表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

やい、たぬき

作者: 白夜いくと

『たぬき祭り』というのがあったので、こっそりと参加させてもらいました(たぬき好きさんにはたまらない企画ですね!)

 ボクが一人で帰っていると、たぬきが一匹、こちらを見ていた。まだ子どもだろうか。小さい。ちょろっと寄ってきてはボクのスクールカバンに鼻をあてる。ニオイを嗅いでいるのか?


 少し興味が湧いたボクは、たぬきに言った。


「やい、たぬき。お前は何かに化けられるのか」


 たぬきはしばらくこちらを見つめていた。つぶらなひとみがウルウルしていた。鼻をヒクヒクさせると、影の形が変わった。気を取られていると目の前に、ボクがつけているキーホルダーと同じ怪獣が目の前に現れた。


「おお、化けられるのか、たぬき」


 怪獣姿のたぬきは頭に手をやって少し嬉しそうに地面を見ていた。それが面白くて、いろんな人に化けてもらった。


「やい、たぬき。この冊子の先生に化けてみろ」


 たぬきは、見た目通りの物に化けられた。よくボクをしかってきた先生の姿をしているたぬきに「怒らないでくださいね。気分が悪くなるので」と日ごろの鬱憤をぶちまけた。

 たぬきはよくわかってないようだ。先生の姿のまま首を傾げていた。

 

 面白がりながらメロンパンを食べていたら、物欲しそうに見つめてくる。先生の姿で。

 

 さすがに嫌だ。


 ……そうだ。今日喧嘩した友人に化けてもらえないだろうか。嫌味の一つでも言ってやらないと気がすまない。


「やい、たぬき。この画像の人に化けろ」


 ボクはスマホをたぬきに見せて言った。たぬきは正確に化けた。その姿を見たらなんだか腹が立ってきた。


「お前はボクの進路をバカにした」

「お前はボクの成績もバカにした」

「お前はボクの考えもバカにした」


 友人姿のたぬきはバカ面で聞いている。鼻にちょうちょが止まったのを寄り目で見ていて、さすがに払い除けた。友人はそんなキャラじゃない。もっとすまして賢く、隙がない。


 友人姿のたぬきの目がボクを見つめる。やめろ、そんな目で見るな。


「そんなにおかしいかな。中学を卒業したらボクでも行ける私学の高校に通って好きなこと見つかるまでのんびりしようっていう考えは」


 たぬきはバカにせずに聞いている。友人の姿ではあるけど、なんか話を聞いてもらえてるみたいで嬉しかった。


「高校なんてそんなに重要じゃないよ。だってどうせ、働いたらみんな一緒でしょ?」


 首を傾げつつ、メロンパンに手を伸ばすたぬき。ボクは一欠あげた。両手でもぐもぐ食べている。友人が絶対にしない仕草に笑った。


 なんか。喧嘩の内容とか、どうでもよくなった。この話を友人にしてやりたい。何と反応するか気になるからだ。


「遊んでくれてありがとう、たぬき」


 ……それにしても、友人姿のたぬき。間抜けな顔をしている。ボクはたぬきの顔を横に引っ張った。


「ぶえ」


 と鳴いた。


 なんか、心配になるくらいゆるい表情が心配になってくる。「ちゃんと考えて生きろよ」ボクが呆れながら言うと、たぬきは元の姿に戻り、草むらに帰って行った。


「……ちゃんと考えて生きろ、か……」


 たぬきに掛けた言葉が何故か自分に刺さった。少しだけ友人の言いたかったことが分かった気がする。


 ……ちゃんと謝ろう。









 おわり。

最後まで読んでくれてありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
化けろという命令は理解できるんですよね。 という事は話し手の言葉をある程度理解できているわけで……罵倒の言葉の一部も理解しているかと思うとちょっと可哀想ですね(;'∀') いやタヌキからすれば「なに…
 優しく、可愛らしいお話だと思います。  ありがとうございました。
色々化けさせられて罵声まで浴びせられたのに、報酬がメロンパン一欠では割にあわないような。 でも、声に出して言いたい事が言えたお陰で友達に言わなくてはならない事が分かって良かったです。 たぬきまつ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ