11話 大精霊神殿
周辺の魔物の強さから届くかは微妙な所だったが、野営地から使い魔を希望の砦に送り、休息したヒカル達は話に聞いたラミア達の郷に立ち寄ってみることになった。
ヒカルはまだ持っていたミスリルの剣を間に合わせに装備している。
「あの傲慢なマッチョ魔族っ、始末してくれたのかえ?」
下半身が蛇の巨人の女の姿をしたラミアの女王は甘い香りの水タバコを吹かしながらヒカル達を前にしていた。
ミリンミリンは煙が苦手らしくマフラーで顔を半分覆っていた。
「間者からの報告でも確かな様子でございます」
「希望の砦の人間達にも使い魔が通った気配」
「出遅れますと···」
家臣の女王よりも小さなラミア達が囁く。
「ふんっ。あの廃都は我らラミア族が占拠する! 人間どもに遅れを取るでないっ。砂漠の統治を人間ごときに任せたことが間違いであったわ!!」
「「「御意っ!!」」」
ラミア郷は戦支度で慌ただしくなった。
ヒカル達が成り行きに戸惑っていると、その美しいがあまりに巨大な顔をヒカルとミリンミリンに近付けてきた。
「ヨキ殿とあの河童坊の子孫かえ···よく似ておるわ。ホホホッ」
「御先祖を御存知なのですか?」
「ヒカル、ラミアは河童より長生きなんだぞ?」
「歳のことはどうでもよいっ。であるが、褒美は取らせようぞ? これを」
大きな指先に出した砂の収納魔法の陣から清らかな気配の香炉を取り出す女王。
「聖竜香である。大精霊神殿辺りまでは魔物どもを寄せ付けまい。装備も宝物庫から好きに持ってゆくがよい」
「ありがとうございますますっ」
「気前いいんだぞ」
「助かりますね」
「聖竜香、実在したんだ···」
一行は強力な魔除けの香と新装備を得て、さらに南下し、ツノココ砂漠を抜け、比較的友好的な犬型獣人のワードッグ族の隠れ里に立ち寄り休息する等してから銀毛種の馬を借り、香の力も頼りに、東に延々と続く森林地帯へと入っていった。
そこから森林地帯ではワードッグ族に紹介状を書いてもらっていた兎型獣人ワーラビット族の隠れ里に立ち寄り、さらに東に抜け南に海を望む草原地帯を進み、北側の山地にある鹿型獣人ワーディア族の隠れ里に立ち寄り、馬はここに預け、そのさらに東にある大精霊神殿まで後一息、という所までたどり着くに至った。
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大精霊神殿まで最短ルートでは最後となる海辺の魔除けの野営地で、ヒカル達は野営していた。
星空が輝いている。焚き火とランタンの明かりが岩の上に置かれた薄く煙を吐く聖竜香を照らしている。
「神殿の神域まであと少しだが、香も明日までだな」
「思えば遠くまで来たんだぞ」
「僧侶の私が言うのもあれだけど、神様の采配があっても実際ここまで来たのは私達だからね」
「···ラミアの宝物庫で頂いた砂海ココアを淹れましょう。蜂蜜たっぷりで!」
一行は火を囲んで茶を飲み、旅の道行の話等を穏やかにしていた。
翌朝、聖域近くの平原の岩陰にヒカル達は隠れていた。聖竜香は既に切れている。
岩陰の遥か向こうには1体の強壮な魔族に率いられた魔物の大群がいた。
「平時なら不自然極まりない配置ですが、さすがに居ますね」
魔物達は休眠状態で待ち構えた状態。
「結果的に立て続けにこのルートで幹部を倒してるからな」
「聖域への参道はあと3本ある。でもかなり遠いのと、2本は魔王軍の攻撃で崩壊気味みたいだけど」
「もう1本も抑えられてるはずだぞ。でもここよりマシかも?」
一行は相手の様子や希望の砦や獣人達から得た資料を手に再考した。結果、
「やっぱりここを抜けよう。幹部はどのみち倒すことになるし、戦闘後、聖域に入れば安全を保てる」
「滅びの街やオイトの谷より初手の範囲攻撃もやり易そうですしね」
「やるかぁ、クワっ!」
「張り切って補助魔法掛けるわっっ」
ヒカルは龍鱗シリーズの防具と竜殺剣。モモミチはホワイトプロミスシリーズの防具とメイスを宝物庫の素材で強化している。
ミリンミリンは竜鱗のブーメランと槍、飛龍のマフラーとミスリル亀の腕輪を装備していた。ノブミに変更はない。
アクセサリー構成は滅びの街の攻略時と同じであった。
「行きます···トゥルース・マナクエイク!!」
真なる地の衝撃を放つノブミ。全個体地表にいた魔物の軍勢は半壊し、大混乱に陥った。
「プロテクト! レジスト! ストロング!」
モモミチの補助魔法を受けながら、起こした激流に乗るミリンミリンの甲羅に掴まり、ヒカルも一気に間合いを詰めてゆく。
「おのれっ! 我は魔将が一角、名は、ごふぅっ?!」
混乱の中、肥え太った魔将は名乗ろうとしたが腹に竜鱗のブーメランを投げ付けられ、さらに加速して飛び込んできたヒカルと斬り結ぶことになり、それどころではなくなった。
ミリンミリンも激流と共に突入し、激しい乱戦が始まった。
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···ヒカル達はボロボロになりながらも聖域へとたどり着いていた。
他の仲間達共々、エリクサーをガブ飲むするヒカル。
「ぷはっ、ちょっと強引過ぎたか?」
「出たとこ勝負だぞ?」
「とっとと行こうよ。休める場所もあるでしょ」
「大賢者の力を連発すると···起きて、られません···」
気絶してしまったノブミをモモミチが背負い、輝く植物等が生い茂る神秘的な聖域の中、一行は大精霊神殿を目指した。
古代の形式のままの石造りの神殿内は精霊達が飛び交い、主に妖精族達が護衛と世話係として仕えていた。
「こちらへ」
淡麗な容姿と長い耳を持つ長命なエルフ族の神官長が案内する。
「はっ? もう着きました??」
モモミチの背でノブミも起きた。
神殿の奥には眩く輝く若木が生えていた。凄まじい魔力を湛えている。
若木から3つの光が起こり、それぞれ植物の特徴を持つ双子の少女と頭頂部に葉の生えたケムシーノの姿に変わった。
「「「?!」」」
ヒカル達はケムシーノに困惑した。
「ワタシは神に代わり、地上で天地の精霊を束ねる大精霊、ルシュエマ」
「同じく、ラシュエマ」
「ケムーンっ!」
「「この時代の勇者達よ、苦難を乗り越え、よくここまでたどり着きました」」
「ケムケム、ケムゥン、ケムっ!」
「「「···」」」
葉っぱのケムシーノに気を取られ、もう1つ話が入ってこないヒカル達。
「勇者達よ、あなた達には魔王の島に渡る為にワタシ達が創造した、聖なる橋の精霊を召喚するランプと、先代勇者達の遺した、いくつかの聖なる武具を授けましょう」
「隠れ身のマントと妖精族の砦までの脚として、白騎竜も授けましょう」
「ケムンケムンっ!!」
「あ、ありがとうございますっ。ちょっと面食らってしまって」
「色々、未習熟でして···」
「センシティブなのかどうかもよくわからなくて···」
「似た立場でツッコミ難いんだぞ···」
ルシュエマとラシュエマは互いを見比べた。
「···意外かもしれませんが、ワタシ、ルシュエマは妹です」
「ワタシ、ラシュエマは蝶の羽根の一はためき程早くこの世に現れました。これは、センシティブではありませんので、言ってもらってよいです。『妹の姉ですね』と」
「ケムケムっ!!」
「「「···」」」
大精霊トークに戦慄させられる勇者達。
「妹さんの、お姉さんです、ね」
ヒカルは言わざるを得なかった。




