3話 セイレーンの迷宮ではお静かに
勇者の墓の道中で手に入れた素材や換金アイテムを売却した一行は今の段階としては、それなりのチャリンを獲得した。
勇者の洞窟の北東の町ドンカセで早速装備を整えるヒカル達。
ヒカルは皮の帽子と盾に加えて皮の鎧を購入。モモミチは大体前衛で殴打するタイプであることも踏まえ、鱗の盾を購入。
ノブミは素早さを上げた方が現時点では生存率が高いと素早さの上がる栗鼠の指輪を購入。ミリンミリンは裸でないと落ち着かないのと水の属性強化を期待して、水の力を持つ清流のマフラーを購入した。
「ドンカセの西にあるセイレーンの迷宮に挑むには、誘惑対策と音の効果に対する耐性が必要ですが、さっきの買い物でチャリンが減ってしまいましたね」
「ゴブリン退治でもするか?」
「酒場に行って忍者を探そうよ?」
「移動と探索とバトルばっかりで飽きたぞ? 観光するんだぞっ、観光!」
「チャリンです」
「仕事!」
「忍者!」
「観光!」
ヒカル達はやや揉めたが、ドンカセの冒険者の酒場で忍者を探しつつ小遣いクエストも受注し、一仕事終わったらセイレーンの迷宮に行く前に軽く観光することになった。
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一行はゴブリン退治、珍しい魔法素材の花の捜索、空き家に出る幽霊の説得、詰まった水路の掃除、淀んだ溜め池の掃除、水草等が絡んでしまった水門の掃除等の仕事をこなし、目標のチャリンを稼いだ。
稼ぎで誘惑耐性の修道士の護り、音効果耐性の静寂のベルを全員分購入できたヒカル達。
「なんか最後の方、オイラが便利使いされてた気がする···」
「ふふ、ここらじゃ河童族は珍しいからな」
「というか酒場に忍者いなかったしっ。どっか忍んでるの??」
「準備は整いましたが、ミリンミリンの要望も果たさないといけませんね。この辺りならまだ観光もできますから、どうします?」
宿の部屋のテーブルに様々な観光資料を広げるノブミだった。
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セイレーンの迷宮は邪悪な女の人魚のセイレーン族が支配する迷宮。
ここには誘惑能力や音に関する特殊攻撃をする魔物が数多く潜んでいた。
「シャーッ!」
精神を乱す騒音を打ち鳴らす猿型モンスター、シンバルモンキーの群れを銅の剣で斬り伏せるヒカル。
「ポポポポっっ」
眠り効果の音波を放つ管楽器のごとき浮遊魚型モンスター、ユーフォフィッシュの群れを水を纏わせ強化したブーメラン攻撃と電撃の追い打ちで仕留めるミリンミリンとノブミ。
「ララァ〜、ルルっ、ぐぇっ?!」
強力な誘惑効果の歌声を放つ異様に口の大きな軟体生物型モンスター、キラーディーヴァの頭を棍棒で叩き潰すモモミチ。
一行は耐性アクセサリーをしっかり利かせてセイレーンの迷宮の魔物達を退けていった。
「ふぅっ、コイツらやっぱり音に敏感だね」
「結構手強いですし勇者の墓と違って完全なマップがあるワケでもないので、少々不便になりますがサイレンスの魔法を掛けて移動しましょうか?」
「音が聴こえなくなるのはちょっと危なくもあるな。ミリンミリン、範囲外に水の玉を浮かせて探知できるか?」
「えー? 触覚頼りで変な感じになりそうだけど···まぁやらないよりマシかぁ」
ヒカル達はノブミにサイレンスの魔法で音を消させ、補助的に周囲に飛ばしたミリンミリンの水の玉で探知を行ってセイレーンの迷宮を進むことになった。
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この迷宮の魔物達は聴覚に頼り過ぎていることもあり沈黙効果は覿面で、互い気付かず鉢合わせするリスクもミリンミリンの水の玉探知で最低限度は防げた為、ヒカル達は比較的安全に水場の多い、入り組んだ祭殿のような迷宮最下層にたどり着けていた。
ミリンミリンの皿とノブミのフィールで念入り探知をしてから、死角になりそうな物陰に霊木の灰と聖水で陣を張り、サイレンスの魔法の範囲を陣に限定して内部では音が響くようにすると一同は倒れ込むように気を抜いた。
「はぁ〜、聴こえるってありがたいな」
「話せるのも!」
「探知する水の玉維持も、しんど過ぎだぞ···」
「最終段前に少し休憩しましょう。あ、陣を拡大するのでトイレも確保しますね。男女別っと」
「ノブミ、毎回オイラを男子枠にするのはなんでだぞ? 河童は雌雄同体!」
「大体男の子じゃないですか」
「クワ〜??」
等といったやり取りもありながら、一行は小一時間程の小休憩の後、最下層の最深部へと出発を始めた。
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ヒカルはハンドサインでノブミにサイレンスを完全に解除させた。ミリンミリンも水の玉は攻撃用に転用する。
「あははっ! 人間だねぇっ?!」
「美味しそうだねぇ?!」
「河童までいるよ? あはは!!」
最下層深部はセイレーン族の巣窟となっていた。もはや、沈黙は悪手。総力戦で突破を試みるヒカル達。
ここまでの戦利品としてヒカルは鉄の剣。ミリンミリンは鉄の槍を獲得していた。
ヒカルはセイレーン達が効果のない誘惑の歌を連発している隙に次々と、新装備で高まった攻撃力で斬り伏せていったが相手も銛を構えてそれなりに反応する為、一気に一掃することはできない。
「っ?! コイツら、アクセサリーを使ってるわ!!」
対策に気付き出すセイレーン達。
ミリンミリンは強力でも付け焼き刃の槍はガード専門と割り切り、相手も水属性で効果の薄い水の弾は顔を狙った牽制として使用した。
「サンダー!」
水中にいる個体群には雷を連打して一網打尽を図るノブミ。
「プロテクト! レジスト! ストロング!」
物理と魔力の守備魔法を全員に、攻撃力強化魔法はノブミ以外の全員に掛けるモモミチ。
「ギィーっ!」
「餌になれ!」
生きてる者は慌てて水中から飛び出し、美しい人魚の姿で歌うのを止め、醜い半魚人の姿に変貌し浮遊して銛で突き掛かり、水の刃を放ち始めるセイレーン達。
「全員陸に上がってしまいましたね。結構広い空間···この間のガスはまだ使えるでしょうか? ハンド!」
ノブミは念力魔法で勇者の洞窟等で回収したガス詰めの革袋全て収納鞄から取り出し、離れた位置にいるセイレーン達に押し付け袋を握り潰してガスを浴びせた。
「「「?!」」」
眠り、あるいは麻痺してゆくセイレーン達。ガスはすぐに空気と反応して掻き消えていった。
ガスによって半数が無力化したことが決定打となり、ヒカル達はセイレーンの大群を全て撃破した。
「はぁはぁ、ナイス判断、ノブミ」
「いえ」
「回復するね、ヒール!」
「水系の敵、お互いあんま効かないから不毛だぞ···」
死屍累々のセイレーン達の先には勇者を象徴する鹿の神獣の紋様の閉ざされた石の扉があった。
「ヒカル」
「よしっ」
ミリンミリンとヒカルが手を翳すと扉は開かれた。
その先には光の力に包まれた広間があり、中央の台座には輝く銀のゴブレットが置かれていた。
4人は広間に進み、ヒカルとミリンミリンは銀のゴブレットを2人で掲げた。
(光の仔らよ、未来の子供達よ)
思念の声が響いた。
(善なる心は紡がれ、闇を打ち払うだろう。光と共に、希望のあらんことを···)
銀のゴブレットは砕け、光に変わり、ヒカルとミリンミリンだけでなくモモミチとノブミにも分割され祝福を与えた。
「あれ? 私達にも分けられちゃったよ??」
「2人の力が薄まってしまいます」
「いや、これでいい。ここにたどり着いた俺達4人がこの時代の勇者! それでいこう」
「4の人友情が合わされば勇者パワーも7倍だぞ?! クワーッ!!」
「どういう計算なの?」
「わたくしも、勇者···」
「なんとかなるさ!」
「漲るクワーッ!!」
想定とはやや違っていても一行は無事、最初の勇者の力を獲得することに成功し、地上へと帰還していった。
次なる力を水晶竜の住処に求めて。




