5話 河童と海
石巨人の遺跡に行くには水晶山脈の南の海峡を渡る必要があったが、山脈側の漁村は魔王の影響で増えていた水晶山脈の魔物の襲撃や海の魔物の襲撃で滅んでいた。
一行は一旦メジハ国に戻り、メジハの東の港町ン・バヨから荒れた海を渡れる船を出す許可を求めることにした。
「馬を使ってもさすがに遠かったね」
「ドンカセに寄っても続けてとなるとお尻と腰が···モモミチ、またヒールしてもらえますか?」
「あいよ」
女性陣は難儀したようだったが、
「里の伝承だと、昔はシルフの翼ってアイテムがあって、一発で行ったことのある街に飛べたらしいけどな〜」
「オイラ、馬好きだからまぁいいぞ?」
「ブルルっ」
「馬もオイラが好きだってさ! クワッハーっ」
男性陣? は呑気そうであった。
ともかく一行は馬借に馬を返し、王城に向かった。
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「船? いいぞぉっ! Yо!!」
王の許可はあっさり得られたが、
「勇者達よ! セイレーンどもを屠り、水晶竜を討ち取ったのその力を見込みっ、大商人ピザタンクと商船団を組み、無事、港町ツツイメに届けてやってくれ」
「「ピザタンク···」」
仕事に加えて思わぬ名前が出てヒカルとモモミチは困惑した。
「魔王城の島から妨害に違いないが、最近巨大イカの魔物ヘルクラーケンが沖に出没し船を襲うので遺跡のあるヌントラ島と交易できず、漁船も船団を組ませても近海までしか出せず困っておるのだ。Yо···」
「海の魔物退治でありますね」
「イカ釣りの餌だぞ」
「ミリンミリン、なんでも口に出せばいいという物ではないですよ?」
「ピザタンクの護衛···」
4者4様であったが引き受けるより他ない為、一行はン・バヨにゆく前に城下町で装備を整えることにした。
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水晶山脈で獲得して、ノブミの収納鞄とミリンミリンの水の収納能力で運べるだけ持ち込んだ素材類は中々のチャリンに化け買い物を全て終えても少し余裕があるくらいだった。
「段々贅沢になってきちゃったな」
ヒカルは鋼(上質の鉄鋼の通称)製の剣、兜、鎖帷子、盾を購入。モモミチはクレリックシリーズの兜と鎧も購入。
ノブミは気恥かしかったらしいズッキーニシリーズから落ち着いた見た目で性能も良い菫の魔女シリーズの帽子とローブに買い替え、杖は守備力を上げるシールドワンドを購入。
ミリンミリンはマフラーと腕輪を強化し、ヘルクラーケン対策にブーメランと槍は雷属性のスパークブーメランと水棲モンスターに効果の高い珊瑚の槍を購入。
「全額とはいかないけど、教会の難民街事業に寄付しようよ」
「ですね」
「賛成〜」
一行は寄付を済ませ、東の港町ン・バヨへ向かった。ピザタンク一行は既に待ち構えているらしかった。
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ン・バヨに着いたヒカル達は湾港近くの商人ギルドに向かった。
「チッ、よりにもよって出しゃばり女とお玉野郎とはなっ」
ピザタンクは想定通りの態度でヒカル達に対応した。おもむろに歪んだお玉とディフェンドメイスを抜くヒカルとモモミチ。
「なんなら続きする?」
「助太刀の準備はある」
「よ、よせっ。野蛮なヤツらめ! 言っておくが、船の手配や手間賃を持つのはこのピザタンクだからなっ?」
「どーでもいいからさっさと船団を出すんだぞ?」
「ヘルクラーケンの方は対処します。船団の戦力がメジハに提出された資料通りであれば問題ありません」
「私はメジハのギルドの幹部で、乗船もするのだぞ? 資料に誤魔化しはないっ」
人格に難はあるものの商人ギルド幹部としての気概はある風だと、ヒカル達は部分的にピザタンクの評価を改めることにしつつ、一行は乗船の運びとなった。が、
「なんであんたが私達の船に乗ってくんの? 自分の船に乗りなさいよ」
ピザタンクは護衛や取り巻きと共になぜかヒカル達の船に乗り込んできていた。
「う、うるさい! 竜やセイレーンを倒したというお前達の船が一番安全だろうがっ。高い金を払うのだ。このピザタンクは最大対価を得る権利がある!!」
「···手狭なのに、うざったいなぁ」
「まぁ護衛を連れてるから足しにはなるんだぞ?」
「わたくし達の船にも兵が増えるのは有益。船員や設備を狙われますからね」
「モモミチ、もう同じ船だ」
モモミチは不機嫌になったが、頑丈で魔除けも強く、バリスタを多数備えそれぞれ護衛も乗せたヒカル達のガレー船団はン・バヨを出航した。
「クワックワ〜ッ。ある日ぃ、オイラと皆でぇ、語りぃ合うったさぁ。オイラの偉大さ賢さ格好良さについて〜。ミリンミリーンっ、3時のおやつを全力待機ぃ。ミリンミリーンっ。湖水でめっさ泳ぎ速い、ルル、オイラを称えてぇ〜。オ、イ、ラ、をたーたーえぇて〜!」
甲板でミリンミリンは上機嫌だったが、ナーバスになっているピザタンクは違った。
「うるさい河童だ。サーカス団だな」
「はい、今複数のセンシティブを踏みましたね? 友好は反故とします。サンダーとファイア、どっちがいいですか?」
炎と放電を小さく出して構え、ピザタンクと取り巻きを怯ませるノブミ。
「おい、ヒカル! まともに話せるのが結局、辻斬りのお前しかいないのはどういうことだ?!」
「次斬りじゃないけど···ノブミもやめときなって」
一悶着起きていると、
「魔王の島だ!」
船員が叫ぶ。南方の海に半ば岩山で囲まれ、不自然にそこだけに暗雲が立ち込めた島が見えていた。魔王ワルーの居城のある呪われた島であった。
船団全体に緊張が走る中、唐突に海が荒れだし船団は揺さぶられ始めた。
「っ! 皿、ビンビンする!! デカいのが来るんだぞっ?!」
「敵襲だ! 戦えない人は船室にっ」
「触手は広範囲に被害を与えるはずですっ!」
「先に掛けとくね、プロテクト! レジスト! ストロング!」
「クワッハー!!」
護衛を除くピザタンクと取り巻きが慌てて船室に逃げ込むのとほぼ同時にまず巨大な触手が魔除けに焼かれながらも船団を襲い始めた。
ヒカル達は素早く撃退したが、他の船は払いきれず船に絡まれだす。そして、
ザザザザザザッッッ!!!!
大波を起こしながらやや離れた海上にヘルクラーケンが巨体を現した。
「クワッ?! オイラは取り敢えず波を鎮めるわんだぞっ!」
触手に続けて船団を襲う高波をどうにか抑え込むミリンミリン。
ヘルクラーケンは自分の他に水を操る者がいることを了解すると、ヒカル達の船に巨大で突進し始めた。
「サンダーじゃ止まりませんねっ、マナフレア!!」
ノブミの爆破魔法で船への直撃は避けられたが、間近に接近したヘルクラーケンは再び、初手よりも強引に触手をヒカル達の船に放ってきた。
船の魔除けに焼き、バリスタ水兵や護衛が反撃しても、船室や船倉、マスト等を守るので手一杯であった。
「ノブミとモモミチは触手対策頼むっ。ミリンミリン! コンビで行くぞっ!」
「今回、忙しいんだぞっっ」
波抑制から切り替えたミリンミリンと共に甲板から飛ぶヒカル。海上に出た触手の上も走るが、荒ぶる海面の上も当然のように走るヒカル。ミリンミリンは猛烈な勢いで泳ぐ。
「キシャアアアァーーーッッッ!!!!」
海上に出した眉間から上の部位を大きく開けて牙と無数の舌のような器官を剥き出し吠えるヘルクラーケン。
「どんな構造だよ?!」
「ヒカル感電とガスに気を付けるんだぞ?!」
吠えた器官にスパークブーメランを投げ付けて噛み砕かせ、内部から激しく感電させるミリンミリン。
「せぇあっ!!」
感電は跳んで避け、風上から回り込んで通電で怯んだヘルクラーケンの容易には斬撃を通さない眉間を一太刀で叩き割るヒカル。
「もういっちょおっ!!」
珊瑚の槍を傷口に打ち込み、その向こうの脳に当たる器官を破壊するミリンミリン。
ヘルクラーケンは力を失い、急速に黒く劣化腐敗しながら海中へと沈んでいった。
海も完全に静まってゆく。
「やったなっ、ミリンミリン!」
「クワっ!」
2人は凪いだ海に半身浸かったままハイタッチをして、船から呼び掛けてくる仲間達や船員達の元にゆるゆる泳いで戻っていった。




