10話 滅びの砂漠
「ツノココ砂漠が有効な魔王領への入り口になっているのには理由がある」
希望の砦の司令官はマス目を付けた地図を前にヒカル達に解説を始めた。
「まず単純に、日差しと乾燥だ。魔物の中でもアンデッドや魔族は日光を苦手するヤツが多い。お前達が始末したデュラハン達も夜中に戦ってたら話が違ってきてたろ?」
「確かに」
「いるのわかってて夜中には行かないけど···」
「ま、そりゃそうだが。乾燥もだ。湿っぽいヤツだけでなく、植物系モンスターも苦手なのが多い。暑さもな。この辺は俺達人間もだが、対策すりゃいけないでもない」
「河童も砂漠はちょっと···だぞ?」
「そこは装備等でなんとかしましょう」
司令官は副官達に、地図上に魔王の島に最も近い半島まで駒を置かせた。
「魔王領と言っても、ようは人間が追い出されたエリアだ。連中にはまともな統治もない。正直俺達が全滅させられてもヤツらの治世は長続きしないと思うが···ま、それはともかく。置かせた駒は魔王軍に不服従の妖精族や亜人の類いの勢力地だ」
「意外と多いんだぞ」
「そもそも魔族って、人類と妖精族以外に関心薄いとこあるからかも?」
「連中としては、亜人等は協議が済んでいない魔物の一種、てとこなんだろ。協力する亜人も結構いるしな」
話を聞きながら半島までの地図と駒を見ているノブミ。
「···この配置だと確かに不服従種族の拠点を結んで大精霊の神殿を通って半島まで抜けられそうですね。大規模な行軍は正直難しいでしょうが」
「まぁな。最終決戦は海路を使うことになるだろう。だが、ツノココ砂漠の北のこの砦がある限り、連中も規模のある侵攻はやり辛く、こっちも小規模な隠密部隊なんかを送り込める寸法だ」
地図に、忍者の駒、をあちこち置いてみせる司令官。
「大精霊様の神殿や半島手前の岩山地帯にある妖精族の砦とも直接やり取りもできる。あそこまで進むと魔法石通信は妨害が酷く難しく、使い魔もほとんど上手く通せないからな」
「忍者が活躍してるぅっっ」
「他の職も参加してるはずだけどな···」
ヒカルに軽く訂正されているモモミチに困惑しつつ、紙の資料を一行に渡させる司令官。
「半島までの情報だ。特にツノココ砂漠は詳しく書いてある。もし、砂漠の滅んだ街の魔将を倒せたら砂漠のラミア族を訪ねるといい。ヤツらは全く人間に友好的じゃないが、あの魔将とは延々小競り合いをしていた。昔から武功は評価する種族だ」
「ラミア族か」
ヒカル達は改めて砂漠を通り進行することを決め、希望の砦でチャリンや物資を得て準備を整えて、砦を出発していった。
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砂煙の焼け付くツノココ砂漠を一行は歩いていた。
全員色の入った砂避け眼鏡を掛け、砂漠の日差しと砂と寒暖から身を守る砂海のターバン、マスク、マント、ブーツを着込んでいた。
服嫌いのミリンミリンもさすがに折れて着ていて、さらにさざ波の護りも身に着けている。それでも、
「あちぃ〜っっ」
対策してなお、河童族には無理のある砂漠の環境にミリンミリンはヘバっていた。
「ヒール! ほら、水と塩とナツメ、取っときなって」
あまりにもすぐバテる為、すっかりモモミチが世話係になっていた。
「夜は徘徊する魔物がかなり増えるらしい。資料の魔除けの野営地まで急ごう」
「最悪、少々目立ちますがフライで一気に移動してしまいましょう。夕闇に紛れればなんとか···」
一行は移動とミリンミリンの体調管理に苦労しながら、いくつかの小さな魔除けの野営地を中継して滅んだ街にたどり着いた。
そこは砂漠に栄えた王国の首都であった街。
今では滅びきり半ば砂に埋もれた街となっていた。
「ここに魔将が···」
「その者がここに手勢と居座っている為に希望の砦は常に防戦一方にされているようですね。ま、さっさと片しましょう」
ミリンミリン以外は砂海シリーズを解き、臨戦耐性を整える。ノブミはセッテで完成されている為変更はなかった。
ヒカルは魔獣の類い遺骸を素材とした魔獣シリーズの防具と剣。モモミチは聖なる力を宿すホワイトプロミスシリーズの防具とメイスを装備している。
ミリンミリンはミスリルのブーメランと槍、サーペントマフラーとプラチナ亀の腕輪を強化して装備していた。
「ここの配下は典型的な砂漠の魔物。魔将自体はパワータイプだ。アクセサリー確認しとこう」
全員物理耐性のダイヤの護りを身に着け、後衛2人は毒麻痺耐性のブーケの護り、毒麻痺に耐性のある前衛2人は回復効果のあるアンクの護りも身に着けた。
「相手の陣地だし入り組んでて広いから、ミリンミリンの皿探知利かして行こうよ?」
「うっ、オイラ、今、上手くやれるかな??」
バテ気味で自信なさけなミリンミリンだった。
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ミリンミリンがフラつきながらも皿探知を駆使し、一行は魔物との遭遇を避けて魔将の住処となっている崩れかけた神殿前に着いていた。
「じゃ、ノブミ。手筈通り」
「はいそれでは···先手必勝! トゥルース・マナフリーズ!!!」
大賢者の力を覚醒させて真なる凍気の魔力を神殿ごと炸裂させて粉砕した。
概ね冷気に弱い殿内の配下の魔物は為す術なく砕かれた。だが、轟音と共に氷山のごとき神殿の氷塊が砕け、四腕を持つ人の2,5倍低度の体長の角と牙持つ異形の戦士が飛び出してきた。
「プロテクト! レジスト! ストロング!」
素早く補助魔法を掛けて備えるモモミチ。
「デタラメな攻撃してきやがってっ、コスモマージとデュラハンロードを殺ったのはテメェらだな!」
四腕に持つ戦斧を振るって斬撃を飛ばしてくる異形の戦士。
ヒカルとミリンミリンはそれぞれノブミとモモミチを抱えて飛び退いた。
「俺様はジェノラクシャサ! この砂漠の地を牛耳る魔将が一角っ。生きてる者どもは出合えやがれ!!」
呼び掛けに街中から魔物が殺到しだす。
ノブミはエリクサーを飲み終え、改めて大賢者の力を解放した。
「雑魚はわたくしがっ!」
「ちょっと多いからっ、こっから私はノブミのフォロー専念だからね!」
「わかった!」
「任せたんだぞっ」
後衛組を残し、氷塊の上を陣取るジェノラクシャサに踊り掛かるヒカルとミリンミリン。
「俺はヒカル!」
「ミリンミリンだぁっ」
2体1でも打ち合いで競るジェノラクシャサ。
「テメェらなんだ?? 光の気配が強過ぎるっ。冒険者や叩き上げの将兵の類じゃねーな···勇者、てヤツか? ハハッ! そうかっ、とうとう出やがったか! 妙だと思ってたんだぜ? 偵察の成果が上がらず、軍議も話が纏まらねぇ。神の差し金かっ!」
「そういうことだっ」
「クワァーッ!」
持久戦では後衛組が持たず、純粋に戦士としての力が高いジェノラクシャサに正攻法では歩が悪いとも即断したヒカルとミリンミリンは目配せで呼吸を合わせた。
盾を囮に強引に突進し、盾を砕かれながらも剣の一振りでジェノラクシャサに防御姿勢を取らせるヒカル。
「よっとぉっ」
ミスリルブーメラン改でジェノラクシャサの腕の1本を切断し、速攻でミスリルスピア改に持ち替えて突進するミリンミリン。
「うおぉーーっっ!!」
「クワッハーっ!」
手数が一手減り、次々と2本の腕を落とされるジェノラクシャサだったが、
「カァッ!!!」
口から衝撃波を放ってミリンミリンを吹っ飛ばした。
「クワ〜っ??!!」
一腕になったジェノラクシャサと打ち合いになるヒカル。有意に進めるが、剣は今にも砕けそうだった。
「···」
手数に攻め切るのを諦め、魔獣の剣を逆手に持って腰溜めに構えるヒカル。
「一発勝負か! いい度胸、おっ?」
ジェノラクシャサが面白がったその時には超加速したヒカルは交錯し、その巨躯を袈裟懸けに両断していた。
「勇者か、なるほど、な···」
塵と消えてゆく魔将ジェノラクシャサ。ヒカルの剣も砕け散った。
「ふぅっ、武器が壊れるから後がないんだよな、この技···」
「皆っ、脱出しまぁすっ! トゥルース・マナリターン!!!」
ノブミが真なる帰還魔法を発動し魔力に包まれたヒカル達は、事前に陣を造っておいた砂漠の野営地の1つまで高速飛翔して、大群となった砂漠の魔物達が魔将の死に混乱する滅びの街を離脱していった。




