女神像を守った日の夜明け。
委員会の活動時間を終了し、シャーロットはくたくたのまま帰宅した。もう日も落ちていた。
「リッカのお散歩が……」
もうこれだけが楽しみで、やっとの思いで帰ってきた。女子寮で健気に待つワンコに癒されたいのと、遅くなってしまったことへの罪悪感。シャーロットはごちゃ混ぜの気持ちだった。
「シャーリー、おかえり」
鍵は開けたままだ。扉を開けると、一目散にリッカがやってきてくれた。彼は尻尾を振りながら、シャーロットの周りをぐるぐる回っていた。
「リッカぁ……」
シャーロットの疲れは一気に飛んだ。リッカの為ならば、体力を使おうと、神経をすり減らそうと。やっていけると思えた。
「遅くなってごめんね。お水は大丈夫だった?」
リッカ用にボウルをいくつも用意していたが、それらは空になっていた。
「うん! 僕、今日のお散歩でね、お水飲めるところも見つけたの。泉があったんだ!」
リッカはご機嫌に語っていた。シャーロットはしゃがんで、彼の話を聞く。
「そうなのー。あれ、お散歩行ってきたの? アルトが連れていってくれた?」
「ううん。アルトも来なかった。僕、散歩中に聞いたんだ。アルト、モルゲンにつかまってるって」
「ああー……」
シャーロットはリッカの話を理解した。アルトはおそらく、授業もそれほど出ていなかったのだろう。それが、どういう風の吹き回しか登校はするようになった。手始めにモルゲン、明日は別の教師と。彼の放課後はこうして拘束されることだろう。
「……そうだよね。アルトにはアルトの生活もあるわけで」
アルトもリッカを可愛がってくれているが、どこまでも甘えるわけにもいかない。
「そっか。じゃあ、リッカは一人でお散歩いったんだねー。……一人で?」
「うん! 僕、隠れながら行ってきたよ! ドキドキしたけど、楽しかった!」
リッカはへっへっと満足そうだった。
「もう、リッカは……」
シャーロットはリッカを抱きしめた。この子は学園内でのトラウマがある。シャーロット達と出逢うまでは怯えるように生きてきたはずだ。
「シャーリー。僕は大丈夫だよ。だって、シャーリーがいてくれるから。僕のことは心配しないでね。ここのお姉さんたちも優しいし」
「うう、リッカ……。私ともお散歩行こうねぇ……。私も頑張るからねぇ……」
「えへへ。僕、朝のお散歩だけでも充分なんだ……」
シャーロットは朝の散歩だけは何が何でも死守していた。本当ならば、夕方の散歩だって行きたい。なんならずっとリッカといたいくらいだ。
「そういうこと言わないで、たくさん行こうね……」
シャーロットを心配させまいとしていたリッカ。シャーロットはさらに抱きしめた。
「……」
その日を終え、シャーロット達は部屋の灯りを消す。就寝することにした。シャーロットはというと眠れず、体だけ起こしてベッドの上にいた。
「シャーリー」
足元でうずくまっていたリッカも、起きていた。
「うん、眠れなくてね」
「僕も」
リッカは枕元まで移動した。シャーロットの隣に座る。シャーロットに撫でられ、安心した笑顔を見せた。
「ふふ……」
リッカと流れる時間を過ごした。カーテンは開けたまま、空もやがて白み始めていく。シャーロットは窓辺に立った。リッカもついてきたので、シャーロットは抱え上げた。
いつもなら、この頃には。――女神像が破壊されていた。
「あ……」
美しき女神像は、今日も健在だ。もう女神像は壊されることはない。――シャーロット達はこの日を乗り越えられたのだ。
「ふわぁ……。ホッとしたら眠くなっちゃった」
シャーロットは寝不足確定だろう。それでも心は充分に満たされていた。
「へっへっへっへっ」
リッカも大好きな女神像は、今日も美しかった。




