まさかのクラスメイト。
一年生の教室は一階にはある。ただ、肝心のクラスがどこなのか、シャーロットは伺っていなかった。職員室も同じ階だ。まず、そちらに向かうことにした。
「でさ、同じクラスかな? 同じクラスだよね? だって、俺達運命じゃん……?」
「残念だったな、アルト。運命じゃないんだな」
「……は?」
廊下の向こうからやってきたのは、モルゲンだった。彼の隣にいる女性がいる。童顔で小柄な彼女は教師のようだ。制服を着ていないから、シャーロットはそう判断した。着ていれば、生徒だと判断しかねなかった。
「先生。彼女がシャーロット・ジェムです。あとはよろしくお願いします」
モルゲンは隣の女性にバトンタッチした。
「はーい。初めまして、ジェムさん。私があなたの担任のパロットです」
「はじめまして。シャーロット・ジェムと申します。よろしくお願いいたします」
モルゲンではなく、彼女がシャーロットの担任教師だった。シャーロットも挨拶をした。
「それじゃ、行きましょうか。教室はこっちよ」
「はい、お願いいたしします。では、モルゲン先生失礼します。アルトもありがとね」
シャーロットは担任教師の説明を聞きながら、歩いて去っていった。兄弟が残された。
「ええー、同じクラスじゃないとか……。なにこれ、悪夢……?」
「諦めろ。現実だ」
「はあ……。つか、兄貴だって担任じゃないじゃん。運命とか違うじゃんか」
「――俺はいいんだよ。このくらい気にしない」
「はい、強がりキタ。……はあ、兄貴の相手しててもしょうがないし。休み時間の度に逢いにいけばいいか」
シャーロットロスを埋める為、アルトはそれで妥協することにした。待て、と呼びかけたのはモルゲンだ。彼が弟にした話は、苦言ともいえた。それを聞いたアルトは、承知しかねたが。
「ええー……でも、シャーロットの為……。ぐぬぬ……」
モルゲンから言われた内容に、渋々承知するしかなかった。
アルトは課せられてしまったのだ。シャーロットのより良い学園生活の為。過度の干渉を控える為にと。
「みんなー。このクラスにも編入生がやってきました。仲良くしてあげてねー」
「……」
授業開始前の朝礼時。シャーロットは教室の黒板前、一人で立たされていた。クラスメイトからの視線が集中する。緊張のあまり、背中に汗が伝う。
「……シャーロット・ジェムです。よろしくお願いします」
シャーロットはなんとか口にすると、一礼した。頭を下げながら、彼女は頭をぐるぐるさせていた。もっと、気の利いたことは言えなかったのか。趣味とか、好きな食べ物とか、それこそ一発ギャグとか。シャーロットは今からでも足そうとしたが。
「――シャーリーちゃん、よろしくー!」
飛び抜けて明るい声がいた。一番後ろの席に座っている男子生徒からだ。はい、拍手と彼が言うと、他のクラスメイト達も拍手をしてくれた。
「って、さっそくあだ名かよ!」
「なんか、響き可愛くない? いい感じだろー?」
他の生徒に絡まれながらも、楽しそうに笑う彼。シャーロットに覚えがある彼だ。
「あ、オレはね。ロルフ・ヴァールザーガー! 気軽に呼び捨てでも君づけでもいいんでねー!」
「は、はい」
「シャーリーちゃん、かたいかたいってー。オレら、タメなんだからさー」
「……うん、よろしくね」
この男子生徒、ロルフによってシャーロットの緊張は解きほぐされた。シャーロットは不思議な感覚だった。
ロルフとはループの中で一度、会ったことがあった。彼が男子寮の寮長であることも知っている。その時も親しみやすく、親身にもなってくれる存在だった。あと、犬好きなのか、リッカのことも可愛がっていた。
シャーロットは本当に不思議だった。ロルフに対してこんなにも。――懐かしい思いがしていた。
「で、先生! オレの隣、空いてるんだし、いいよね? シャーリーちゃん、こっちこっち」
ロルフの隣は空いていた。後方の窓側の席。良席でもあった。
「そうね。ジェムさん、そちらの席に着いてもらっていい?」
「はい」
シャーロットは指定された席に座ると、さっそく隣の席のロルフが話しかけてきた。
「よろしくよろしくシャーリーちゃん! オレ、すげー話しかけるからさ」
すでにこの勢いだ。よほどのマシンガントークが予想された。
「うん。私も頑張ってついてくね」
「お、その意気。いやぁ、健気な子はいいわー。本当いいわー。隣の席とかもさ、最高!」
ロルフは頬杖ついて、シャーロットを眺めていた。喋りの勢いは潜め、彼はしみじみと言う。
「――これってさ、運命じゃね?」
「え――」
ロルフの突然の言葉。シャーロットが戸惑っている時、教室の後ろの扉が開かれた。
「――遅くなりまして、申し訳ございません」
息を切らしながら入ってきたのは、リヒターだった。
「珍しいわね、リヒター君。委員会のお仕事が長引いたの?」
「……いえ、寝坊です。完全なる自己管理不足です。申し訳ございませんでした」
教室がざわついた。あのリヒターがそのような理由で遅刻をするのかと。
「……本当に珍しいわね。いいわ、席に着きなさい」
「はい」
リヒターもまた、後ろの席だった。彼は廊下側であった。
「……」
シャーロットはひたすら衝撃を受けていた。まさか、同じ学年とは思ってもいなかったのだ。しかも同じクラスだった。
「……ああ、ジェム様」
「お、おはようございます」
「おはようございます」
シャーロットに視線を寄越したリヒターと挨拶を交わす。リヒターは今度こそ席に着いた。
朝礼が終わり、休憩時間となった。
「……ねね、シャーリーちゃん? 『リヒリヒ』といつの間に知り合いなの?」
「り、りひりひ?」
随分と可愛い響きだ。シャーリーとも良い勝負なくらい。
「あっ、リヒター君のことね。オレが勝手にそう呼んでるだけ」
「……出来ることならば、ご容赦願いたいものです」
遠くから聞こえるは、リヒターの声だ。彼はどこ辟易しているようでもあった。
「ごめんて、リヒター君。あれ、どっか行くのー?」
「はい。朝の件で、カイゼリン様にお詫びをしに参ります」
「……へー。カイゼリン様一色だねー?」
楽しそうに言うロルフに、シャーロットの方がギョッとした。彼が陽の者なのはわかっていても、ここまでぶっこむのかと。
「……はい。『私』はカイゼリン様が全てです」
対するリヒターも迷いなく言った。聞き耳を立てていたクラスメイト達は声が上がった。一部で黄色い悲鳴を上がっていた。
「そっかそっか、いっておいでー」
「失礼致します」
リヒターは誰を見ることもなく、教室をあとにした。
「やっぱり。わあ、やっぱりそうなんだ」
「……あんれー、シャーリーちゃん?」
ときめいているのはシャーロットもだった。それはリヒター一人というよりは、リヒターとカイゼリンの関係性についてだ。尊いとキュンキュンしていた。




