモミチに付き合い全員で日暮れまで探し回ったが、砦には個性的な忍者達が数多くいたものの、もはや普通の冒険者とはレベルが違うヒカル達に釣り合う者は見付からなかった。
「ううっ、もう私! 忍者に転職する!!」
「いや、ここまで来たら僧侶で通そうよっ」
「忍者ぁーっ!!」
「手裏剣系の武器の使い方、モモミチに教えてやってもいいぞ?」
「付け焼き刃は怪我するだけですから、今はやめときましょう」
宿屋でモモミチがゴネつつ、一行は司令官との協議は明日に回すことになった。




