16話 魔王城の蜘蛛
ヒカルは自分の分のマキシマムエリクサーを飲み干した。
「ぷはっ」
全身、特に足腰と心肺に後遺症が残りかねないダメージを負っていったが、一瞬で全快した。
「さすがエルフの秘薬だ!」
正門前の乱戦は、少なくとも最初から野外に出ていた残存魔王軍は討ち取られつつあった。
と、陣の後衛に先程まで前衛で大斧を振るっていた妖精の軍勢の将軍が治療を受けながら下がってきた。
「一段落はついたがさすがに野営はしてられんっ。想定外もあるにしてもヒカル達を支援する突入隊100名を再選抜する! ワシも勿論参戦するぞっ?」
「助かります」
程なく野外の魔王軍残兵は相当され、反魔王軍連合もここで離脱する者達と正門前で待機して脱出の鏡で城から逃れた者を保護する者達、勇者達に同伴するより強い装備や所持品を託される者達に分かれることになった。
フラカンデーモン戦の結果、水棲種は大半離脱するが、待機組に加わる気概のある者達もいた。
「悪くない選抜だろ? 俺も冒険者やってた頃を思い出しちまうよっ」
100名選抜には司令官も加わっていた。
「中が狭そうなのが気に入らないねぇ」
ラミア族は女王を含め、20名も選抜を出していた。姿は一先ず人間型に変化する。
100名選抜は全員隠れ身のマントを装備していた。
「ヒカル、これを」
モモミチは自分の分のマキシマムエリクサーをヒカルに差しだした。
「いいのか?」
「ここでこれを渡せる私はいい仕事してるでしょ?」
いかにもモモミチ的だと思うヒカル。
「···いつもだよ、モモミチ」
「あら、ヒカル?」
「シュルルルゥッッ!!」
見詰め合った側からラミアの女王に蛇の威嚇音を上げられて、慌てて間合いを取り直すヒカルとモモミチだった。
そうして、
「「「マナフレア!!!」」」
「「「キャリバー!!!」」」
待機組の魔法使い達が2班に分かれて集団で真なる魔法に匹敵する火力の炸裂魔法で正門を突き破り、さらにその向こうの正面入口の扉も魔力剣魔力で打ち破った。
魔王軍はこれを予期していたのか? 単に兵力を温存したか? 正門内も正面入口の扉付近にも魔物の影はなく、ただ不気味な闇の気配が漂うばかりだった。
「まずは連中が大精霊神殿から奪った正しき道筋を示すという導きの羅針盤を回収っ、続けて先代魔王を滅ぼした神剣の在り処と魔王の居場所を突き止める!!」
勢い込む妖精将軍。
「魔王は住んでるだろうけど、羅針盤と神剣はホントに城にあるのか疑わしいんだぞ?」
「大精霊が探知しています。ここより安全な場所がないのと、どちらも光の力が強過ぎて持ち帰らせるだけで精一杯だったのではないでしょうか?」
「奪取と移送だけで、初期の魔将3体を失っておる。連中としても扱いかねる品なのであろうさ。かといって野放しにもできなかったようであるがねぇ。ホホホッ」
楽しげなラミアの女王。
「まぁやることがはっきりしてるのはいい。クエストとしたら3段階だ。羅針盤、神剣、魔王。俺達選抜100名は神剣辺りまでに使い切るつもりでいてくれよ。勇者達!!」
すっかり冒険者の心持ちになっている司令官。
「ああ、よろしく頼む! ···じゃあな」
白騎竜を撫でてやり、別れを告げるヒカル。
「行こうかっ、魔王城!!」
「「「おおおぉーーーーっっっ!!!」」」
ヒカル達は気合いを入れ、待機組に見送られながら城内へと侵入していった。
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全員、隠れ身のマントを装備しているとはいえ、緑色の陰火の燈台が灯る魔王城は静かだった。
「隠されておるだろうが、まずは光属性に限定して探知させてみよう」
妖精将軍に促され、選抜隊員の内、魔法の使い手十数名で探知補助アイテムの物見の玉を使って光属性の探知を始めた。
「「「フィール!!!」」」
結果は、この場にいる勇者4人の力が強く探知されただけだった。
「ふふん。やや複雑にはなろうが、魔将級以上に限定し、城内の闇の力を探知せよ。この段で最後の魔将が用もなくフラついてるということはあるまい」
ラミアの女王の案で、対象を絞った闇属性探知が行われた。
「「「フィール!!!」」」
果たして、城内の闇の気配に紛れ、3階の広間の1つから魔将級の気配が探知された。
「これが、魔王ってことはない。神剣か、羅針盤! どちらかを守ってるはずだ」
獲物を定めた冒険者の顔の司令官。
「中途の雑魚は我らが引き受けるっ」
ヒカル達は100名選抜に護られながら、魔将らしき反応のあった3階の広間を目指し始めた。
···魔王城は魔物も強壮であったが、トラップも致死的で、それでいて試練の為に造られた施設ではない為に宝箱等はなく、あるのは闇系の素材と魔物から拾得物のみであった。
出くわした魔物を退け、選抜の鍵師と忍者達が罠を処理し、忍者の活躍にモモミチが興奮し、忍者ばかり応援するモモミチに鍵師達の機嫌が悪くなり、と若干脱線はありつつも、脱出の鏡による選抜隊員の脱落は8名のみに抑え、一行は目当ての広間の扉の側までたどり着いた。
「扉が開いたら、ここは俺達で」
ヒカルは特にノブミに目配せした。
「よぉしっ、開けろ!」
「派手にやってやれぃ!」
「まぁ解錠魔法が失われてなければねぇ」
「「「キャリバー!!!」」」
呪い込めて堅く封じら鍵師や忍者も触れられない広間の扉は手練れ十数名の魔法剣魔法で斬り裂かれた。
ヒカル達4人が雪崩込む。
「プロテクト!レジスト!ストロング!」
補助魔法を掛けるモモミチ。
「盗っ人が来たね···」
広場全域に蜘蛛の糸が張り巡らされ、無数の蜘蛛型モンスター、タナトススパイダーが蠢き、その巣の深部に巨人の女と蜘蛛の中間のような魔物がいた。
「あたしは魔将アラクネクィーン。腹が痛いんだ···勇者の脳は薬になりそうだねぇぇっ!!!」
タナトススパイダー達をけし掛けるアラクネクィーン。
「トゥルース・マナエレクトン!!!」
火炎が有効そうではあったが、真なる火炎を使うには狭いと判断し真なる雷を放つノブミ。全ての蜘蛛糸とタナトススパイダーを感電させて焦がし、討ち滅ぼした。
感電しながら巨体を巣から落としたアラクネクィーンにミリンミリンのヒヒイロカネのブーメランを投げ付け、腕を数本切断する。
一手折れて水晶の剣でさらに多数ある手足を切断するヒカル。
「イイィィィーーーッッッ!!!!」
魔物の本性を剥き出して全身から毒針を放つアラクネクィーン。
ヒカルとミリンミリンはそれぞれ盾と剣と槍と水の弾の相殺で防ぎ、モモミチは巨大化させたシャマシュの鎚に陰に掴まえたノブミと2人で隠れて防いだ。
立て続けに残った手足で猛烈な連打をヒカルとミリンミリンに放つアラクネ
「俺が受けた方がいいなっ。任せた! ミリンミリン!!」
「クワッハーっ!」
「ヒール!」
「ファイア!」
連打はヒカルが1人で受けに掛かり、モモミチが回復させ、ノブミが通常魔法の火炎をアラクネクィーンの目元に放って牽制した。
激流に乗って間合いを詰めたミリンミリンはダゴン殺しを構え、必殺の一撃を、
ガキィインッッ!!
「クワっ?!」
突然、ヒカルが剣を振るってミリンミリンの槍に打ち付けてきた。
ヒカル自身も唖然としてる。その全身に蜘蛛の糸が絡み付いているのが見えた。
「速いヤツ。やっと捕まえたよっ!」
嗤ってヒカルを操り、ミリンミリンに連打を打ち込ませるアラクネクィーン。
「くっ」
「クワ〜っ??」
「聖印の対象外てすか! 厄介な能力っ。2撃目となりますけど、真なる魔法を」
「いや大丈夫っ!」
いきなりヒカルに突進するモモミチ。
「え?」
「なにっ?!」
一瞬判断の遅れたアラクネクィーン。
「ふんぬっ」
容赦なく巨大化させた神鎚でヒカルを広間の壁まで吹っ飛ばし、めり込ませるモモミチ。
「ヒール! よっ。ミリンミリンっっ」
めり込んだヒカルに回復魔法を遠隔で掛けた側から鎚をアラクネクィーンに投擲して怯ませるモモミチ。
「合点だぞっ!」
「サンダー!」
攻撃体勢を取り直すミリンミリン。ノブミが電撃でさらにアラクネクィーンを怯ませると、激流の渦と槍の旋回攻撃でアラクネクィーンの胸部に風穴を空けた。
「ううっ、腹が、痛くなかったら、もっと···うっ」
白骨化し、骨も塵と消えてゆくアラクネクィーン。その腹の辺に輝く黄金の立体羅針盤が落ちていた。
「クワっ? これ、導きの羅針盤だぞ!!」
「やったじゃん。そら腹壊すわ」
「皆さん、片付きました! あと、ヒカルが壁に埋められたのでレスキューしてあげて下さいっ」
「あ、ごめんねヒカル。助けたから」
「···」
ノブミに促されやんやと喝采して入ってきた選抜隊員に救出された瓦礫と糸屑だらけのヒカルは、しばらくセンシティブな顔をしていたのだった。




