閑話休題 〜火照る縁側、冷える麦茶〜
その日、矢那真紅は地元の子どもたちに神楽舞の型を教える係を頼まれており朝から姿を見せなかった
「真紅って、そういうの真面目にやるタイプだもんね〜」
久保田柑那がそう言って団子をひとつ口に運ぶ。
茶屋の縁台には、井関藍羽とディアナ・グリーンフィールドの姿も並んでいた。
「団子……想像より、ずっと美味しい」
そう言いながら、ディアナは串に刺さった醤油団子をひと口齧る。香ばしい焦げ目と甘塩っぱいたれが口の中に広がると、思わず頬が緩んだ。
「でしょ〜? ここの団子はうちのばあちゃんが一番推してる名物なんだよ」
柑那が得意げに言うと、藍羽が横でそっと冷たい麦茶を差し出した。
「これも地元の大麦から煎ったもの。……陽の強い日は、冷えると沁みる」
「ありがとう。……ふふ、日輪国って、こういうのがさりげなく丁寧よね」
ディアナが麦茶をひと口。氷の音が、カランと静かに響く。
「でも意外だな〜。ディアナさんが団子食べてるとこなんて、なんかこう……もっと剣とか鍬とか、振ってる姿しか想像できなかったよ」
柑那の素直すぎる感想に、ディアナは目を細めて笑う。
「戦う時の顔と、普段の顔は違うの。……それは、あなたたちも同じでしょう?」
「まぁ、たしかに。普段の藍羽なんて“戦いの顔”どこ行ったって感じだしね」
「……余計なこと言わないで」
藍羽が小声で牽制するが、柑那は気にせず笑って団子の串をくるくる回す。
「でもさ、ディアナさんって、こういう素朴なとこも好きなんだね」
柑那が団子の串をくるくると指で回しながら言う。
「ええ。機能や効率とは違う、丁寧な時間が流れてるでしょう? ……こういうの、こっちに来るたび、ちょっと羨ましくなるの」
ディアナは微笑み、湯呑をそっと口元に運んだ。
「うちの村、観光地ってわけでもないけどさ。春と秋は結構いい景色になるよ。水の音も、鳥の声もさ……ちょっとだけ自慢かも」
「ふふ、今度は案内してもらおうかしら」
そんな言葉の合間に、柑那がひょいと藍羽の皿から団子を一本すっと抜く。
「ちょ、ちょっと……!」
「えーい、日輪の味は仲良く分け合う精神〜!」
「また勝手な理屈を……」
くすくすと笑いがこぼれる。午後の日差しが軒下を照らし、茶屋の縁側に柔らかな時間が流れていた。