やい、たぬき
『たぬき祭り』というのがあったので、こっそりと参加させてもらいました(たぬき好きさんにはたまらない企画ですね!)
ボクが一人で帰っていると、たぬきが一匹、こちらを見ていた。まだ子どもだろうか。小さい。ちょろっと寄ってきてはボクのスクールカバンに鼻をあてる。ニオイを嗅いでいるのか?
少し興味が湧いたボクは、たぬきに言った。
「やい、たぬき。お前は何かに化けられるのか」
たぬきはしばらくこちらを見つめていた。つぶらなひとみがウルウルしていた。鼻をヒクヒクさせると、影の形が変わった。気を取られていると目の前に、ボクがつけているキーホルダーと同じ怪獣が目の前に現れた。
「おお、化けられるのか、たぬき」
怪獣姿のたぬきは頭に手をやって少し嬉しそうに地面を見ていた。それが面白くて、いろんな人に化けてもらった。
「やい、たぬき。この冊子の先生に化けてみろ」
たぬきは、見た目通りの物に化けられた。よくボクをしかってきた先生の姿をしているたぬきに「怒らないでくださいね。気分が悪くなるので」と日ごろの鬱憤をぶちまけた。
たぬきはよくわかってないようだ。先生の姿のまま首を傾げていた。
面白がりながらメロンパンを食べていたら、物欲しそうに見つめてくる。先生の姿で。
さすがに嫌だ。
……そうだ。今日喧嘩した友人に化けてもらえないだろうか。嫌味の一つでも言ってやらないと気がすまない。
「やい、たぬき。この画像の人に化けろ」
ボクはスマホをたぬきに見せて言った。たぬきは正確に化けた。その姿を見たらなんだか腹が立ってきた。
「お前はボクの進路をバカにした」
「お前はボクの成績もバカにした」
「お前はボクの考えもバカにした」
友人姿のたぬきはバカ面で聞いている。鼻にちょうちょが止まったのを寄り目で見ていて、さすがに払い除けた。友人はそんなキャラじゃない。もっとすまして賢く、隙がない。
友人姿のたぬきの目がボクを見つめる。やめろ、そんな目で見るな。
「そんなにおかしいかな。中学を卒業したらボクでも行ける私学の高校に通って好きなこと見つかるまでのんびりしようっていう考えは」
たぬきはバカにせずに聞いている。友人の姿ではあるけど、なんか話を聞いてもらえてるみたいで嬉しかった。
「高校なんてそんなに重要じゃないよ。だってどうせ、働いたらみんな一緒でしょ?」
首を傾げつつ、メロンパンに手を伸ばすたぬき。ボクは一欠あげた。両手でもぐもぐ食べている。友人が絶対にしない仕草に笑った。
なんか。喧嘩の内容とか、どうでもよくなった。この話を友人にしてやりたい。何と反応するか気になるからだ。
「遊んでくれてありがとう、たぬき」
……それにしても、友人姿のたぬき。間抜けな顔をしている。ボクはたぬきの顔を横に引っ張った。
「ぶえ」
と鳴いた。
なんか、心配になるくらいゆるい表情が心配になってくる。「ちゃんと考えて生きろよ」ボクが呆れながら言うと、たぬきは元の姿に戻り、草むらに帰って行った。
「……ちゃんと考えて生きろ、か……」
たぬきに掛けた言葉が何故か自分に刺さった。少しだけ友人の言いたかったことが分かった気がする。
……ちゃんと謝ろう。
おわり。
最後まで読んでくれてありがとうございます!




