8話 魔法学院の罠 後編
男子トイレの用具入れから勝手に、掃除中、の立て札を取り出してトイレの前に置き、事前にノブミのフィールの魔法で周囲を探知し、聖水と霊木の灰とサイレンスの魔法で音を遮断する結界を貼ると、手洗い場で4人は向かい合った。
「あの校長怪しい。凄く巧妙に隠してるけど、微かに闇の者の気配がするっ」
モモミチの発言に全員を目を見張った。
「確かになんかちょっと皿がモゾモゾする感じはしたんだぞ?」
「しかし魔法学院の校長であれば時に闇属性の品を所持していても不思議はない、と言えないでもないです」
「これだけ魔除けの強い街に入り込めるか? まぁ、勇者ヨキの戦いでもそんな話もあったような気もするが、そうはっきりした伝承でもないしな···」
「いや、上位魔族の中には脱出時のリスクとその力の大半を費やして聖なる領域に侵入する者は古今東西稀に存在する! でも、有力支援者だし、ノブミの言った通り思い過ごしの可能性はあるから···備えはしておこうよ」
「さっきのフィールの魔法を直に掛けてやったらどうなんだぞ?」
「魔法学院に入り込める程の隠蔽ができるなら、フィール程度では難しいかと···」
「取り敢えず補助魔法付与ってのも不審過ぎるか。まぁ石化耐性アクセサリーと眠り耐性アクセサリーは付けておこう。状態異常は毒や麻痺は俺やミリンミリンはもう大体効かないし、沈黙や魔力低下はノブミに効かない。モモミチも呪いや誘惑は無効。そのつもりならそこまで後手に回らないはずだ」
ヒカル達は石化耐性の黄金蜂の護りと、眠り耐性の羊の護りを身に着け、装備を確認した。
ヒカルは古代シリーズの防具と剣。モモミチはビショップシリーズの防具とメイス。
ノブミはタイガーリリーシリーズの防具とタリスマンロッド。ミリンミリンはミヅチのマフラーと鉄亀の腕輪を強化し斬鉄手裏剣とサハギンキングの銛を身に着けていた。いずれも石巨人戦より強力。
「虎が出るか? 蛇が出るか? 行こう!」
ヒカル達は結界を解き、看板を外し、生徒達に珍しがられたり、
「あ、ノブミじゃない?」
「なにやってんのあの子···」
等と噂されたりしながら一階のロビーに向かった。
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魔法学院の地下保管庫へは魔力式のエレベーターで移動する。
「胃と浮き袋が上に上がるんだぞ?」
「あんた浮き袋あるんだ」
最下層にはすぐに着き。扉が開くとエレベーター担当の小型ゴーレムが保護柵を開けた。
「こちらです」
案内する校長。一行が進むごとに先々の魔力灯が点いてゆく。
圧倒的な所蔵量であり、巨大な棚は迷宮のようであった。
「大き過ぎる博物館のバックヤード、てとこか···」
感心しながら独り言ちるヒカル。
「灰の装束に代わる、装備を生成しなくてはっ、我が校の権威が···」
水晶玉でなにやら資料を見ながら歩いている副校長。
「···勇者だか冒険者だかを始める前はなにをしてたんですの?」
間が持たなくなり、無視し続けるのを諦めたアズミ。
「ムラクモ湿原近くの郷で薬師をしてました」
「ムラクモ湿原?! そんな最果てまで行っていたの? 自分探しし過ぎて自分を見失っていたんじゃなくて?」
苦笑するノブミ。
「否定できません。でも、友達に見付けてもらえたので」
「クワっ」
「友達、ね···あなたはあたくしの視界にいない方がいいわ。この国でキャンデの血統は意味を持ち過ぎる」
「ええ、それは骨身に沁みています」
一行は校長の案内で進み続け、いくつかの硬く封じられた扉を開け、保管庫深部に至った。
「···勇者を冠する方々ならば御存知でしょう? 地上に、幾度魔王が現れようと、神は直接には早々介入しない」
押し黙っていた校長が歩みは止めず、不意に話しだした。
「しかし、間接的には手を出すのです。それは陰湿な物ですよ。運命の糸を操り、刺客となる勇者達を巡り合わせ、さらに魔族にはその刺客が眼前に現れるまで、上手く認識もできない···」
「神の聖なる導きと、邪悪な者どもに知られぬ護りのヴェールの祝福ですね」
強気の口調でモモミチが応えた。
「物は言いようです。ククッ」
校長の気配が変わる。副校長とアズミは困惑し、ヒカル達は身構えた。
立ち止まる校長。
「···来い」
ドゴォッ! 左右の床を突き破り、大型の貝型のモンスターのミスリルシンが2体現れ、催眠ガスを広範囲に吹き付けた。
ヒカル達はアクセサリーで防いだが、副校長とアズミは強制的に眠らされる。
「ハンド!」
念力魔法で眠った2人を救出して後方に避難させるノブミ。
「プロテクト! レジスト! ストロング! ううっ、セイン!」
連発負荷に手間取りつつ、補助魔法を一通り掛けつつ、正気魔法で副校長とアズミを起こすモモミチ。
「せぇあ!」
「クワッ」
殻ごとミスリルシン1体を両断して仕留めるヒカル。ミリンミリンも殻を閉じられる前に中身に斬鉄手裏剣を器用に投げ込んで内部をズタズタにしてもう1体を仕留めた。
「いい対処です。見た感じで、眠りなら通るかと思ってロビーで待ってる間に遠隔で仕込んだのですが、そちらも準備させてしまったようですね。さすが、勇者達です」
振り返ると同時に本性を表す校長。鳥の翼と蛇の尾を生やし、顔は金属の仮面に変わり、胸部に風穴が空き、その穴の向こうには星の世界が見えていた。
「校長?!」
「魔物っ?」
唖然とする副校長とアズミ。
校長は宙に浮き上がった。
「我が名はコスモマージ! 魔王軍八魔将が一角。目障りな魔法学院を反魔王軍から遠ざけ、内側から滅ぼすつもりでいたのですが、こうして対峙し! 認識できたからには捨て置きませんっ。勇者達よ! ここで死に滅びなさいっ!!」
コスモマージは重力弾を連射しだした。
「クワ〜ッ??」
「これは喰らうと止められるヤツだっ。上を取られるのもマズそうだぞっ?!」
「マナフレア! ハンド!」
爆破魔法で牽制しながら念力魔法で周囲の瓦礫等を浮かせて足場を造るノブミ。
「こんにゃろっ! あんた達もなんか援護しなっ」
瓦礫をビショップメイスで打って牽制に参加しつつ、呆けてる副校長とアズミに促すモモミチ。
「はっ! おのれっ、魔物が伝統ある我が校を汚すとはっ、アイス!」
「ノブミにばかり活躍させませんわっ、サンダー!」
副校長とアズミも凍結魔法と電撃魔法で援護しだした。
「魔法も得意ですよ? 校長ですからっ! ハハハッ、ブロウ! キャリバー! ノッキング!」
旋風魔法、霊剣魔法、地の衝撃魔法を同時多発的に広域連打するコスモマージ。
「うわっ?!」
「きゃーっ?!」
副校長とアズミは無力化させられたが、ここまで死線を潜り、勇者の力を全て得た4人は違った。
「ヒール! からの、ふんぬっ!」
全員に回復魔法を掛けつつ、メイスを投げ付けコスモマージの魔法の連打を止めるモモミチ。
「サイレンス!!」
「っ!」
フルパワーの沈黙魔法で一時的にコスモマージの魔法を封じるノブミ。
ヒカルとミリンミリンが浮遊する足場を飛び跳ね、コスモマージに迫る。
コスモマージは魔法を諦め、重力弾に切り替えたが、厄介な性質でも弾速の遅いこの攻撃は既に2人に見切られていた。
「もらった!!」
「クワッハっ!」
ヒカルの古代の剣とミリンミリンのサハギンキングの銛がコスモマージに打ち込まれた。
「···ッッッ!!! カァーーーッッッ!!!!」
サイレンスを解き、魔力の波動でヒカルとミリンミリンを弾き飛ばすコスモマージ。
「タダでは滅びませんよ? 逃げ場ありませんっ、この地下層ごと崩壊しますからね?! ハハハハッッッ」
胸部の風穴が拡大し、巨大な環状に変化したコスモマージの向こうの星の世界から、流星群が接近しだしてきた。
「この学院の学術的価値をわかっているのですか校長ぉっ?!」
「ああっ、もうおしまいですわ。あたくしの、6期連続生徒会長当選記録が···」
副校長とアズミは戦意喪失であった。
「残ってる部分を壊して止められないか?」
「あの輪っか、キュッて閉じたいんだぞ?」
「自決の対価の空間系。半端に壊したらヤバそうだけど」
「···完全に、壊します」
「「「え?」」」
ノブミの周囲に多重魔法陣が展開された。魔力が溢れ、その髪と瞳が妖しい紫色に変わって輝く。
「あれはっ?! 初代校長っ、ゼリ・キャンデ様の肖像そっくり!!」
「もぅっ、なんであたくしじゃないのーっ?!」
タリスマンロッドをコスモマージの輪の向こうの流星群に向けるノブミ。
「トゥルース・マナレイ」
真なる魔力の奔流が放たれる。流星が全て砕かれてゆく。
「なぁっ?! くっっ、認識を阻害されようと! 私が滅びれば異変は察知されます!! 我が同胞達がッ、必ずやっ、ぅぼぉおおぅ···」
コスモマージは星の世界への風穴と共に消し飛んでいった。
ヘタリ込み、魔力が切れ、髪と瞳の色が戻るノブミ。
「ノブミ!」
「凄いじゃんっ」
「出し惜しみクワ〜っ」
「はぁはぁっ···違います。ここまで完全に御先祖様の力が使えたのは初めてです。というか、もう、無理」
昏倒してしまうノブミ。
「「「ノブミーっ?!」」」
駆け寄るヒカル達だった。




