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菊池と並んで歩き、学校を出てバスのロータリーに着く。ロータリーに着くまで俺は周りの視線に警戒しながら歩いた。菊池は男子から人気、こんなところを誰かに見られたと思うとゾッとする。有る事無い事噂されるに決まっているからだ。周りをキョロキョロ見回している俺はさながら指名手配犯のようだ。
だがそんなそんな考えは杞憂だった。今の時間は部活をしている時間だ。下校している人はちらほらいるが、同学年の人はあまりいなさそうだ。
『ねぇ』
『な、なに』
『なんでそんなキョロキョロしてるの?』
『別に、てかなんの用?』
『私この街に引っ越してきたばかりだからさ、案内してよ』
『え、なんで俺』
『風間がいいと思ったの』
なんだそれ、、『晴に気があるんじゃないか?』ふと啓の言葉が頭をよぎる。いやいや、ないだろう。
そんなことを頭の中で反芻しているうちにバスが来た。
バスの中では、その事で頭がいっぱいで会話どころではなかった。
目的地に着くと菊池は目を輝かせながら辺りを見渡す。その姿はいつものクールで大人びた菊池と打って変わって幼く見えた。
『香織ちゃん』あれなんでいままたそう思った?
菊池に手を引かれ、ありとあらゆる場所に連れて行かされた。おしゃれなカフェ、でかいショッピングモール、繁華街。
体育で見学していたのに、こんな歩きまわって大丈夫なのだろうか。菊池は体育の時間はだいたい見学している。
『そう言えば、なんで見学してるの?』
『ん?』
『体育』
『あ、あぁちょっと体調がねぇ』
体調が悪いのだったらこんな寄り道している場合ではないのでは?と思った。
『じゃあ、もう帰った方がいいんじゃない?』
『もう治ったから大丈夫、ほんと全然平気』
この時の菊池はなにか焦ってるようにみえた。何かを隠しているような。そんな気がした。
歩いてると鋭い視線が刺す。周りを見渡していると小言が聞こえた。『あれ、風間じゃね?』『ほんとだ、風間だ』声のする方へ視線を向けると小学生時代の友達がいた。斎藤と川島だ。久しぶりだ。
俺が近づこうとすると彼らは一目散に行ってしまった。なんでだろう、小学生の時はよく遊んだ中だというのに。それもそうか、もう何年も会ってないし。
こんなもんだろう。
『誰?』菊池が不思議そうに聞いてきた。
返答に困った。ここで友達と言えば、じゃあなぜ彼らは逃げるように言ってしまったのかとさらに疑問を抱かせてしまう。
『んー、知人』
『ふーん』うまく言葉が出ず、結局疑問を抱かせてしまった。けど、菊池はなにも聞いてこなかった。
なにか特別な事情があると察せられたのだろう。
特段何もないのだが。
今日の持久走が響いているのかかなり疲れた。そうやって歩いているうちにかなり町はずれのとこまで来てしまった。
ここって、無意識にあの公園に来てしまった。相変わらず寂れた遊具、ボロボロのベンチ、手入れのされていない花壇。何も変わってない。まるであのときから時が止まっているように。
あれ、どうしてだろう。それ以外何も思い出せない。
『ここは?』立ちすくんでいる俺に疑問を思ったのか菊池が聞いてきた。その瞬間、形容し難い頭痛に襲われた。頭が割れるとはよく言ったものだ。本当に割れそうな感覚があった。
『ごめん、なんでもない。駅まで送るよ』
帰り道、俺たちは一言も会話をしなかった。
何も考える気にはなれなかったのだ。
家に帰ると俺は気絶するかのようにベッドに倒れた。