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ボーイ・ミーツ・ガールあるいはバディもの、もしくはダブル主人公

ベランダは紙飛行機の吹き溜まり

 ――ここは風の街。風のきまぐれで不思議なことが起きる街。


 そして、ここは、すべての風の終着点。


 風に吹き寄せられたいろいろなものが集まってくる場所。


 * * *


「これも、本当?」


 ――本当。


 ――そうそう。


 ざわざわと風が鳴る。楽し気なささやき声が、少年の周りで響いた。


「ふーん」


 少年は風の声に相槌を打ちながら、開いた紙飛行機の折り目を丁寧に伸ばす。


 そうしてまた、紙に書かれた文字を一番最初から読み返す。


 今日あったのは、これ一つきりだから、大切に読むのだ。


 ――読んで。


 ――もう一回。


「また?」


 風の声に渋るような返事をしていても、少年の声には弾むような楽し気な色が乗っていた。


 少年の周りには、風が集めてきた綺麗な色の木の葉や木の実、キラキラした紙の切れ端が散らばっている。


 木々に隠されるようにして存在するこの場所は、朽ち果ててその名残すら見つけることは難しいのだが、かつて偉い人の住んでいたお屋敷のベランダ部分にあたるらしい。


 それも、いつか読んだ紙飛行機の中に書かれていた文章で知ったことだ。


 そして、この場所に時折飛んでくるそれらの紙飛行機に書かれたことが真実なのだと教えてくれたのは、少年の周りをざわざわと揺らすこの風たちだった。


 少年はいつものように、紙飛行機に書かれた言葉を、風に向けて読んでいった。


 * * *


 窓を開けると、風が吹き込み、少年の声が聞こえる。


「今日も、届いた」


 少女はかすかな声でつぶやくように声を落とした。同意するようにひゅうっと風が部屋の中を吹き抜ける。


 いつだったか、夢見た内容を書き記した紙を、気まぐれに紙飛行機にして飛ばしたのだ。


 そして、これもまたいつからか、その紙飛行機に書かれた夢の物語を読んだ誰かの声が聞こえてくるようになったのだ。


 窓の外を見ても、近くに声の主は見当たらなくて、自分にだけ聞こえる幻かもしれないと思いながらも、夢の話を書き記しては紙飛行機にして飛ばす行為はやめられなかった。


 少年は、書かれた物語を本当のことだと信じているようで、窓を開ければその弾んだ声を風が届けて来る。


「うそ、なのに」


 いつからか見るようになった不思議な夢。ただそれを書き記しただけなのに。そう思いながら、少女はつぶやく。


 びゅうっと抗議するように風が少女の髪を乱していった。


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