幼馴染君との初登校。
翌朝、ついにこの日がやってきた。支度を終えたシャーロットは、寮の自室、玄関に立っていた。
「……学生生活」
どうしても冬花の頃の記憶を引きずってしまう。最初の一歩が踏み出しづらかったのだ。
「シャーリー、いってらっしゃい!」
「リッカぁ……」
純白のモフモフがお見送りに来てくれた。そう、今は励みになる存在もいるのだ。シャーロットはよし、と扉に手をかけた。
「行ってくるね、リッカ」
「うんっ」
心強い存在だった。
「あ。おはよー、シャーロット!」
通りすぎる女子生徒に、ちらちらと見られる男子生徒。彼は、シャーロットを見ると大きく手を振っていた。そして、駆け寄ってきた。その様は大型犬だった。
「アルト。おはよう」
見慣れた姿にシャーロットは胸を撫でおろした。
「え、アルト君、あんな感じだっけ……」
「なんか、別人というか……」
見慣れない姿に、他の女子生徒達は驚いていた。アルトは特に気にもせず、話をする。
「ほら、学生生活じゃん? こんなん、一緒に登校するしかないじゃん?」
「一緒に登校してくれるの? 良かった、安心した」
安心したシャーロットは柔らかく笑った。
「……こんなん、一緒に登校一択じゃん」
その笑顔に、アルトも照れながらも笑った。だが、笑顔も一転、苦々しそうな顔になった。
「……昨日だけど。リヒターにもさ、譲ることになったからさ」
本校舎に向かいながら、二人は話をしていた。アルトが言うのは昨日の件だ。
「……そうだね。昨日約束してたのに。ごめん、アルト」
昨日、アルトは帰ったと。リヒターがそう淡々と述べていた。リッカを預けにいく流れにならず、流れてしまっていた。遅くなってしまったが、シャーロットは謝罪した。
「それはいいんだよ。俺、わかってるからさ。シャーロットが頑張ってるの」
「うん、ありがとう……」
「なので、俺。リヒターにはすごい顔するだけで、すましといた!」
「どんな顔……」
シャーロットが思い浮かべたのは、あの風呂嫌い犬の、シャンプー時の顔だった。あれくらいのすごい顔をしていたのだろうか。
「あとさ、あいつ言ってた。『ジェム様は自治委員会のものになります』とか。あれは、あかんわ。……なにあれ」
「え」
心底嫌そうに言うアルトの発言。シャーロットは度肝を抜かれた。昨日、リヒターが女子寮入口にて説明した時は、本当に淡々としていたのだ。何事もないかのような口ぶりだった。それにしても、決まりきっていた言いぶりでもある。
「まあ、そうだね」
「え!」
リヒターの発言は間違ってはいない。シャーロットが所属したのは確かだ。ショックを受けているアルトに、シャーロットは補足した。
「私、補佐の補佐になったんだ。えっと、リヒターさんの補佐にあたることになって。当初の目的は果たせたから、感謝はしてるの」
「ええ!?」
アルトはより衝撃を受けていた。すごい顔もしていた。なるほど、こういう顔かとシャーロットは思っていた。呑気な話だ。
「そ、そ、そんなん、絶対危ないって!」
「いや、危ないって……」
「だって、二人きりが増えるじゃん ?シャーロット可愛いじゃん? あいつムッツリじゃん! 絶対危ないって!」
「ちょ、ちょっと、アルト……」
登校途中の生徒達が一斉に二人を見る。学園の有名人のアルトと、謎の女生徒。元々注目はされていた。さらに、ムッツリ発言だ。
「ああ、今すぐにでも取り消しさせてぇ……」
「いや、危ないってことないし。あと、人のことムッツリ言わないの。そこは訂正しよう?」
「やだやだ。あいつ、絶対にムッツリだし」
「やだ、じゃないの」
「やだったらやだ。……まあ、シャーロットに警戒してもらうしかないか。いつでも、俺のところに逃げ込んでおいで? ね?」
アルトが両手を広げてくれたので、シャーロットは気持ちだけ受け取っておいた。あの堅物の男に、この自分が。それはないだろうと苦笑した。
それでもアルトが言う通り、ムッツリは言い過ぎとしても、そうした好意を寄せるのならば、その相手のことをシャーロットは想像する。
「ふふ」
シャーロットは微笑ましくなって、笑ってしまった。
「とにかく。私というよりは、別の方かもよ?」
「ええー? そう?」
「そうだよ。ほら、仲が良さそうな女性いるでしょ?」
「ええー……?」
それが誰かなのか、までは言わない。シャーロットはヒントだけ出しておいた。アルトはピンとこなさそうだった。恋愛に聡そうな彼にしては珍しかった。
「あ……」
そうこうしている内に、本校舎の前まで着いていた。シャーロットは息を呑む。それでも。
『シャーリー、いってらっしゃい!』
送り出してくれたリッカも。
「行こ?シャーロット」
怖がっているのを察したのか、優しく声をかけてくれるアルトも。
「うん」
シャーロットの背中を押してくれる。シャーロットは本校舎に足を踏み入れた。




